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第7章 月の女神と光の乙女
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「お嬢様…やはり今日はお休みになられた方がよろしいのでは」
針を手にしたままぼんやりとしているロゼに、侍女が声をかけた。
「え…」
我に帰ったロゼは手元と侍女を見比べた。
「そうね…でも誕生日まで時間がないから」
お披露目から一夜明け、ロゼは一人屋敷で刺繍をしながら過ごしていた。
父親と兄は王宮に出仕し、母親も王妃に呼ばれてやはり王宮へ行っている。
そしてルーチェも家族の見送りのために出かけていた。
ロゼが刺しているのは父親の誕生日に贈るスカーフだ。
お披露目でヴァイスが使うために刺繍しているのを見て、もの凄く羨ましそうな顔をしていたので誕生日に贈ると約束したのだ。
その時フェールも物言いたげにしていたので、兄の分も作らないとならないだろう。
「でもお疲れなのでございましょう。さっきから手が止まっておりますわ」
「…そうね」
ロゼは手にしていた針と布を置いた。
「ではお茶を入れてくれる?」
「かしこまりました」
侍女が出ていくと、ロゼはふうと息を吐いた。
疲れているわけではない。
確かに昨日は昼間から準備に終われ、夜遅くまでお披露目だったけれど。
ただすぐ昨夜の事を思い出してぼんやりしてしまうのだ。
ロゼにとっては初めての社交の場。
きらびやかなドレスと香水の香りに満ちたそこはまるで映画の世界のようだった。
その場所に、まさか自分が主役としていたなんて。
夢のような一夜だった。
それに…
ロゼはそっと自分の唇に触れた。
(…意外と柔らかった…)
まだヴァイスの感触が残るそこは熱を帯びているようだった。
バルコニーでの事を思い出すと身体まで熱くなってくる。
「お嬢様」
甘美な記憶に浸っていると侍女が入ってきた。
「アルジェント家から使者でございます」
「え?」
「こちらを」
目の前に封筒が差し出される。
アルジェント家の紋章が入った封筒の中には、急用があるためこれから馬車を向かわせるから屋敷に来て欲しいと書いてあった。
「急用…?」
ロゼは首を傾げた。
「お嬢様?」
「…これなんだけれど」
ロゼは手紙を侍女に渡した。
「まあ…急いで支度をしなければなりませんね」
手紙を覗き込んだ侍女たちは慌てて動き始めた。
アルジェント家の紋章が入った馬車が到着すると、ロゼは侍女を一人連れて乗り込んだ。
(お屋敷に行くのは初めてだわ…)
元々家を継がないつもりだったヴァイスとは、新たな屋敷を建ててそこに住もうと言っていた。
貴族が嫌いで騎士団の宿舎に住んでいるヴァイスと、庶民歴の長いロゼは大きすぎる屋敷は落ち着かないとの意見で一致していた。
そして王宮から近い、ある商人の邸宅が近々空くとの情報を得てそこを改築して新居にする予定だったのだが、ディランの件でヴァイスがアルジェント家を継ぐ事になってしまった。
結婚すればアルジェント家の屋敷に住む事になるだろう。
「———お嬢様…」
どんな家なのだろうと思いを巡らせていると、閉じられた馬車の窓の隙間から外を覗いた侍女が口を開いた。
「…様子がおかしい気がします」
「え?」
「アルジェント家に行くのに…このような場所を通る必要は…」
ガタン、と大きく馬車が揺れた。
「きゃあ!」
「お嬢様!」
椅子から落ちそうになったロゼを侍女が慌てて支えた。
「何…?」
「道が…悪くなって…」
ガタガタと馬車が揺れ始めた。
(何…どういう事?)
侍女の腕にしがみつきながらロゼは気づいた。
———今日はヴァイスや将軍も王宮にいるはずで…何かあれば王宮から連絡が来るのが自然だろう。
ドクン、と心臓が大きく震えた。
手が震えるのを堪えながらロゼはそっと外を伺った。
「…森…?」
窓の外には大きな木々が立ち並び…とても王都とは思えない。
「ここは…どうして…」
ぎゅっとロゼは手を握り締めた。
どれだけ時間が経っただろう。
ふいに馬車が止まった。
「お嬢様…」
「ハンナ…大丈夫よ」
震える侍女の手を握りしめて外へと意識を向ける。
ガタガタと音がして、馬車の扉が開き———ロゼは息を飲んだ。
「久しぶりだな、義妹殿」
異様に目をギラつかせたディランが立っていた。
針を手にしたままぼんやりとしているロゼに、侍女が声をかけた。
「え…」
我に帰ったロゼは手元と侍女を見比べた。
「そうね…でも誕生日まで時間がないから」
お披露目から一夜明け、ロゼは一人屋敷で刺繍をしながら過ごしていた。
父親と兄は王宮に出仕し、母親も王妃に呼ばれてやはり王宮へ行っている。
そしてルーチェも家族の見送りのために出かけていた。
ロゼが刺しているのは父親の誕生日に贈るスカーフだ。
お披露目でヴァイスが使うために刺繍しているのを見て、もの凄く羨ましそうな顔をしていたので誕生日に贈ると約束したのだ。
その時フェールも物言いたげにしていたので、兄の分も作らないとならないだろう。
「でもお疲れなのでございましょう。さっきから手が止まっておりますわ」
「…そうね」
ロゼは手にしていた針と布を置いた。
「ではお茶を入れてくれる?」
「かしこまりました」
侍女が出ていくと、ロゼはふうと息を吐いた。
疲れているわけではない。
確かに昨日は昼間から準備に終われ、夜遅くまでお披露目だったけれど。
ただすぐ昨夜の事を思い出してぼんやりしてしまうのだ。
ロゼにとっては初めての社交の場。
きらびやかなドレスと香水の香りに満ちたそこはまるで映画の世界のようだった。
その場所に、まさか自分が主役としていたなんて。
夢のような一夜だった。
それに…
ロゼはそっと自分の唇に触れた。
(…意外と柔らかった…)
まだヴァイスの感触が残るそこは熱を帯びているようだった。
バルコニーでの事を思い出すと身体まで熱くなってくる。
「お嬢様」
甘美な記憶に浸っていると侍女が入ってきた。
「アルジェント家から使者でございます」
「え?」
「こちらを」
目の前に封筒が差し出される。
アルジェント家の紋章が入った封筒の中には、急用があるためこれから馬車を向かわせるから屋敷に来て欲しいと書いてあった。
「急用…?」
ロゼは首を傾げた。
「お嬢様?」
「…これなんだけれど」
ロゼは手紙を侍女に渡した。
「まあ…急いで支度をしなければなりませんね」
手紙を覗き込んだ侍女たちは慌てて動き始めた。
アルジェント家の紋章が入った馬車が到着すると、ロゼは侍女を一人連れて乗り込んだ。
(お屋敷に行くのは初めてだわ…)
元々家を継がないつもりだったヴァイスとは、新たな屋敷を建ててそこに住もうと言っていた。
貴族が嫌いで騎士団の宿舎に住んでいるヴァイスと、庶民歴の長いロゼは大きすぎる屋敷は落ち着かないとの意見で一致していた。
そして王宮から近い、ある商人の邸宅が近々空くとの情報を得てそこを改築して新居にする予定だったのだが、ディランの件でヴァイスがアルジェント家を継ぐ事になってしまった。
結婚すればアルジェント家の屋敷に住む事になるだろう。
「———お嬢様…」
どんな家なのだろうと思いを巡らせていると、閉じられた馬車の窓の隙間から外を覗いた侍女が口を開いた。
「…様子がおかしい気がします」
「え?」
「アルジェント家に行くのに…このような場所を通る必要は…」
ガタン、と大きく馬車が揺れた。
「きゃあ!」
「お嬢様!」
椅子から落ちそうになったロゼを侍女が慌てて支えた。
「何…?」
「道が…悪くなって…」
ガタガタと馬車が揺れ始めた。
(何…どういう事?)
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———今日はヴァイスや将軍も王宮にいるはずで…何かあれば王宮から連絡が来るのが自然だろう。
ドクン、と心臓が大きく震えた。
手が震えるのを堪えながらロゼはそっと外を伺った。
「…森…?」
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「ここは…どうして…」
ぎゅっとロゼは手を握り締めた。
どれだけ時間が経っただろう。
ふいに馬車が止まった。
「お嬢様…」
「ハンナ…大丈夫よ」
震える侍女の手を握りしめて外へと意識を向ける。
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