ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子

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01 のんびり暮らしたい

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十歳の誕生日の朝、それは突然訪れた。

夢を見ていた。
その夢の中で、自分は黒髪の女性となり、様々な動く絵が現れる不思議な小さい箱で遊んでいた。
その女性は自分自身で、遊んでいた箱の中身――学園ゲームの世界に自分が転生しているのだと、目覚めた瞬間気づいたのだ。

(うわ、面倒くさい)
気づいて最初に浮かんだのがその言葉だった。

そのゲームでプレイヤーが操るヒロインは十六歳の女の子。
王侯貴族の子息たちが通う二年制の学園に入学し、勉強に恋にと頑張るもので、会話や行動の選択やミニゲームの結果次第で将来の進路が決まるのだ。
王太子や貴族の子息などと恋に落ち、彼らの婚約者となったり、学問に励めば女性初の官僚や学校の先生、また騎士や冒険者といった職業を選ぶこともできる。
プレイはシンプルでテンポも良く、その代わり様々な進路を選べるので何回も遊べると人気があり、私も良く遊んでいたゲームだ。

そうして私、クリスティナ・バリエはゲームに登場するライバルキャラの一人だ。
ヒロインの恋の相手となる一人、王太子の婚約者で、授業や恋愛など様々な場面でヒロインと競い合い、時に卑怯な手を使って陥れようとするいわゆる悪役の立場だ。

「やだあ、面倒だよう」
大きな枕に顔を埋めながら私は呻いた。

王太子の婚約者ということは、未来の王太子妃、そして王妃になるということ。
そのためにはたくさんのことを覚えて勉強しないとならないはずだ。お妃としての仕事もたくさんあるだろうし、後継を産まなければというプレッシャーももちろんあるはずだ。――超大変じゃないか。
さらに学園在学中はヒロインのライバルとして、成績でも恋愛でも毎日のように張り合わないとならない……負ければ婚約は破棄され、惨めな結末になってしまう。

(そんなのやりたくないなあ)
前世の私は親の収入や学校の成績、容姿などが中の上くらい。ほどほどに良い環境で暮らしていた。
お金がなくて苦しむこともなければ、ありすぎて困ることもない、のんびりとした平和な暮らしで、家族も仲が良く友人にも恵まれ、それはある意味とても贅沢だった。
そんな生活をしていたことを思い出してしまうと……この先一生努力し続けないとならない人生なんて、嫌すぎる。

けれど、今世の私はこの国の上級貴族である侯爵家の一人娘。たとえ王太子の婚約者とならなくても、それなりの地位の家に嫁がなければならないだろう。のほほんと生きることは、多分できない。
(やだな……面倒なこと、嫌いなのに)
極力楽に生きられる方法はないだろうか。

(そもそも……何でゲームの世界に生まれたの?)
平穏な生活を送っていて……いつ死んだんだろう?
前世の最後の記憶は――そうだ。朝、学校に行くため駅へ向かうバスに乗っていた。
一つ下の弟と一緒で、彼もこのゲームをやっていて、その日も二人でバスの中でプレイしていたんだ。
そうしてその時……急にバスが大きく揺れて……。
(え、あの時死んだの……)
じゃあ弟は? まさかあの子も一緒に?!

頬をつねってみたが、痛くて夢ではなさそうだ。
私は死んで、その直前に遊んでいたゲームの中に転生してしまったらしい。

「これからどうしよう……」
メイドが起こしに来るまでベッドの上でゴロゴロしながら考えて、とりあえず、私は『ゲームに巻き込まれないようにしよう』と決めた。
あのゲームには他にもライバルキャラがいたし、多分私一人抜けても問題はないはずよね。



まず最初の対策は、一ヶ月後に開かれる王太子の十歳の誕生日会。婚約者を決めるために貴族の娘たちが集められ、私も既に招待状をもらっている。
ゲームでの私はそこで王太子に一目惚れをし、家の権力を使い婚約者の座を勝ち取ったことになっている。
(そんな権力とかいらないし……そもそも王太子妃にはなりたくないもの)

私は考えた。
王妃に求められるのは、きっと人を惹きつける華やかな見た目と外交にも対応できるコミュ力。
ならば、地味で愛想のない令嬢と思われれば選ばれることはないのではと。
(婚約者にならなければ学園でヒロインと競い合うこともないし、平和に過ごせるわよね!)
ほどほどに頑張って学園を卒業して、できればほどほどの家柄の所に嫁いで。
田舎の領地あたりでのんびり生活したいなあ。
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