ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子

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31 救出

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「どうした」
シリルが前に向かって声をかけた。
「馬に挟み込まれた」
「騎士だ!」
男たちの声が聞こえる。
(騎士……? まさか)
「追手か? 何で分かったんだ」
チッと舌打つとシリルは馬車の隅から短剣を取り出しそれを腰に差した。
馬車の外から、何か言い合うような声が聞こえてくる。
幌に耳を当てていたシリルは、振り返ると私の手を取った。

「おいでティナ」
「え?」
「こういう時に逃げられるよう、仕掛けがあるんだ」
シリルが足元の床板を外すと、その下に梯子があるのが見えた。
手を引かれ、梯子を降りていくと屈まないとならないくらい狭い空間があった。
「落ちないように気をつけてね」
外した床板を戻しながらシリルが言った。
その空間の床の一部は空いていて、すぐ下に地面が見える。これなら私でも降りられるだろう。
シリルは壁に開いた小さな窓から外の様子をうかがっていた。

(もしも今……ここから飛び降りたら逃げられるかな)
一瞬考えたけれど、外にいる騎士らしき人たちが助けなのか分からないのに出て行くのは危険だろう。
(どうしよう。冷静な判断って……そんなの無理だわ!)
足元を見つめていると、シリルが私の腕を掴んだ。
「声を出さないで」
シリルが小声で囁くと、すぐに上からガタガタと音が聞こえた。
「馬車の前後から四人の男。二人が馬車の中を調べに、その後ろに一人。残りは前に残ってる。つまり逃げ道は横。静かにね」
そう告げて、シリルは先に馬車の下から出ると私を下ろした。

馬車の下から抜けるとすぐ側の藪の間へと潜り込んだ。
振り返ると馬車の後ろに数人の男性がいるのが見えた。
(あれは……)
見覚えがある。ダニエル様と一緒にいた騎士の……。

どうやって私の居場所を知ったのか分からない。
でも……もしもあの馬車に残っていたら、帰れた?
「こっち」
ぐいと手を引かれ、森の奥へと入っていく。まるで知っているかのようにシリルの足は迷いがない。
「この先に小屋がある。そこにも仲間がいるから」
「え」
「大丈夫だよ、武器も馬車もある。強力なのがね」
(……そんな)
さっき、シリルよりも先に馬車を降りていたら。
あの時決断していたら……帰れたのに。
(殿下……)
涙が滲んでボヤけた視界の先に、小さな小屋が見えた。

「クリスティナ!」
ふいに……聞きたかった声が聞こえた。


「――殿下!」
小屋の傍から飛び出してきたのは、間違いない。本物の殿下だ。
「殿……」
駆け出そうとして、強く腕を引かれる。
目の前に銀色の光が現れた。
「クリスティナ!」
「動くな」
シリルは私を後ろから抱き締めると、短剣を胸元に近づけた。
「一歩でも動いたら、ティナは大怪我をしてしまうよ」
「……シリル王子」
見たことのない、怒りの表情で殿下はシリルを睨みつけた。

「小屋は制圧済みだ。逃げ場はない」
殿下の後ろからダニエル様と、騎士が二人現れた。
「……何でバレた」
シリルは小さく呟いた。

「シリル王子、クリスティナを離せ!」
「嫌だね、この子は僕のものだもの」
声を上げた殿下にシリルはそう返した。
「アルフレッド王子。君が言っていた以上にティナは綺麗だね。僕、一目で気に入ったんだ」
シリルは私の頬に自分の頬を重ねた。
「だから僕に頂戴」
「クリスティナは私の婚約者だ」
「君はいいよね、正妃から生まれた唯一の王子で、殺される心配もなくて、こんな綺麗な婚約者までいて。僕にないものを全て持っている。だから一つくらい貰ってもいいよね」
「ふざけるな!」

「仲間は全て捕らえた」
ダニエル様が言った。
「観念してクリスティナ様を解放し投降するんだ」
「……シリル様」
私は振り返るとシリルを見た。
「これ以上罪を重ねるのは……」
これまで、どれだけの数を盗んできたのかは分からない。
でも彼が犯罪に手を染めてしまったのには、仕方ない事情もあるだろう。
ちゃんと反省して罪を償えばまだ……。
「ティナ。ローズリリーを見に行こうか」
耳元でシリルが囁いた。
「……え?」
「あの昔話のドラゴンのモデルになったのは、姫の恋人だったある騎士なんだ。彼は罪を犯して姫と同じ塔に閉じ込まれていて、そこで二人は出会って恋に落ちた。そうして騎士は姫の仇討ちをしようとして、結局殺されてしまうんだけどね。昔話はその事実を元にして作られたんだ」
そんな物語があったなんて。

「君がローズリリーの姫なら、僕はその騎士だったドラゴンだね。ドラゴンと姫は二人きりの花畑で永遠に一緒に暮らすんだよ」
(え……待って)
バートランドの昔話では、花畑はドラゴンの夢か……死後の世界だって。
「少し痛いけど大丈夫だよ。一瞬で終わるから」
銀色の光が目の前で光った。
(いや……)
「やめろ!」
殿下の叫び声が聞こえる。
「うるさいなあ」
シリルは眉根を寄せると、手にしていた剣先を殿下に向けた。
「邪魔しないでくれる?」

「ねーちゃん! ゾンビは下で横!」
突然聞こえた、その声に。

私は反射的に膝を折ると身体を下に滑らせた。
するりとシリルの腕から抜けた身体をそのまま横に滑らせようとして、足がもつれて転んでしまう。それでも必死に横へと転がる。
「こいつ!」
側でエディーの声が聞こえて……何か揉み合うような音が聞こえる。
「クリスティナ!」
すぐ上から声が聞こえて、顔を上げると殿下が立っていた。
「殿下……」
「クリスティナ……ああ良かった」
強く抱きしめられる。

ああ、この腕だ。
私が抱きしめて欲しかったのは……。
「殿下……アルフレッド様……」
「……良かった」
涙が溢れ出して、何も見えなくなりながら。
私は目の前の好きな人に縋りついた。
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