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05 帰る場所
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朝食を終えると全員で後片付けをし、洗濯、掃除と分担しながらこなしていく。
それが終わると勉強の時間だ。
文字の読み書きや計算など、個々の能力に合わせてフランカが教えていく。
ハルムは家事を手伝ったり、勉強を教える様子を面白そうに眺めていた。
昼食を終えると神父がやってきた。
いつもならば午後は神父も加わり勉強の時間となるのだが、今日は皆に本を読むよう指示してフランカを一人、呼び出した。
「ハルムの事なんだけどね」
教会の礼拝室へとフランカを連れてきて、神父は口を開いた。
「はい」
「フランカは彼が本当に天使だと思うかい?」
「———神父様は思わないのですか」
フランカは問い返した。
「昨日のあの現れ方を見ると本当かなとは思うんだけど。でも今まで天使が実在したとか現れたなんて聞いた事も読んだ事もないからね」
「…神父様が天使の存在を否定するんですか」
「彼があまりにも人間と変わらないからね。翼もすぐ消えてしまったし」
「私は……彼は、天使だと思います」
フランカは言った。
「確かに見た目は人間と同じですけど…違うところも色々ありますし」
フランカは朝食でのハルムの様子を神父に話した。
ハーブティーを気に入ったのか、昼食の時はマグカップにたっぷりと注いだそれを飲み干していた。
「そうか。子供たちも受け入れているようだね」
「はい。あの子たちはハルムが天使という事よりも、新しい家族が増えて嬉しがっているようです」
「新しい家族か」
微笑んだ神父は、ふと真顔になった。
「本当に天使かどうかはともかく、彼を今後どうするかだけど」
「はい」
「昨日ハルムと話したんだけれどね、彼は元の場所には帰りたくないと言っていたよ」
「…私も聞きました」
今朝のハルムとの会話を思い出す。
「でも…私は、彼は元の場所に帰るべきだと思います」
「フランカがそういう事を言うのは意外だね」
神父は少し目を丸くした。
「でもどうやって帰す?帰り方は本人も分からないと言っていたのに」
「来月のお祭りの…女神の月と天使の涙が重なる時に。帰れるかもしれません」
「それは、どうして?」
「女神の力が強くなる、十年に一度の特別な日ですから」
「———フランカがそう言うなら、そうかもしれないね」
教会に引き取られた時から、フランカは少し変わった子供だった。
まだ五歳だというのに大人びた話し方や考えを持ち、自分が親に捨てられたのだという事実も冷静に受け入れていた。
どうやって手に入れたのか、その知識も五歳のものとは思えないほどで。
神父が知らないような事まで知っていた。
「だけど本人は帰りたくないと言っているよ」
「それでも、彼は帰るべきなんです」
神父を見つめてフランカははっきりとそう言った。
家に戻ると神父の妻が来ていた。
「ハルムに合いそうな大きさの服を貰ってきたのよ」
子供たちの服は基本的に、町の人たちからのお下がりなど寄付でまかなっている。
今いる男の子は十歳のベックと八歳のクルトの二人なので、外見が十六歳くらいのハルムに合う服は手元になかった。
貰った服に着替えたハルムは嬉しそうだった。
「着替えたらエプロンをつけるんだよ」
「エプロン?」
「畑仕事の時間だよ」
「草をむしって、おイモを収穫するの」
「帽子も被るんだよ」
「ああ、その前に。ハルムの事でみんなに守ってもらいたい事があるんだ」
子供たちがハルムを囲んで外へ連れ出そうとするのを神父が制した。
「守る事?」
「ハルムが天使だという事を、他の人たちに言ってはいけないよ」
一同を見渡して神父は言った。
「どうして?」
「悪い人に知られたら困る事が起きるかもしれないんだ」
「困る事?」
「そう、例えば悪い人に連れていかれてしまったり。色々大変な事が起きるかもしれないんだよ」
子供たちは顔を見合わせた。
「そんなのダメだよ」
「じゃあどうすればいいの?」
「もしも誰かにハルムの事を聞かれたらね、家の事情でしばらくこの孤児院で預かる事になったんだと言うんだよ。分かったかい?」
「うん」
「分かったよ」
「ハルムも、もしも他の人間に声をかけられる事があったら気をつけるんだよ」
「分かった」
「よし、みんないい子だね。フランカ、お前も気をつけてやってくれ」
「…ええ」
「頼んだよ」
フランカを労わるように、神父はその頭を優しく撫でた。
それが終わると勉強の時間だ。
文字の読み書きや計算など、個々の能力に合わせてフランカが教えていく。
ハルムは家事を手伝ったり、勉強を教える様子を面白そうに眺めていた。
昼食を終えると神父がやってきた。
いつもならば午後は神父も加わり勉強の時間となるのだが、今日は皆に本を読むよう指示してフランカを一人、呼び出した。
「ハルムの事なんだけどね」
教会の礼拝室へとフランカを連れてきて、神父は口を開いた。
「はい」
「フランカは彼が本当に天使だと思うかい?」
「———神父様は思わないのですか」
フランカは問い返した。
「昨日のあの現れ方を見ると本当かなとは思うんだけど。でも今まで天使が実在したとか現れたなんて聞いた事も読んだ事もないからね」
「…神父様が天使の存在を否定するんですか」
「彼があまりにも人間と変わらないからね。翼もすぐ消えてしまったし」
「私は……彼は、天使だと思います」
フランカは言った。
「確かに見た目は人間と同じですけど…違うところも色々ありますし」
フランカは朝食でのハルムの様子を神父に話した。
ハーブティーを気に入ったのか、昼食の時はマグカップにたっぷりと注いだそれを飲み干していた。
「そうか。子供たちも受け入れているようだね」
「はい。あの子たちはハルムが天使という事よりも、新しい家族が増えて嬉しがっているようです」
「新しい家族か」
微笑んだ神父は、ふと真顔になった。
「本当に天使かどうかはともかく、彼を今後どうするかだけど」
「はい」
「昨日ハルムと話したんだけれどね、彼は元の場所には帰りたくないと言っていたよ」
「…私も聞きました」
今朝のハルムとの会話を思い出す。
「でも…私は、彼は元の場所に帰るべきだと思います」
「フランカがそういう事を言うのは意外だね」
神父は少し目を丸くした。
「でもどうやって帰す?帰り方は本人も分からないと言っていたのに」
「来月のお祭りの…女神の月と天使の涙が重なる時に。帰れるかもしれません」
「それは、どうして?」
「女神の力が強くなる、十年に一度の特別な日ですから」
「———フランカがそう言うなら、そうかもしれないね」
教会に引き取られた時から、フランカは少し変わった子供だった。
まだ五歳だというのに大人びた話し方や考えを持ち、自分が親に捨てられたのだという事実も冷静に受け入れていた。
どうやって手に入れたのか、その知識も五歳のものとは思えないほどで。
神父が知らないような事まで知っていた。
「だけど本人は帰りたくないと言っているよ」
「それでも、彼は帰るべきなんです」
神父を見つめてフランカははっきりとそう言った。
家に戻ると神父の妻が来ていた。
「ハルムに合いそうな大きさの服を貰ってきたのよ」
子供たちの服は基本的に、町の人たちからのお下がりなど寄付でまかなっている。
今いる男の子は十歳のベックと八歳のクルトの二人なので、外見が十六歳くらいのハルムに合う服は手元になかった。
貰った服に着替えたハルムは嬉しそうだった。
「着替えたらエプロンをつけるんだよ」
「エプロン?」
「畑仕事の時間だよ」
「草をむしって、おイモを収穫するの」
「帽子も被るんだよ」
「ああ、その前に。ハルムの事でみんなに守ってもらいたい事があるんだ」
子供たちがハルムを囲んで外へ連れ出そうとするのを神父が制した。
「守る事?」
「ハルムが天使だという事を、他の人たちに言ってはいけないよ」
一同を見渡して神父は言った。
「どうして?」
「悪い人に知られたら困る事が起きるかもしれないんだ」
「困る事?」
「そう、例えば悪い人に連れていかれてしまったり。色々大変な事が起きるかもしれないんだよ」
子供たちは顔を見合わせた。
「そんなのダメだよ」
「じゃあどうすればいいの?」
「もしも誰かにハルムの事を聞かれたらね、家の事情でしばらくこの孤児院で預かる事になったんだと言うんだよ。分かったかい?」
「うん」
「分かったよ」
「ハルムも、もしも他の人間に声をかけられる事があったら気をつけるんだよ」
「分かった」
「よし、みんないい子だね。フランカ、お前も気をつけてやってくれ」
「…ええ」
「頼んだよ」
フランカを労わるように、神父はその頭を優しく撫でた。
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