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34 私の望み
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「さすがに疲れた……」
思えば、今日は目覚めたら森の中で。
誘拐されて、殺されそうになって……知らなかったことを沢山知って。
本当に色々あった。
「クリスティナ」
ぼんやりしているとエディーの声が聞こえた。
「話は終わったって聞いたから」
「エディー。……助けに来てくれてありがとう」
部屋に入ってきたエディーを見上げる。
「怪我はなかったの?」
「ああ」
「助けに来てくれたことは嬉しいけど、あんな危ないことはしないでね」
いくら剣の心得があるとはいえ、騎士ではないのに短剣を持った相手を取り押さえるだなんて。
もしも怪我でもしたら……想像しただけでぞっとしてしまう。
「大事な家族の危機なんだ、そんなこと気にしてられないよ」
(家族……)
「あの、エディー。私……」
「留学している間にアプローチしておけば良かったかな」
そう言うとエディーは私を抱きしめた。
「そうすれば、俺を男として見てくれたか?」
「……エディーは、初めて会った時から大事な弟なの」
たとえ血の繋がりが薄くても、好意を寄せられても。
「それはずっと変わらないわ」
「……そうか」
ぎゅっとさらに強く抱きしめられた。
「そんなに抱きしめないでくれないか」
殿下の声が聞こえた。
「家族ですから」
「家族はそういうふうに抱きしめたりしないんじゃないか」
「殿下には兄弟がいないから分からないだけです」
「ほう」
すぐ側で殿下の声が聞こえた。
「だが年頃の姉妹には節度ある距離が必要だと思うが?」
「王太子ともあろう人が、そんなに心が狭くていいのですか」
「君は諦めが悪い人間なんだね」
(ひいっ)
空気が、冷たくて怖い……!
「エディー……苦しいから」
そう訴えるとエディーはようやく腕を緩め、すかさず殿下が私の腕を引いて自分へと引き寄せた。
「クリスティナ。妃になるのは重圧なんじゃなかったのか?」
私を見つめてエディーは言った。
「それにこの先、また攫われたり命を狙われることもあるかもしれない。それでもお前は妃になるのか?」
田舎でのんびり暮らすのが夢だった。
面倒なことは嫌で、勉強は嫌いではないけれど、お妃になればただ学ぶだけではなくて自分で判断し、決断しなければならないこともある。大変なことがたくさんあるだろう。
「ええ。それでも私は……殿下の側にいたいの」
それが、今の一番の望みだ。
「そうか」
「心配しなくとも、クリスティナにこれ以上辛い思いはさせない」
「大丈夫ですよ、その時はクリスティナを返してもらうだけですから」
殿下の言葉にそう返すと、エディーは部屋を出て行った。
「全く。諦める気はないのだな」
ため息をつくと殿下は私を見た。
「クリスティナ。妃になるのは重圧だったのか?」
「え? あ、ええと……」
「君は何でも完璧にこなすから、そんなものはないのだと思っていた」
「……外ではそう見えるよう振る舞いますけれど、本当は家でダラダラするのが好きですから」
「そうなのか? ……確かに、足を出して本を読んでいた姿は随分と寛いでいるように見えたな」
あれは! ……足は忘れて欲しい。
「でも、そういうクリスティナも愛おしいと思うよ」
「……殿下」
「私だって完璧ではないし、努力はしているけれどまだ弱いところも多い。そういう、互いの弱いところも見せ合い、補えるような……夫婦になっていけたらいいと思っている」
夫婦という言葉に顔が熱くなる。
「……はい」
でも、確かに。
王妃様のような完璧なお妃になるのは難しいだろう。
それでも、殿下と支え合って、理想のお妃に近づいていきたいと、今は心からそう思う。
「クリスティナ・バリエ嬢」
殿下は私の手を取った。
「改めて請う。王太子妃として私に、そしてこの国に、君の人生をくれるだろうか」
「……はい、よろしくお願いいたします」
殿下を見つめてそう答えると、殿下は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう」
そっと抱きしめられる。
――ああ、やっぱり私はこの人がいい。
心から満たされていくのを感じる。
「君が攫われた時は……世界が終わるかと思った。一度失った君をやっと取り戻せるかと思ったのに、また失うのかと」
「……私も、もしもこのまま帰ることができなかったらと思ったら……とても悲しくて、辛くて……」
「すまなかった」
「……どうして殿下が謝るのですか」
「もっと気をつけていれば、君をあんな目に遭わせることはなかっただろうに」
「あれは……誰にも予想できなかったことです」
もしもこの世界が、アリスが言っていた『クリスティナがヒロイン』の世界だとしたら。シリルの事件は防ぎようがなかったのかもしれない。――そのイベントの内容を知る者がいないから真相は分からないけれど。
どうして私たちがゲームの世界に転生したのか、この先何が起きるのか。
分からないこともあるけれど、それでも私も優斗も、そしてアリスも、この世界に生きている。
ゲームではない、やり直しのできない人生として。
「これからも、何が起きるのか分かりませんが。それでも私は殿下……アルフレッド様と共に乗り越えていきたいです」
「ああ」
力がこもる、殿下の腕の、その強さと温かさに。
私はこの人生をこの人と生きていくのだと改めて決意しながら、その背中に手を伸ばした。
おわり
最後までお読みいただきありがとうございました。
思えば、今日は目覚めたら森の中で。
誘拐されて、殺されそうになって……知らなかったことを沢山知って。
本当に色々あった。
「クリスティナ」
ぼんやりしているとエディーの声が聞こえた。
「話は終わったって聞いたから」
「エディー。……助けに来てくれてありがとう」
部屋に入ってきたエディーを見上げる。
「怪我はなかったの?」
「ああ」
「助けに来てくれたことは嬉しいけど、あんな危ないことはしないでね」
いくら剣の心得があるとはいえ、騎士ではないのに短剣を持った相手を取り押さえるだなんて。
もしも怪我でもしたら……想像しただけでぞっとしてしまう。
「大事な家族の危機なんだ、そんなこと気にしてられないよ」
(家族……)
「あの、エディー。私……」
「留学している間にアプローチしておけば良かったかな」
そう言うとエディーは私を抱きしめた。
「そうすれば、俺を男として見てくれたか?」
「……エディーは、初めて会った時から大事な弟なの」
たとえ血の繋がりが薄くても、好意を寄せられても。
「それはずっと変わらないわ」
「……そうか」
ぎゅっとさらに強く抱きしめられた。
「そんなに抱きしめないでくれないか」
殿下の声が聞こえた。
「家族ですから」
「家族はそういうふうに抱きしめたりしないんじゃないか」
「殿下には兄弟がいないから分からないだけです」
「ほう」
すぐ側で殿下の声が聞こえた。
「だが年頃の姉妹には節度ある距離が必要だと思うが?」
「王太子ともあろう人が、そんなに心が狭くていいのですか」
「君は諦めが悪い人間なんだね」
(ひいっ)
空気が、冷たくて怖い……!
「エディー……苦しいから」
そう訴えるとエディーはようやく腕を緩め、すかさず殿下が私の腕を引いて自分へと引き寄せた。
「クリスティナ。妃になるのは重圧なんじゃなかったのか?」
私を見つめてエディーは言った。
「それにこの先、また攫われたり命を狙われることもあるかもしれない。それでもお前は妃になるのか?」
田舎でのんびり暮らすのが夢だった。
面倒なことは嫌で、勉強は嫌いではないけれど、お妃になればただ学ぶだけではなくて自分で判断し、決断しなければならないこともある。大変なことがたくさんあるだろう。
「ええ。それでも私は……殿下の側にいたいの」
それが、今の一番の望みだ。
「そうか」
「心配しなくとも、クリスティナにこれ以上辛い思いはさせない」
「大丈夫ですよ、その時はクリスティナを返してもらうだけですから」
殿下の言葉にそう返すと、エディーは部屋を出て行った。
「全く。諦める気はないのだな」
ため息をつくと殿下は私を見た。
「クリスティナ。妃になるのは重圧だったのか?」
「え? あ、ええと……」
「君は何でも完璧にこなすから、そんなものはないのだと思っていた」
「……外ではそう見えるよう振る舞いますけれど、本当は家でダラダラするのが好きですから」
「そうなのか? ……確かに、足を出して本を読んでいた姿は随分と寛いでいるように見えたな」
あれは! ……足は忘れて欲しい。
「でも、そういうクリスティナも愛おしいと思うよ」
「……殿下」
「私だって完璧ではないし、努力はしているけれどまだ弱いところも多い。そういう、互いの弱いところも見せ合い、補えるような……夫婦になっていけたらいいと思っている」
夫婦という言葉に顔が熱くなる。
「……はい」
でも、確かに。
王妃様のような完璧なお妃になるのは難しいだろう。
それでも、殿下と支え合って、理想のお妃に近づいていきたいと、今は心からそう思う。
「クリスティナ・バリエ嬢」
殿下は私の手を取った。
「改めて請う。王太子妃として私に、そしてこの国に、君の人生をくれるだろうか」
「……はい、よろしくお願いいたします」
殿下を見つめてそう答えると、殿下は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう」
そっと抱きしめられる。
――ああ、やっぱり私はこの人がいい。
心から満たされていくのを感じる。
「君が攫われた時は……世界が終わるかと思った。一度失った君をやっと取り戻せるかと思ったのに、また失うのかと」
「……私も、もしもこのまま帰ることができなかったらと思ったら……とても悲しくて、辛くて……」
「すまなかった」
「……どうして殿下が謝るのですか」
「もっと気をつけていれば、君をあんな目に遭わせることはなかっただろうに」
「あれは……誰にも予想できなかったことです」
もしもこの世界が、アリスが言っていた『クリスティナがヒロイン』の世界だとしたら。シリルの事件は防ぎようがなかったのかもしれない。――そのイベントの内容を知る者がいないから真相は分からないけれど。
どうして私たちがゲームの世界に転生したのか、この先何が起きるのか。
分からないこともあるけれど、それでも私も優斗も、そしてアリスも、この世界に生きている。
ゲームではない、やり直しのできない人生として。
「これからも、何が起きるのか分かりませんが。それでも私は殿下……アルフレッド様と共に乗り越えていきたいです」
「ああ」
力がこもる、殿下の腕の、その強さと温かさに。
私はこの人生をこの人と生きていくのだと改めて決意しながら、その背中に手を伸ばした。
おわり
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