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第9章 マリアンヌ
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(マリアンヌ視点)
「……あの、ところでリリアン様。お願いがあるのですが」
「何かしら?」
「モフらせてくれませんか!」
キラキラとした眼差しをお祖母様に向けながらシャルロットは言った。
「え? ええ、いいけれど……」
「ありがとうございます!」
頭を下げるなりシャルロットは黒猫を抱き上げた。
「うわー、すっごいすべすべで気持ちいい」
背中をゆっくりと撫でられて、黒猫は気持ちよさそうに目を細めた。
「これって本物の猫じゃないんですよね? 感触は本物と変わらないですけど」
「……元々は先生のお母様が飼っていた猫だったそうよ。その猫が亡くなった時に使い魔にしたと言っていたわ」
「うわあ……黒魔術って凄いんですねえ。……そういえば、結局どうしてリリアン様の魂がマリアンヌ様の中に入ったかは分からないままなんですか?」
お祖母様は頭を上げると私と視線を合わせて、それから首を小さく横に振った。
「分からないみたい。セベリノさんは私の魂が他の人と違うせいじゃないかと言っていたけれど……そう言われても、よく分からないわ」
「そうですねえ、まあ確かにリリアン様は独特ですけれど」
シャルロットはそう言って、黒猫を抱き上げると……そのお腹へと顔を埋めた。
……え、何をしているの?!
「ちょ、シャルロット、くすぐったいってば!」
「あーいい匂い……一生吸っていたい」
吸う?
……もしかして匂いを嗅いでいるの?
それはとても行儀が悪い仕草だけれど、シャルロットがあまりにも気持ちよさそうにしているので後で試してみよう、と私はこっそり決意した。
「ふう。猫の匂いって最高ですよね」
満足したように顔を離すと、再びシャルロットは黒猫を撫で始めた。
「私は疲れたわ……」
ぐったりとした様子でお祖母様が呟く。
「それにしても、本当に撫で心地良いですよねー」
「それは是非私も試してみたいですね」
背後から聞き覚えのある声が聞こえて、私たちは固まった。
上から伸びてきた手が、シャルロットの腕の中の黒猫を取り上げた。
「こんな所にいたんですね、大叔母様」
黒猫と目を合わせてカミーユは笑顔でそう言った。
「――ニャーア」
「猫のフリをしても遅いですよ。普通に喋っていましたよね」
「……いつから……聞いて……」
「そこの娘が大叔母様を吸い出した時ですかね」
「……どうして私だって、分かったの」
「おかしいと思っていたんですよ」
黒猫を抱え直してカミーユは私を見た。
「あんなに大叔母様が好きだったマリアンヌが、記憶喪失の間大叔母様が代わりに身体に入っていたと聞いてもあまり動揺しないのは、きっと何か知っているからだろうと」
「……表情が少ないからだわ」
「それは大叔母様以外のことでしょう。あなたは昔から大叔母様のことに関しては決して譲らなかったから」
私はお祖母様が大好きだった。
そして実の祖母が既に亡くなっていたカミーユもまた、お祖母様のことが大好きで。
幼い頃、私たちはよくお祖母様を取り合っていた。
決して負けたくなかった私は、時には大人たちに引き離されるまで、まるで男の子のようにカミーユと取っ組み合いをしたこともあった。
そんな私たちをお祖母様は怒ることなく、『二人とも可愛い孫なんだから仲良くしてちょうだい』と抱きしめてくれた。
「しかし、それにしても黒猫ですか」
腕に抱えたお祖母様をカミーユはしげしげと眺めるとその整った顔に笑みを浮かべた。
「とても可愛らしいですね」
どうして黒猫になっているのか、とは聞かないのか。
疑問に思ったが……彼にとってはお祖母様が存在しているという、それだけでいいのだろう。
私も、お祖母様が人間であろうと黒猫であろうと構わない。
「カミーユ……このことは、誰にも言わないで欲しいの。息子たちにもよ」
お祖母様が恐る恐るといった口調で言った。
「そうですね……」
少し思案して、カミーユは再び口を開いた。
「私の頼みを聞いてくれたらいいですよ」
「頼み?」
「いつも殿下がそばにいて、大叔母様とゆっくり過ごす時間がなかったですからね。今夜は二人で昔話をしたいですね」
「今夜?」
「さあ、帰りましょう、大叔母様」
「え、待って」
「ちょっと、カミーユ……!」
「バラしますよ」
お祖母様を大事そうに抱え直すと、背を向けて立ち去ろうとしたカミーユに慌ててベンチから立ち上がると、彼は振り返った。
「いいんですか?」
「それは……」
それだけはまずい。
「帰りに美味しいケーキを買って帰りましょうか」
「え、ケーキ?」
カミーユの言葉に黒猫の瞳が輝く。
「……そうね、一晩だけなら」
――お祖母様、お菓子を餌に簡単に落ちたわね。
去っていくカミーユの腕から、シッポが嬉しそうに揺れるのが見えた。
「え、じゃあお菓子を用意すればあのモフモフを一晩独り占め……?」
何かぶつぶつ言っているシャルロットを横目に私は中庭から立ち去った。
「……あの、ところでリリアン様。お願いがあるのですが」
「何かしら?」
「モフらせてくれませんか!」
キラキラとした眼差しをお祖母様に向けながらシャルロットは言った。
「え? ええ、いいけれど……」
「ありがとうございます!」
頭を下げるなりシャルロットは黒猫を抱き上げた。
「うわー、すっごいすべすべで気持ちいい」
背中をゆっくりと撫でられて、黒猫は気持ちよさそうに目を細めた。
「これって本物の猫じゃないんですよね? 感触は本物と変わらないですけど」
「……元々は先生のお母様が飼っていた猫だったそうよ。その猫が亡くなった時に使い魔にしたと言っていたわ」
「うわあ……黒魔術って凄いんですねえ。……そういえば、結局どうしてリリアン様の魂がマリアンヌ様の中に入ったかは分からないままなんですか?」
お祖母様は頭を上げると私と視線を合わせて、それから首を小さく横に振った。
「分からないみたい。セベリノさんは私の魂が他の人と違うせいじゃないかと言っていたけれど……そう言われても、よく分からないわ」
「そうですねえ、まあ確かにリリアン様は独特ですけれど」
シャルロットはそう言って、黒猫を抱き上げると……そのお腹へと顔を埋めた。
……え、何をしているの?!
「ちょ、シャルロット、くすぐったいってば!」
「あーいい匂い……一生吸っていたい」
吸う?
……もしかして匂いを嗅いでいるの?
それはとても行儀が悪い仕草だけれど、シャルロットがあまりにも気持ちよさそうにしているので後で試してみよう、と私はこっそり決意した。
「ふう。猫の匂いって最高ですよね」
満足したように顔を離すと、再びシャルロットは黒猫を撫で始めた。
「私は疲れたわ……」
ぐったりとした様子でお祖母様が呟く。
「それにしても、本当に撫で心地良いですよねー」
「それは是非私も試してみたいですね」
背後から聞き覚えのある声が聞こえて、私たちは固まった。
上から伸びてきた手が、シャルロットの腕の中の黒猫を取り上げた。
「こんな所にいたんですね、大叔母様」
黒猫と目を合わせてカミーユは笑顔でそう言った。
「――ニャーア」
「猫のフリをしても遅いですよ。普通に喋っていましたよね」
「……いつから……聞いて……」
「そこの娘が大叔母様を吸い出した時ですかね」
「……どうして私だって、分かったの」
「おかしいと思っていたんですよ」
黒猫を抱え直してカミーユは私を見た。
「あんなに大叔母様が好きだったマリアンヌが、記憶喪失の間大叔母様が代わりに身体に入っていたと聞いてもあまり動揺しないのは、きっと何か知っているからだろうと」
「……表情が少ないからだわ」
「それは大叔母様以外のことでしょう。あなたは昔から大叔母様のことに関しては決して譲らなかったから」
私はお祖母様が大好きだった。
そして実の祖母が既に亡くなっていたカミーユもまた、お祖母様のことが大好きで。
幼い頃、私たちはよくお祖母様を取り合っていた。
決して負けたくなかった私は、時には大人たちに引き離されるまで、まるで男の子のようにカミーユと取っ組み合いをしたこともあった。
そんな私たちをお祖母様は怒ることなく、『二人とも可愛い孫なんだから仲良くしてちょうだい』と抱きしめてくれた。
「しかし、それにしても黒猫ですか」
腕に抱えたお祖母様をカミーユはしげしげと眺めるとその整った顔に笑みを浮かべた。
「とても可愛らしいですね」
どうして黒猫になっているのか、とは聞かないのか。
疑問に思ったが……彼にとってはお祖母様が存在しているという、それだけでいいのだろう。
私も、お祖母様が人間であろうと黒猫であろうと構わない。
「カミーユ……このことは、誰にも言わないで欲しいの。息子たちにもよ」
お祖母様が恐る恐るといった口調で言った。
「そうですね……」
少し思案して、カミーユは再び口を開いた。
「私の頼みを聞いてくれたらいいですよ」
「頼み?」
「いつも殿下がそばにいて、大叔母様とゆっくり過ごす時間がなかったですからね。今夜は二人で昔話をしたいですね」
「今夜?」
「さあ、帰りましょう、大叔母様」
「え、待って」
「ちょっと、カミーユ……!」
「バラしますよ」
お祖母様を大事そうに抱え直すと、背を向けて立ち去ろうとしたカミーユに慌ててベンチから立ち上がると、彼は振り返った。
「いいんですか?」
「それは……」
それだけはまずい。
「帰りに美味しいケーキを買って帰りましょうか」
「え、ケーキ?」
カミーユの言葉に黒猫の瞳が輝く。
「……そうね、一晩だけなら」
――お祖母様、お菓子を餌に簡単に落ちたわね。
去っていくカミーユの腕から、シッポが嬉しそうに揺れるのが見えた。
「え、じゃあお菓子を用意すればあのモフモフを一晩独り占め……?」
何かぶつぶつ言っているシャルロットを横目に私は中庭から立ち去った。
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