元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

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10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】

ミーシャの過去 後編

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ミーシャの生まれ故郷となる村は、彼女の家族や村人共々、魔物デュラハンによって滅ぼされた。彼女は、友人や家族の仇を討つため強くなろうとしている。だから、強者で同年代の私やオーキスと戦いたがっていたのか。

「ミーシャ。私からも質問していいかな?」
「シャーロット、気になる点があるの?」
ありまくりだよ。

「まず、どうしてあなたの怨敵でもあるデュラハンの臭いが、旅芸人の男性にこびりついていたの?」
この疑問点は、ここにいる全員が思っていることだ。

「答えは簡単。その男性自身が王都に来る途中でデュラハンと偶然遭遇し戦ったけど、あと1歩のところで逃げられたと言っていた。王都が危ない」

【擬態】スキルや【幻惑魔法】を持っている以上、王都への侵入も簡単だろう。ミーシャの言う通り、通常であればかなり危険な魔物だ。

「その点については心配いらないよ~。昨日、私とコウヤ先生が旅芸人の男性と話し合い、何処で戦ったのかを詳細に聞いておいたから、全容を冒険者ギルドのギルドマスターに伝えている。今頃、Bランク以上の討伐依頼として掲示板に貼り出されている頃かな~」

キョウラク先生、行動が迅速だよね。それだけデュラハンの脅威度が高いんだ。2年前と違い、今のエルディア王国の冒険者達はマリルのおかげもあって、飛躍的に強くなっている。まだ、数こそ少ないけど、Bランク冒険者達も王都内に複数いる。ただ、デュラハンの強さ次第では、私が極秘裏に動く可能性もあるね。

「キョウラク先生、私がそのデュラハンを倒したい」

ミーシャの目は真剣だ。親の仇である以上、彼女の気持ちもわかるけど、先生は許可しないだろう。

「ミーシャ、現実を見ようか。相手はBランク以上の魔物だ。今の君では確実に殺されるよ」

ストレートに言われたからか、ミーシャが自分の不甲斐なさからか歯噛みする。

「今回の事件、本来であれば、君は退学になってもおかしくない。旅芸人の男性は、《子供の将来を摘み取らせてはいけない》と我々に強く訴えてくれた。だからこそ今回に限り、君は不問となり何の法的刑罰も与えられない。君は、彼の思いを無にしたいのかな~?」

勘違いで襲われた男性が、良識のある人でよかった。これが貴族だった場合、退学になってもおかしくない。

「わかり…ました」
ここまで言われたら、ミーシャも引き下がるしかないよね。

「我々も、ミーシャの事情を理解している。だからこそ、君の行動範囲を制限させてもらうよ~。デュラハンが討伐されるまで、学外に出ることを禁止する。学園の敷地内を移動する際も、オーキスやフレヤといった気心の知れた仲間達と行動すること! 単独行動を禁止とする!」

ミーシャには法的な刑罰ではなく、学園の生徒としての罰を与えるわけね。

「監視するようで申し訳ないけど、君の理性が飛んで、また誰かをデュラハンと勘違いして襲うという可能性を否定できない。わかってくれるね?」

「……はい」
ミーシャが10歳の子供である以上、突発的事象が起きた場合、心を上手く制御できないだろう。彼女を不幸にさせないための策か。

ミーシャから、もっと詳しい話を聞いておきたい。大人達に対して本当のことを当然話しているだろうけど、細部まで話していないと思う。彼女の過去をきちんと聞いて、彼女が再度理性を失わないよう、策を入念に練っていこう。


○○○ ミーシャ視点


憎い…憎い…私の怨敵デュラハンが憎い。


私の故郷はここから遥か北に位置するルニオール連合国(旧ガーランド法王国)、西部地方の山間部にある旧ヒュデル村。3年前までは、私も幸せだった。父と母と兄との生活、友達も大勢いて、全てが楽しかった。

でも、あの男が村に来てから、少しずつ何かが変化していった。

あの男はとても器用で、家事掃除もそつなくこなし誰よりも強いこともあって、たった3日で皆から信頼される人間になった。奴はランダルキア大陸中央地方出身で、竜人族のことや、大陸中央から西部までの情報にとても詳しかった。村内に王都出身の獣人の冒険者もいたことから、その情報が正しいこともわかった。

奴の話す内容は全て面白く、当時の私も引き寄せられた。

事態が変わったのは奴が来てから10日目、村の人達が少しずつ体調を崩していき、私自身も風邪を拗らせて寝たきりの状態になってしまった。高熱で魘され、意識も朦朧とする中、何処からか唸り声や叫び声が聞こえてきた。父と母は……

『大丈夫。ミーシャは寝ていろ。風邪のせいで、幻聴が聞こえるだけだ』
『あなたは何も考えず、寝ていればいいのよ』

私はその言葉を信じて、瞼を閉じた。そして、次に目を開けた時……家には誰もいなかった。

『グワグワグワググググウガガガガガ』
『ガゴガガ、ガボコヲ』

窓の外から、よくわからない獣の様な声が聞こえてきた。

「くそ、おれがもう少し早く戻って来れれば!」
『ゴガエハバブグバイ』
『ザア、ゴゴジデ』

「……すまん!」

『バリガド…ガガゴヲ…』
「ああ、わかった」

私は不気味に感じたものの、窓からそっと外を覗いてしまった。あの時の光景は、生涯忘れられない。何故なら、私が見たのは、首のない身体の魔物が、父と母を剣で刺し殺す瞬間だったのだから。あまりの恐怖でその場を動けず、ずっとその魔物を見続けた。すると、空中から首がその身体のもとへ舞い戻ってきて、身体と結合したの。

その姿を見て、私は目を見開いたわ!

私の父と母を殺した犯人は、村の中で誰よりも強かったあの男だったのだから。
あいつは人間なんかじゃなく、魔物【デュラハン】!

私は家の裏口から外に出て、必死に逃げた。周囲には、村人達の死骸が散乱していて、身体中には誰かに噛み付かれ食いちぎられたかのような跡が無数にあった。私は無我夢中で必死に走って逃げたけど、あいつに追いつかれ簡単に捕まり、死の恐怖のせいで意識を無くした。

そして……目覚めた時には、あいつの姿もなく場所も変化していた。周囲には私と同じくらいの子供が大勢いて、誰かが《ここは王都の孤児院だよ》と教えてくれたのだけど、正直意味がわからなかった。

私の村は? 父と母は? みんなは? 全部夢なの?

とりあえず、自分のステータスで日付を確認すると、あの日から2週間も経過していて驚いた。私の故郷から500キロ近く離れている王都に、誰が私を移動させたのか疑問に思ったけど、誰も真相を知らなかった。ある日突然、孤児院の入口に私と手紙と多額の寄付金が置かれていたらしい。

体調を回復させた後、私の故郷で何があったのか冒険者ギルドなどで聞き回ると、あの村で起きた事件は実際に起きた出来事で、しかも周辺地域の街や村でも同様の事件が起きていたらしく、その原因も判明していた。

3体の魔物【デュラハン】が私の村だけでなく、周辺の街や村にも侵入し、大勢の人々を虐殺していった。冒険者や精鋭騎士達が総出となってデュラハンを捜索した結果、2体を討伐できたけど、残りの1体の行方は皆目わからなかった。王国側は近隣諸国にも情報を開示し、金貨1000枚という懸賞金付きの討伐依頼を大陸中のギルドに出しているにも関わらず、私の村を壊滅させた残り1体のデュラハンの行方だけは依然として不明のまま。

当時7歳の私は何も出来なかったけど、両親の仇を討つためにも強くなろうと誓った。冒険者の人達からあらゆることを学び鍛錬を続けると同時にデュラハンについても調査した。奴は【擬態】【幻惑】を操るBランク以上の強者だ。つまり、私の見たあの男の姿は偽物かもしれない。

頼れるのは、【あいつの醸し出す臭い】のみ! 
あの臭いだけは、絶対に忘れてはいけない!
何処かであの臭いの持つ者と再会したら、必ず奴を仕留めてやる!

そのためにも、私は基礎能力を高める訓練を怠ることなくやり続けた。

そしてある時、魔鬼族トキワ・ミカイツと聖女シャーロット・エルバランが、ガーランド法王国を滅ぼした。私にとって、魔人族の差別などどうでも良かった。

あの事件が起きた時、私は直感的に感じた。
【トキワとシャーロットは、私の怨敵デュラハンよりも強い!】

だから、私は2人との接触を試みようと思ったけど失敗してしまった。その後、知り合いの冒険者がエルディア王国王都の学園に入学すれば、シャーロットと必ず接触できると教えてくれたこともあって、エルディア王国の国民になってから勉強に勉強を重ね入学試験3位の成績で入学することができた。しかも、平民の中でも高成績を修めたことから、入学金や1年間の授業料も免除された。

トキワとは出会えていないけど、シャーロットは私の思った通り、私なんかよりも遥かに強い。タライを先生の真上に落とす発想、ふらついた先生を容赦なく落とし穴に落とす発想、私はそんな戦闘方法を考えたこともなかった。

そして私との模擬戦の際、彼女は私に対して迷いのない攻撃を放ってきた。周りからは急所への寸止め攻撃と思われているけど、実際は違う。

彼女が寸止めした後、小さな衝撃波が私の急所に何度も何度も食い込み、私の敏捷性能がどんどん低下していき、結局彼女の本当の強さを知らぬまま負けてしまった。

私はシャーロットの底知れぬ強さの秘密を知りたい。
そして、彼女から強くなるための方法を教わりたい。

旅芸人の男性には申し訳ないことをしたけど、キョウラク先生の配慮のおかげで、シャーロットと深く知り合うキッカケを作ってもらえた。こういった機会は早々ないだろうから、彼女にどんどん質問して強さの秘密を吸収していきたい。

トキワ、シャーロットが出動することになったら、奴も討伐されるだろう。でも、もし誰にも見つけられなかった場合、私はあいつを見つけ出して必ず殺してやる!

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