異世界で温泉はじめました 〜聖女召喚に巻き込まれたので作ってみたら魔物に大人気です!〜

冬野月子

文字の大きさ
14 / 43

14 どうしてここに?

しおりを挟む
「おはよう、ウサギちゃん。今日も来てくれたの?」
 私を見るなり駆け寄ってきたウサギを抱き上げる。
 この子は最初に助けた子のような気がするけれど、正直見分けがつかないので分からない。
 でも毎日のように来てくれるウサギは多分、同じ子なのだと思う。

 お湯を張って、魔法をかけて。
 魔物たちが温泉に入るのを見届けると一息つく。
「今日も平和だなあ」
 この生活を始めてから、三カ月はたっただろうか。
「……四カ月前は日本にいたんだよね」
 こんな世界があることを知らずに、大学行ってバイトに行って、友達と遊んで。
 二十年も生きていたのに、向こうの生活のほうが夢だったような気がする。
(お父さんたち……びっくりするかな。私が異世界に行って、結婚したなんて知ったら)
 そっとお腹をなでてみる。
 まだだろうけど、もしかしたらこの中に新しい命が宿っているかもしれないなんて。

 子供は欲しいけど、この山の中で出産するのは怖いなと思っていたら、アルバンさんが「その時はうちの嫁が手伝うぜ」と言ってくれた。
 一度その奥さんを連れてきたけれど、とても綺麗で優しいひとだった。
 アルバンさんはいかつくて見た目は怖いけれど、優しくて頼れるお兄さんという感じだ。
 定期的にここへ温泉に入りにやってきて、困っていることはないか聞いてくれたり、時には傷ついた魔物を連れて来たりする。

 勇者一行は相変わらず、あちこちに出没しては魔物討伐を行っているそうだ。
 ブラウさんや魔王さんも時々やってきては温泉に入って夕飯を食べていく。
 皆いいひとだし、この温泉に来る魔物も聞き分けのいい子ばかりなのに。
「本当に……どうして魔物だからって理由だけで討伐しようとするんだろう」
 ため息が出てしまう。
「……そうだ、今のうちに畑を見てこよう」
 思い出して抱えていたウサギを下ろした。

「すぐ戻ってくるから、温泉入ってて」
 あとを追いかけてこようとしたウサギに言って、森へと入っていく。
 二カ月ほど前に畑を作った。
 野菜はエーリックが町で買ってきてくれるけれど、自分で育てるのもいいなと思って作ったのだ。
 畑にはいくつかの野菜と豆を植えた。
 大根みたいな野菜は、元の世界でそうしていたように干して保存食にできるそうだ。
 エーリックが言うには、この山は冬になると雪が積もるらしいので、その備えに出来ればいいなと思っている。

(ん? 足音がする?)
 畑の様子を確認して、また温泉に戻りながらふと気づいた。
 少し離れたところから、複数の足音……?
 振り返ると、木々の向こうから数人の人影が現れた。マントを被って顔は見えないけれど、人間のようだ。
(こんなところに……)
「人間か!?」
 男の人の声が聞こえた。
「こんな山奥に?」
「確かに人間だな……」
「ヒナノさん!?」
 聞き覚えのある女の子の声が聞こえた。

「……リンちゃん?」
「ヒナノさん!」
 一番小さな人影が走り寄ってきた。
「ヒナノさん! 本物!!」
「リンちゃん!」
 え、どうしてリンちゃんが!?
「わあん、ヒナノさんー!」
 思い切り抱きつかれて転びそうになりながらもリンちゃんを受け止めた。

「会いたかったです!」
「リンちゃん……」
 マントのフードが外れて顕になったその顔は、間違いなくリンちゃんだった。
「リンちゃん……どうしてここに?」
「それはこっちのセリフです! なんでこんな山の中にいるんですか!?」
「あ……ええと……色々あって」
「色々って?」
 ふいにリンちゃんの顔が険しくなった。
「ヒナノさんに会いたいって何度も言ったのに全然会わせてくれなくて……しつこく聞いたら行方不明になったって言われたんですけど! まさかヒナノさん、この山に捨てられたとか!?」
「いや、そんなことないよ! 遭難して帰れなくなったから住んでるだけで……」
「住んでる!? こんな山奥に!?」
「あ、うん……」
 そうよね、不思議よね。

「リンちゃんはどうしてここに?」
「もう、聞いてくださいよ。ひどいんですこの国の人たち。あちこちの山に連れてかれて、魔物退治するまで帰ってくるなって。魔物っていうからゲームに出てくるモンスターみたいなの想像してたら、目が赤い以外は普通の動物じゃないですか」
「ああ、うん……」
「この間はどうみても人間なのにいきなり襲ってて。ありえなくないですか!?」
「……そうだね」
 それはもしかして、アルバンさんのことかな……。

「リン。その人は誰なの?」
 リンちゃんと一緒にいた一人が聞いてきた。
「この人が私と一緒に無理矢理この世界に召喚された先輩よ!」
「ああ、前に言ってた……。その人が、どうしてここに?」
「遭難して帰れなくなったんだって」
 フードを外したのは、リンちゃんより少し年下に見える金髪碧眼のイケメン君だ。
「ヒナノさん、この人はロイド。勇者なの」
「初めまして」
 ペコリと頭を下げた、この青年が勇者……。
 穏やかで人の良さそうな好青年風で、何体もの魔物を倒してきたようには見えない。

「……ヒナノです」
「ヒナノさん。遭難したなら僕たちと一緒に行きましょう」
 勇者のロイドが言った。
「いえ、私は大丈夫なので」
「え、なんで?」
 リンちゃんが私の腕をつかんだ。
「こんな山の中、危ないですよ!」
「ええと、あのね……」
「おい! 魔物がたくさんいるぞ!」
「ロイド来い!」
 聞こえてきた声にハッとした。
 そっちにあるのは温泉……。

「ダメ!」
 リンちゃんの手を振り解くと慌てて駆け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

私、竜人の国で寵妃にされました!?

星宮歌
恋愛
『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』の番外編として作っていた、シェイラちゃんのお話を移しています。 この作品だけでも読めるように工夫はしていきますので、よかったら読んでみてください。 あらすじ お姉様が婚約破棄されたことで端を発した私の婚約話。それも、お姉様を裏切った第一王子との婚約の打診に、私は何としてでも逃げることを決意する。そして、それは色々とあって叶ったものの……なぜか、私はお姉様の提案でドラグニル竜国という竜人の国へ行くことに。 そして、これまたなぜか、私の立場はドラグニル竜国国王陛下の寵妃という立場に。 私、この先やっていけるのでしょうか? 今回は溺愛ではなく、すれ違いがメインになりそうなお話です。

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...