元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

文字の大きさ
244 / 277
10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】

フレヤ、行方不明となる

しおりを挟む
現在の時刻は午後5時47分。
あと30分程で、日が暮れる。
フレヤの帰りが遅い。

いつも午後6時頃になって、寮内にある食堂でオーキスやリーラ達と夕食をとっている。だから遅くなる場合、必ずグローバル通信機経由で、連絡がくる。

もしかして、何かあった? 直接フレヤに連絡してもいいけど、もし事件に巻き込まれている場合、この連絡が原因で殺される場合もある。デュラハンや魔物召喚の所為もあって、私の神経も少し過敏になっている。

私がオーキスに通信しようと思った時、部屋入口のドアからノック音が聞こえた。

「シャーロット、今入っても大丈夫かな?」
この声はオーキスだ。

「オーキス、今ドアを開けるね」
ドアを開けると、オーキスが浮かない顔をしたまま立っている。
もしかして、何かが起きたの?

「シャーロット、フレヤは帰っているかな?」
「まだ、帰ってないよ。帰りが遅いから、私も心配しているんだけど……何かあったの?」

この様子から察すると、フレヤの身に何かが起きた?

「実は……掃除の最後、フレヤが《ゴミ当番》ということもあって、1人でゴミ袋を持ってゴミ集積所へ持っていったのだけど、そこから戻ってこないんだ」

私達の教室からゴミ集積所へ行くためには、一度外へ出ないといけない。といっても、学園の敷地内にあるから10分程で戻ってこれる。

「みんなで探したの?」
「勿論さ! けど、何処にもいないんだ! 掃除当番のみんなで探したけど、学園内の何処を探してもいない」

ということは誘拐? 

でも、その時間帯の学園の敷地内には学生も多く残っているし、警備としてデッドスクリームもいる。もし、異常が起これば、真っ先に私へ連絡を入れるはずだ。全員の目を掻い潜り、何の騒ぎも起こすことなく彼女を連れ去ることは可能だろうか?

このまま無闇に探すのは非効率的だし、二次被害も発生するかもしれない。

「オーキス、彼女がゴミ集積所へ向かった時間帯、何かおかしな事はなかった? どんな些細な事でもいいの」

何の手掛かりもない場合、奥の手を使うしかない。

「フレヤがオトギさんと話し合いながら、ゴミ集積所へ向かっているところを目撃されているよ」

オトギさんがここへ来たの?
魔物騒動が起きたことで、会談は中止となったはず。
まさか、彼がフレヤを誘拐した?

「彼は何処にいるの?」
「それがフレヤと同じで何処にもいないんだ。正門から出た形跡もない」

オトギさんは外部の者だから、敷地内に入る際は正門入口の警備員に訪問理由を説明して、《入場許可証》をもらわないといけない。そして帰り際、返却する手筈となっている。この手順を破った場合、その人は学園からの信頼性を失い、二度と入場できなくなる。

表向きの目的は春蘭祭のイベントに参加すること、裏ではフレヤを誘拐する算段を立てていたのだろうか?

これだけの情報だと、どうしてもオトギさんを疑ってしまう。
2人の身に、何が起きたの?

「他には、何かある?」

あれ?
何故か、オーキスは微妙な顔をしている。

「え~と、この情報が役立つかわからないけど、その時間帯……学園内にて《ほぎょえええ~~~~~~》とかいう奇妙な叫び声を聞いた人が複数いたんだ。その声の主が誰かはわからない。学園内の何処かから響いてきた叫び声は、どんどん遠ざかっていったらしい」

何、その現象? 
誰かに襲われても、普通そんな叫び声をあげないよね?

「それ以外、手掛かりらしきものはゼロ。もう、君の持つ【ポイントアイ】と【マップマッピング】スキルに頼るしかない」

クラスメイト全員で探しても見つからないということは、学園の敷地内にはいないかもしれない。そうなると、私の奥の手でもある《スキル》で彼女の現在位置を確認するしかないか。

「わかった。フレヤもスキル【ポイントアイ】に登録しているから、【マップマッピング】を起動させれば、彼女の現在位置が私のステータスに表示されるよ」

「よかった~」

オーキス、安心するのはまだ早い。デッドスクリームの警備を潜り抜け、フレヤを誘拐するとなると、相手は相当な手練れだ。対応を間違えると、彼女が殺されてしまう。

慎重に進めていこう。彼女の現在位置は……

「これは……」
「え、どうしたの?」
何故、フレヤはこんな場所にいるのだろうか?

「彼女の現在位置は、ここから80キロ程北、高度5000m付近にいるわ」
「5000mだって!?」
彼女の座標が動いていない。
ということは、そこで立ち止まっているということだ。
まさか、フレヤの周囲に誰かがいて話し合っているのだろうか?

「多分、フレヤは誘拐犯と一緒にいるわ。座標が動いていないから、そこで話し……え、何これ!?」

3点の座標のうち、1つの数値が急激に低下していく。
この箇所は……高度を示す数値だ!

まさか……フレヤが5000mから落下しているの!
でも、彼女は風魔法【フライ】を習得しているから、空を飛べるはず。
にも関わらず、高度の座標数値がどんどん低下していく。

どうする? 
ええい……迷っている暇なんてない!
ステータスを信じるしかないわ!

「オーキス、今すぐフレヤの所に行ってくる。何か緊急事態が起きたみたい」
「え!? わ、わかった! こっちは僕に任せて、シャーロットはフレヤを!」

何これ!?
私のステータスから、危機察知の警笛が鳴ってる!
急がないと!

「それじゃあ、行ってくる!」

お願い、間に合って!


○○○ フレヤ視点   《放課後、教室掃除中》


今頃、コウヤ先生は、デュラハンと戦っているのかな? 私自身、この2年間で魔力量と魔法系の数値に関してはAランクの力を身に付けたわ。でも、攻撃・防御・敏捷といった物理面の数値はC~Dランク、実戦経験も少ない。完全に、後衛タイプで近接戦闘に弱いわ。

この学園で物理面を強化したい。オーキスのようなオールラウンダータイプが望ましい。シャーロットから重力魔法を教わり、1.5Gの重力で訓練も行なっているから、少しずつ筋力も着くはず。

「フレヤ、今日のゴミ運搬は君だろ? このゴミを集積場に持って行ってくれないか? 女性だと少し重いと思うから、俺が半分持つよ」

アーバンから手渡されたゴミ袋は2つ。確かに、少し大きいし重そうだわ。

「大丈夫よ。筋力トレーニングだと思って、私1人で持って行くわ!」
アーバンが不安そうな顔をして、私を見つめてくる。

「大丈夫か?」
「ええ、それじゃあ行ってくるわね」

私は両手で2つのゴミ袋を持ち、教室を出て行く。校舎を出て集積場の方へ歩いていると、聞き覚えのある男性の声が後方から聞こえてきた。

「あ、オトギさん! どうして学園に?」

会談については中止になったはず。
う……シャーロットやオーキスがいないせいもあって、胸がドキドキしてきた。

「もうすぐ春蘭祭だろ? 俺達旅芸人が、王都でも有名な公園内で芸を披露するわけだけど、実際そこに行ってみたらかなり広いんだよ。今日予定していた話し合いも中止になったから、あの広い公園の中、どの場所で披露すれば、高い集客率を見込めるか、キョウラク先生に相談していたのさ」

オトギさんって、本業が【旅芸人】なのかしら? 少なくともBランク以上の強さなのだから、冒険者としても食べていけると思うのだけど?

この場で、彼から狂獣病やデュラハンの件を問い詰めたい。
でも、周囲には他の生徒もいるし、聞くに聞けない状態だわ。

「私達も、オトギさんの芸を見に行っていいですか?」
「お、いいとも! もし素晴らしいと思ってくれたのなら、お捻り箱にお金を入れてくれ」

一定のお金を払うのではなく、ショーの優劣で金銭的価値を客に判断させているんだわ。春蘭祭に参加する旅芸人達にとって、技も重要だけど、披露場所が1番の問題なのね。

「わかりました。楽しみにしています!」
「せっかくだから荷物を1つ持つよ。一緒にゴミ捨て場へ行こうか?」

もう少しオトギさんと話し合いたい。トイレの中で、彼は『冒険者や騎士団のみんなは、絶対に誰も死なない』と言っていた。でも、現実は違う。

王都を挟むかのように、合計100体の魔物が北と南側に突如現れた。ガロウ隊長やコウヤ先生がいるとはいえ、絶対に死なないとは言いきれないわ。

せめて、あの言葉の真意だけでも聞き出したい。

「ありがとうございます。今頃、北と南では魔物との戦闘が終わっている頃合いですよね?」

「ああ、そうだろうな。冒険者や騎士達も、日暮れまでの決着を狙っているはずだ」

オトギさんから、動揺する気配が伝わってこない。

「その中に、オトギさんと戦ったデュラハンもいるかもしれませんね」
「…そうだな。《騎士団最強》ガロウ隊長が討伐しているかも…な」

やっぱり、デュラハンの言葉を出すと、少し動揺している。
何を隠しているの?

「ここがゴミ捨て場か。ほれ、フレヤのもほらよっと!」
オトギさんが、2つのゴミ袋をゴミ捨て場へと放り投げた。
どうしよう? 今なら周囲に誰もいないし、聞いてみようかな?

私が彼に声をかけようと思ったら、ゴミ捨て場の端に生えている1本の木の根元が光った。

「フレヤ、どうした?」
「今、あの木の根元が光ったような気がして? ちょっと待っていて下さいね」

誰かが、ゴミを落としたのだろうか? 
私がその木に近づいた瞬間、真下の地面から直径50cm程の変な幾何学的紋様をしたサークルが現れた。

「え? これって何?」
「こいつは!? ヤバイ、フレヤ! そこから離れろ!」
オトギさんが、かなり動揺しているわ。これが、何かを知っているの?
私の注意がオトギさんに向いた瞬間、私の身体が宙に浮かび……

「ほぎょえええ~~~~~~~~~~~」

突然の事で、変な声を出しちゃった!
え、え、何なの!?
私の身体が、超高速でどんどん真上へと急上昇していく!
まるで、何かに引き寄せられているかのようだわ!

私、どうなるの!?
まさか、このまま成層圏を突き抜けて宇宙に行っちゃうの!?
しおりを挟む
感想 1,911

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。