43 / 62
第5章 繋がる過去
06
しおりを挟む
「疲れた…」
ルーチェはソファへと身を投げ出した。
「あのエロ王子…何が〝変えていく〟よ。セクハラが増しただけじゃない」
「…でも、確かに変わったらしいわ」
ロゼはソファの空いている片隅へと腰を下ろした。
「真面目に仕事してるってお兄様が喜んでいたわ。それに…これまで自分から女性に触れようとする事は無かったんですって」
「そういう変わり方は求めてないから!」
ルーチェはがばと起き上がった。
「確かに…ゲームの殿下もキス魔だったけど人前ではしなかったしもっとクールだったから!」
ダンスの練習の最中、フェールに注意を受けながらもユークは隙あらばルーチェにキスをしようとしたり必要以上に身体を密着させたりしていた。
耐えかねたルーチェがフェールやヴァイスが引くほどの派手な音を立ててユークの頬を叩いたけれど、むしろ嬉しそうで全く懲りていないようだった。
「でもルーチェと殿下のダンスは素敵だったわ」
思い出しながらロゼは目を細めた。
「さすが〝ヒロイン〟と〝ヒーロー〟ね」
「…それはどうも…」
「私はまだ全然踊れないから…」
ロゼはため息をつくと視線を落とした。
「正直…ダンスって好きじゃないの。思い通りに身体は動かないし、すぐお兄様に怒られるし…」
「…でも、ロゼも楽しそうに踊っていたじゃない」
「———ヴァイス様が、私と踊るのは楽しいって言ってくれたの」
ロゼの口元に笑みが浮かんだ。
「それを聞いたら…気持ちが楽になったの。だからヴァイス様と踊るのは楽しいわ」
「あら、惚気?」
「そういうんじゃないわ」
「———確かに、ダンスを上手く踊れるかは貴族にとって重要だけど。ロゼはずっと領地で療養していた事になっているから多少下手でもいいんじゃないかしら」
顔を上げたロゼを見てルーチェは微笑んだ。
「ヴァイス様と踊っている時のロゼは本当に楽しそうで、幸せそうだったもの」
「…ありがとう、ルーチェ」
「殿下と踊った時もそれなりに楽しそうだったけど。何を話していたの?」
途中、パートナーを変えて踊る事になりロゼはユークと、ルーチェはヴァイスと一曲踊ったのだが、ロゼたちは何やら小声で話をしていたのだ。
「殿下に聞かれたの、ルーチェが好きなものは何かって」
「…何て答えたの?」
「秘密」
ふふっとロゼは微笑んだ。
「贈り物をしたいそうだから、その時のお楽しみよ」
「…怖いんだけど」
「それと、どういう男性が好きかって」
「———それは何て答えたの」
「頼り甲斐のある人、でいいのよね?」
ロゼは首を傾げた。
「…それは、そうね」
「あと殿下の顔は好みだって言っていたと伝えたわ」
「言っちゃったの?!」
「だって自分が好かれる要素があるか、とても気にしていたんだもの…ダメだった?」
ロゼは眉を曇らせた。
「…いや…まあ良いけど…」
「殿下はルーチェに好かれたくて仕方ないみたい」
ロゼはルーチェの顔を覗き込んだ。
「ルーチェは殿下の事、どう思っているの?」
「どうって…エロ王子?」
「それだけ?ドキドキしたりしないの?」
「…うーん…」
ルーチェは首を傾げた。
「何か…行動が子供っぽいというか。ときめかないのよね」
「でも何度も…キス…してるのでしょう?」
そう言うロゼの頬が赤くなった。
「…キスしたのにときめかないの?」
「———そういう雰囲気じゃないし」
ユークにキスされる時は向こうが一方的にしてくるばかりで、ムードや色気といったものはない。
「やっぱりムードって大事だと思うのよね」
「そうね…」
自分へ向けられる好意も…キスも、不快なものではないけれど。
正直、ルーチェはまだユークに対して恋愛的感情は抱けなかった。
「ロゼはお披露目と婚約に向けて順調なのね」
今日のダンスの練習も、その後のお茶の時間も。
ヴァイスがロゼを見つめる視線はとても優しくて、ロゼのヴァイスへ向ける笑顔も穏やかで幸せに満ちていた。
「…うん……」
頷いたロゼの顔が曇ったのを見て、ルーチェは眉をひそめた。
「何か心配?」
「…少し…」
ロゼは視線を落とした。
「ヴァイス様の…お兄様が…」
「———あの怖いって言っていた人?」
ルーチェは面識がないが、ロゼがひどく怯えていたのは知っている。
「…悪い噂があるんですって」
「悪い噂?」
「よくない商人と繋がりがあるとか…」
ロゼは自分の手をぎゅっと握りしめた。
「———あの目が怖いの」
「目?」
「すごく怖くて…思い出すだけでも…」
「ロゼ」
ルーチェはロゼの手に自分の手を重ねた。
「怖いなら思い出さないで」
「私———あの目を知っているの。ずっと昔から…」
「どういう事?」
「…分からないけど…ずっとずっと前から知っているの」
落としたままの視線は虚ろで何も見ていないようだった。
ルーチェはソファへと身を投げ出した。
「あのエロ王子…何が〝変えていく〟よ。セクハラが増しただけじゃない」
「…でも、確かに変わったらしいわ」
ロゼはソファの空いている片隅へと腰を下ろした。
「真面目に仕事してるってお兄様が喜んでいたわ。それに…これまで自分から女性に触れようとする事は無かったんですって」
「そういう変わり方は求めてないから!」
ルーチェはがばと起き上がった。
「確かに…ゲームの殿下もキス魔だったけど人前ではしなかったしもっとクールだったから!」
ダンスの練習の最中、フェールに注意を受けながらもユークは隙あらばルーチェにキスをしようとしたり必要以上に身体を密着させたりしていた。
耐えかねたルーチェがフェールやヴァイスが引くほどの派手な音を立ててユークの頬を叩いたけれど、むしろ嬉しそうで全く懲りていないようだった。
「でもルーチェと殿下のダンスは素敵だったわ」
思い出しながらロゼは目を細めた。
「さすが〝ヒロイン〟と〝ヒーロー〟ね」
「…それはどうも…」
「私はまだ全然踊れないから…」
ロゼはため息をつくと視線を落とした。
「正直…ダンスって好きじゃないの。思い通りに身体は動かないし、すぐお兄様に怒られるし…」
「…でも、ロゼも楽しそうに踊っていたじゃない」
「———ヴァイス様が、私と踊るのは楽しいって言ってくれたの」
ロゼの口元に笑みが浮かんだ。
「それを聞いたら…気持ちが楽になったの。だからヴァイス様と踊るのは楽しいわ」
「あら、惚気?」
「そういうんじゃないわ」
「———確かに、ダンスを上手く踊れるかは貴族にとって重要だけど。ロゼはずっと領地で療養していた事になっているから多少下手でもいいんじゃないかしら」
顔を上げたロゼを見てルーチェは微笑んだ。
「ヴァイス様と踊っている時のロゼは本当に楽しそうで、幸せそうだったもの」
「…ありがとう、ルーチェ」
「殿下と踊った時もそれなりに楽しそうだったけど。何を話していたの?」
途中、パートナーを変えて踊る事になりロゼはユークと、ルーチェはヴァイスと一曲踊ったのだが、ロゼたちは何やら小声で話をしていたのだ。
「殿下に聞かれたの、ルーチェが好きなものは何かって」
「…何て答えたの?」
「秘密」
ふふっとロゼは微笑んだ。
「贈り物をしたいそうだから、その時のお楽しみよ」
「…怖いんだけど」
「それと、どういう男性が好きかって」
「———それは何て答えたの」
「頼り甲斐のある人、でいいのよね?」
ロゼは首を傾げた。
「…それは、そうね」
「あと殿下の顔は好みだって言っていたと伝えたわ」
「言っちゃったの?!」
「だって自分が好かれる要素があるか、とても気にしていたんだもの…ダメだった?」
ロゼは眉を曇らせた。
「…いや…まあ良いけど…」
「殿下はルーチェに好かれたくて仕方ないみたい」
ロゼはルーチェの顔を覗き込んだ。
「ルーチェは殿下の事、どう思っているの?」
「どうって…エロ王子?」
「それだけ?ドキドキしたりしないの?」
「…うーん…」
ルーチェは首を傾げた。
「何か…行動が子供っぽいというか。ときめかないのよね」
「でも何度も…キス…してるのでしょう?」
そう言うロゼの頬が赤くなった。
「…キスしたのにときめかないの?」
「———そういう雰囲気じゃないし」
ユークにキスされる時は向こうが一方的にしてくるばかりで、ムードや色気といったものはない。
「やっぱりムードって大事だと思うのよね」
「そうね…」
自分へ向けられる好意も…キスも、不快なものではないけれど。
正直、ルーチェはまだユークに対して恋愛的感情は抱けなかった。
「ロゼはお披露目と婚約に向けて順調なのね」
今日のダンスの練習も、その後のお茶の時間も。
ヴァイスがロゼを見つめる視線はとても優しくて、ロゼのヴァイスへ向ける笑顔も穏やかで幸せに満ちていた。
「…うん……」
頷いたロゼの顔が曇ったのを見て、ルーチェは眉をひそめた。
「何か心配?」
「…少し…」
ロゼは視線を落とした。
「ヴァイス様の…お兄様が…」
「———あの怖いって言っていた人?」
ルーチェは面識がないが、ロゼがひどく怯えていたのは知っている。
「…悪い噂があるんですって」
「悪い噂?」
「よくない商人と繋がりがあるとか…」
ロゼは自分の手をぎゅっと握りしめた。
「———あの目が怖いの」
「目?」
「すごく怖くて…思い出すだけでも…」
「ロゼ」
ルーチェはロゼの手に自分の手を重ねた。
「怖いなら思い出さないで」
「私———あの目を知っているの。ずっと昔から…」
「どういう事?」
「…分からないけど…ずっとずっと前から知っているの」
落としたままの視線は虚ろで何も見ていないようだった。
70
あなたにおすすめの小説
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい
はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。
義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。
それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。
こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…
セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。
短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。
【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。
第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。
「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。
「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。
だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。
全43話+番外編です。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる