元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子

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第8章 カーニバル

04

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私を抱きかかえたまま、モーリスは馬車から降りた。

周囲を木々に囲まれた一軒の小屋が目の前に建っている。
――山が近い。
既に王都から出たのだろうか。
モーリスは小屋の中へと入っていった。

中は小さいけれど、手入れは行き届いており、普段から使われているようだった。
「ここは狩りの時に休息する家で、裏手には景色の良い湖もあります。案内できないのが残念ですが」
私をソファに下ろしながらモーリスは言った。

もしかしてゲームで来た事がある湖?
確かモーリスがよく友人たちと狩りにいく森で、馬に乗せてもらい、湖でデートをするのだ。
日帰りで行かれる、王都からは近い場所だと思ったけれど……ゲーム内では移動距離や時間までは描かれていなかった。
あれは夏休みのイベントで、湖の景色が綺麗だったのを覚えているけれど。
――まさかこんな形でここに来るとは。

「お腹は空いていますか?」
モーリスの問いに答える前に、クゥ、とお腹が鳴った。
……いや恥ずかしいんですけれど?!
緊張感なさすぎ?!
でも、だって、朝から忙しくてパレードだからとお昼も控えめだったのだもの!

「倉庫に食料があるので取ってきます」
モーリスはそう言い残すと部屋から出て行った。
ガチャリ、と重たそうな鍵がかかる音が聞こえる。

(あれ、縛ったりしなくていいの?)
普通逃げないように手足を縛るものじゃないの?

って、まあ。
普通のご令嬢は勝手に鍵を外して脱走したりしないのか。
私も……ここが王宮や学園ならまだしも、さすがに知らない場所で脱走する勇気と体力はないわ。

「ニャア」
おとなしくソファに座っていると、どこからか猫の鳴き声が聞こえた。

「……猫?」
「ニャーア」
足元からはっきりと聞こえた声に視線を落とす。
自分の足の、その床に落ちた影の中から。
ぴょこんと二つの黒い耳が飛び出した。
そして続いて現れた、水色の瞳と赤いリボン。

「セレスト?!」
「ニャア!」
突然床から現れたセレストが私へと飛びついてきた。
「ニャア! ニャア!」
「え、どうして……どこから?!」
床からというか、まるで影が猫になったような……。
「あ……影って、まさか本当に影?」
セベリノさんは影を使うと言って黒い鳥を出現させていた。
黒いのと隠語的な意味で『影』と呼んでいたのかと思ったけど……もしかして、影に入れるから?

「ニャアー!」
何かを訴えるように、セレストは私の顔を見上げて鳴き続けた。
「どうしたの? 心配してくれてるの?」
「ニャア」
「でもどうしてここが……あ、もしかして見ていたの?」
広場で遠目に見た黒猫はやはりセレストだったのか。
そして私が馬車に乗せられるのを見ていたのだろうか。

「ニャアー」
鳴きながら頭を擦り付けてくるセレストを抱きしめる。
「ありがとう、側にいてくれたのね」
心地の良い重みと腕の中の温もりに、ふいに何か……力が抜けていくような、そして目が熱くなる感覚。
ひく、と喉が震えると、熱いものが頬を伝った。

「ニャア」
「……こわい」
心配そうな鳴き声に、思わず声がもれた。

ああ、そうだ。
怖いんだ。
冷静に状況を判断していたつもりだったけれど……ゲームでしか知らない男性に拐われて、自分の能力が発揮できない、知らない場所に連れてこられて。
この先何が起きるのか、分からなくて。
怖い。

ぽろぽろと涙が溢れてくる。
「ニャーア」
ざらっとしたものが頬を舐めた。
「……セレスト……」
滲んだ視界の先に心配そうなセレストの顔があった。
小さな身体をぎゅうっと抱きしめていると、ガチャ、と鍵が開く音が響いて身体がびくりと震えた。
次の瞬間、腕の中の重みと温もりは消えていた。


「保存食しかありませんが……」
入ってきたモーリスが私の顔を見て目を見開いた。
「マリアンヌ様」
手にしていた皿をテーブルに置くと、モーリスは私の前に膝をついた。
「泣いているのですか」
大きな手が私の頬へと伸びてくる。

「……帰してください」
モーリスに向かって私は言った。
「それはできません」
頬に残る涙を指で拭いながらモーリスは答えた。
「マリアンヌ様はもう俺のものです」
「でもこんなやり方……これは犯罪です」
令嬢、しかも王子の婚約者を誘拐するなど大罪だ。
いくらモーリスが学生であっても許されないだろう。
でも、今なら未だ……。

「あなたが重罪とならないようお願いします。だから、戻りましょう」
「――マリアンヌ様はお優しいですね」
モーリスは目を細めた。
「ですが、戻れば俺は二度と貴女と会えなくなる。それはできません」
「でも……! きっともう、私を捜索しているはずですわ。逃げ切れるとは思えません」
いくらラファラン領が王都から遠く離れていたとしても。
それに私と共にモーリスまでいなくなればきっと彼は疑われるだろう。

「お願いです、モーリス様」
「ああ、初めて俺の名前を呼んでくれましたね」
嬉しそうにモーリスは顔を綻ばせた。
「貴女が俺の傍にいて、俺の名前を呼んでくれる。俺はとても幸せです」
――怖い。

(この人……なにか怖い)

私の言葉は理解しているはずなのに、通じていないような。
背筋が寒くなる。

「確かに、今頃騎士団が必死に探しているでしょう。見つかるのも時間の問題かもしれません。――でも大丈夫です」
モーリスは肩のマントを外すとそれで私を包み込み、抱き上げた。
「そんなに心配なら行きましょう」
「どこへ……」
「誰も追いかけてこられない場所ですよ」

小屋から出ると、モーリスは馬車ではなく小屋の裏へと回っていった。
木々の中を少し歩くとふいに視界が開ける。
目の前に広がるのは、ゲームで見たのと同じ、美しい湖だった。
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