ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子

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30 ローズリリーの真相

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「おい、まずいな」
「どうした」
「後を付けられている気がする」

「どういう意味だ」
馬車を走らせる男たちに向かってシリルは声をかけた。
「後ろの二頭の馬、あれは騎士団が乗るような馬だ。どう見ても馬車より早く走れるのにずっと同じ速度で走ってるんだ」
黒髪の男が答えた。

「気づかれたんじゃないだろうな」
「そんなヘマするかよ」
「そのまま馬車を走らせろ。変な動きをすれば怪しまれる」
そう男に言うと、シリルは私に笑顔を向けた。
「ティナ、体は痛くない?」
「……はい」
「もう少し辛抱してね、この先の森を抜けると大きな街に出る。今日はそこに泊まるから」
私の頭を撫でながらシリルは言った。

森の中の小屋を出て、私たちを乗せた馬車は王都とは逆方向へ向かっている。詳しくは聞かされていないが、明日には国を出て、目的地へ向かうという。
馬車は商人が使う幌付きのもので、彼らは実際に商売をしながらこの国へ来たそうだ。
そうやって、各国で商売をしながら目的の宝飾品を盗んでいるのだという。
(私……帰れるのかな)
不安と怖さで胸が押しつぶされそうだ。

お妃教育で学んだことがある。
もしも誘拐された時は、無理に抵抗しようとしてはいけないと。
すぐに殺されないということは、犯人には目的があり、その目的を達成するまでは命の保証はあると思っていい。
けれど脱走しようとしたり、下手に犯人を刺激すれば殺されてしまうかもしれないし、救出計画の妨げとなることもある。
だから大人しくしながら周囲の様子をよく観察し、冷静な判断をしてともかく自分の命を守るようにと。

(まさか本当に誘拐されるなんて……夢にも思わなかった)
学んだ通りに逆らわず彼らについてきたけれど。この先、助けが来ることがあるのか……全く分からない。
前世のような捜査の仕組みもないこの世界で、私が今馬車に乗ってこの道を走っているなど……分かるものだろうか。

もしも助けが来なくて、このまま国を出たら……私は、本当にシリルのものになってしまうのだろうか。
(嫌だそんなの。だって私は……殿下のことが好きなのに)
シリルにキスされた時にはっきりと気づいた。
殿下以外は嫌だと。私は殿下が好きなのだと。
(殿下……アルフレッド様)
会いたい。帰りたい。
涙が出そうになってくる。

「ティナは、ローズリリーを見たことはある?」
ふいにシリルが尋ねてきた。
「……王宮の庭園で見ました」
「ドラゴンと姫君の絵本は読んだ?」
「……はい」
「あの話、もともとバートランド王国の昔話なんだよね」
「……そうなのですか」
「元の昔話では、姫は殺されちゃうんだよ」
「え」

「姫の亡骸を抱えたドラゴンが、その炎で姫を殺した敵国の兵を城ごと燃やしてしまうんだ。だからあの絵本の最後の場面、あのローズリリーの花畑はドラゴンが見た夢か死後の世界なんだよ」
シリルはそう言って笑みを浮かべた。
「あの王太子はそれを知らないから、君をローズリリーの姫君に喩えたんだろうね。僕だったらどうしようかな」
私の髪を指に絡めながらシリルは言葉を続けた。
「うーん、でもティナは僕の唯一だからな。喩えようがないか」
「……どうして」
「ん?」
「どうして……私を、その、欲しいと思ったのですか」
市場で偶然に、ほんの少し出会っただけなのに。

「うーん。一目惚れ?」
シリルは私の顔を覗き込んだ。
「君の瞳があの『女王の涙』よりずっと綺麗だと思って、その瞬間欲しいと思って。一瞬で好きになったんだ」
「……それは一時的なものではないのですか」
「そうかな。あの日も、次の日もずっと君のことを考えていたし、君をこの腕に抱いた時はとても満たされたよ。これが幸せなんだって、初めて知った」
「……好きなのは見た目だけですよね」
「君のことは前から知ってるよ、あの王太子にさんざん聞かされたから」
そう言うとシリルは口角を上げた。
「もしかして僕がすぐ飽きて捨てると思ってる? そんなことしないよ、君は一生大事にするから心配しないで」
抱きしめられて――胸が苦しくなる。
違う、私が抱きしめて欲しいのは……。

ガタン、と馬車が大きく揺れて止まった。
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