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第7章 黒猫
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(カイン視点)
「ただいま、セレスト」
部屋に帰り灯りをつけながら声をかけるとニャア、と奥から声が聞こえた。
「……そのリボンはどうしたんだ?」
足元へとやってきたセレストの首に赤いリボンが巻かれているのを見て俺は眉を顰めた。
リボンなど、そんなものを彼女に与えた覚えはない。
「外に出ていたのか?」
一日中狭い部屋に閉じ込めておくのも可哀想かと、小窓を猫が通れる程度に開けてある。
外に出すことに危険を感じなくもないが、何かあればすぐに分かるしセレストは賢いから大丈夫だろうと判断したのだ。
けれどこれまで彼女が外に出かけていた様子はなかったのだが……今日は外に出る気になったのだろうか。
抱き上げるとその身体、いやリボンからほのかな花の香りがした。
――この香水の香りには覚えがある。
「まさか……『マリアンヌ様』に会ったのか」
「ニャア」
肯定するようにセレストは俺を顔を見て鳴いた。
ソファに腰を下ろしてセレストを膝の上に乗せる。
「このリボンはマリアンヌ様から貰ったのか……痛っ」
リボンを解くと、セレストは怒ったように唸り声を上げ小さな爪で俺の手を引っ掻いた。
「ちょっと調べるだけだって、すぐ返すから」
攻撃してくる前脚を避けながら、手の中のリボンへ自分の魔力を巡らせる。
――おそらく自分で刺繍したのだろう、リボンに強く残るこの気は間違いない。
図書館で会った時に感じた気と同じものだ。
本物のマリアンヌと似ているようで異なる、あの気の持ち主。
「……何者なんだ、あのマリアンヌ様は」
「ニャーア」
リボンをセレストの首へ巻きながら呟くと、答えるように鳴いてセレストは俺の膝の上で丸くなった。
「お前は知っているのか?」
喉を撫でると気持ち良さそうにゴロゴロと鳴らす、その様子は……上機嫌に見える。
「お前の言葉が分かればいいんだが。さすがに猫に人語を喋らせる術は知らないからな」
母なら分かるかも知れないが、今となっては調べようもない。
あのひとは自身の技術を文字には残さなかったから。
自分が二人の兄と、いや屋敷にいる他の人間と異なると気づいたのは六歳の時だった。
他の者には見えないものが見え、聞こえないものが見える。
母に告げると、それは自分の血筋のせいだと言われた。
母はミジャンという遠い国出身で、この国には存在しない黒魔術を使うのだという。
俺にも魔力があるのだと分かった母から、俺は魔術を学ばされた。
それは逃げ出したくなるほど厳しかったが、しっかり知識と技術を身につけなければその身が破滅することもあると言われれば向き合わざるを得ない。
そうして俺は五年前に母が死んだ、その直前までみっちりと黒魔術を仕込まれたのだ。
母の一族はミジャン王家に仕える黒魔術師の一族で、その魔力も技術も随一だという。
それに匹敵するほどの力を俺も身につけたらしいが、この国でそれを使うことはない。
宝の持ち腐れだと思いながら、母の死後家を出て、学園の図書館司書というまずまずの職を得た俺はこのままのんびりと生きていこうと思っていた。
そんな俺の前に現れたのが、マリアンヌ・バシュラール侯爵令嬢だった。
この国でも有数の侯爵家の娘で、第二王子の婚約者。
そんな華やかな肩書きを持つ彼女は凛とした美しさを持っていた。
よく図書館を訪れるマリアンヌ嬢を、最初は美人だなくらいの気持ちで見ていたが、やがて彼女が時折暗い表情を見せるのが気になるようになっていった。
そうしてある日、高い所にある本を取ろうとしていたマリアンヌ嬢を手助けしたのがきっかけで、言葉を交わすようになったのだ。
「セレスト」
膝の上で丸くなったセレストを撫でながら声をかける。
「悪いな、まだここを出て行く目処が立たないんだ」
ピクリ、と黒い耳が動く。
頭を上げると空色の瞳が俺を見た。
「後任が見つからなくて。年度途中は難しいらしくてな」
今頃はとっくにこの国を出ている予定だったのだが。
「ニャア」
声を上げるとセレストは俺の手に頭を擦り寄せてきた。
頭を撫でると喉を鳴らす、それは気にするなと言っているように聞こえた。
「……本当に、お前の言葉が分かるといいんだけどな」
「ニャアー」
少し悲しそうな声を上げたセレストを抱き上げると、俺は目の前の小さな黒い鼻に軽く口付けを落とした。
「ただいま、セレスト」
部屋に帰り灯りをつけながら声をかけるとニャア、と奥から声が聞こえた。
「……そのリボンはどうしたんだ?」
足元へとやってきたセレストの首に赤いリボンが巻かれているのを見て俺は眉を顰めた。
リボンなど、そんなものを彼女に与えた覚えはない。
「外に出ていたのか?」
一日中狭い部屋に閉じ込めておくのも可哀想かと、小窓を猫が通れる程度に開けてある。
外に出すことに危険を感じなくもないが、何かあればすぐに分かるしセレストは賢いから大丈夫だろうと判断したのだ。
けれどこれまで彼女が外に出かけていた様子はなかったのだが……今日は外に出る気になったのだろうか。
抱き上げるとその身体、いやリボンからほのかな花の香りがした。
――この香水の香りには覚えがある。
「まさか……『マリアンヌ様』に会ったのか」
「ニャア」
肯定するようにセレストは俺を顔を見て鳴いた。
ソファに腰を下ろしてセレストを膝の上に乗せる。
「このリボンはマリアンヌ様から貰ったのか……痛っ」
リボンを解くと、セレストは怒ったように唸り声を上げ小さな爪で俺の手を引っ掻いた。
「ちょっと調べるだけだって、すぐ返すから」
攻撃してくる前脚を避けながら、手の中のリボンへ自分の魔力を巡らせる。
――おそらく自分で刺繍したのだろう、リボンに強く残るこの気は間違いない。
図書館で会った時に感じた気と同じものだ。
本物のマリアンヌと似ているようで異なる、あの気の持ち主。
「……何者なんだ、あのマリアンヌ様は」
「ニャーア」
リボンをセレストの首へ巻きながら呟くと、答えるように鳴いてセレストは俺の膝の上で丸くなった。
「お前は知っているのか?」
喉を撫でると気持ち良さそうにゴロゴロと鳴らす、その様子は……上機嫌に見える。
「お前の言葉が分かればいいんだが。さすがに猫に人語を喋らせる術は知らないからな」
母なら分かるかも知れないが、今となっては調べようもない。
あのひとは自身の技術を文字には残さなかったから。
自分が二人の兄と、いや屋敷にいる他の人間と異なると気づいたのは六歳の時だった。
他の者には見えないものが見え、聞こえないものが見える。
母に告げると、それは自分の血筋のせいだと言われた。
母はミジャンという遠い国出身で、この国には存在しない黒魔術を使うのだという。
俺にも魔力があるのだと分かった母から、俺は魔術を学ばされた。
それは逃げ出したくなるほど厳しかったが、しっかり知識と技術を身につけなければその身が破滅することもあると言われれば向き合わざるを得ない。
そうして俺は五年前に母が死んだ、その直前までみっちりと黒魔術を仕込まれたのだ。
母の一族はミジャン王家に仕える黒魔術師の一族で、その魔力も技術も随一だという。
それに匹敵するほどの力を俺も身につけたらしいが、この国でそれを使うことはない。
宝の持ち腐れだと思いながら、母の死後家を出て、学園の図書館司書というまずまずの職を得た俺はこのままのんびりと生きていこうと思っていた。
そんな俺の前に現れたのが、マリアンヌ・バシュラール侯爵令嬢だった。
この国でも有数の侯爵家の娘で、第二王子の婚約者。
そんな華やかな肩書きを持つ彼女は凛とした美しさを持っていた。
よく図書館を訪れるマリアンヌ嬢を、最初は美人だなくらいの気持ちで見ていたが、やがて彼女が時折暗い表情を見せるのが気になるようになっていった。
そうしてある日、高い所にある本を取ろうとしていたマリアンヌ嬢を手助けしたのがきっかけで、言葉を交わすようになったのだ。
「セレスト」
膝の上で丸くなったセレストを撫でながら声をかける。
「悪いな、まだここを出て行く目処が立たないんだ」
ピクリ、と黒い耳が動く。
頭を上げると空色の瞳が俺を見た。
「後任が見つからなくて。年度途中は難しいらしくてな」
今頃はとっくにこの国を出ている予定だったのだが。
「ニャア」
声を上げるとセレストは俺の手に頭を擦り寄せてきた。
頭を撫でると喉を鳴らす、それは気にするなと言っているように聞こえた。
「……本当に、お前の言葉が分かるといいんだけどな」
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