元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

文字の大きさ
260 / 277
最終章【ハーゴンズパレス−試される7日間】

黒幕の住処

しおりを挟む
あの部屋のトラップはシャンデリアのみであったため、正直少し拍子抜けしたけど、私達は気を取り直して先へ進むことにした。

部屋入口付近で見取り図を広げると、次の進路は部屋の窓から外に行くよう矢印が表記されている。ネルマが何か言いたそうにしているけど、とりあえず黙秘したまま窓から外へ出ることにする。

私たちの背丈でも、窓から地面へ余裕で降りれる程の高さだったため、私達は躊躇うことなく足を地面につける。

「これって、行儀が悪くないですか?」

外へ出た途端、ネルマの開口一番クレームが入った。
《窓から外へ出ろ》だもんね。
貴族なら絶対に行わない行為だよ。

「ここは、ダンジョン化された遺跡だから気にしちゃダメ。でも、帰還して以降、絶対にやってはいけない事項の1つだから注意してね」

「はい!」
ネルマは元気に頷く。
彼女の場合、いつか実行しそうで怖いよ。

「う、寒い。春用の学生服だから、この寒さはきつい。ネルマは大丈夫?」

この感覚、久しぶりだ。《状態異常耐性スキル》を身につけてから、暑さや寒さにも平然としていたけど、このまま長時間外にいると低体温症を誘発するかもしれない。長いは禁物だね。

「寒いです! 半袖半ズボンだから、この寒さはキツイです! あの女、これだけ寒いのなら、せめて一言言いなさいよ!」

ルクスさんは、【見取り図】【私達の替えの服や下着の場所】【外出方法】など屋敷内について色々と教えてくれたけど、外の様子については何1つ教えてくれなかった。

「いや……私達が悪い」
「え、どうしてですか!?」
ネルマは驚いた顔で私を凝視する。

「ここは、ランダルキア大陸北方地方に位置するハーゴンズパレス遺跡。初めて訪れる場所なのだから、私達自身がもっと警戒すべきなんだよ。毒の影響もあって、早く外に出ることばかりを考え、外気温のことを完全に失念していたわ」

寝室内で窓を開け周囲の状況を把握したにも関わらず、1番基本的なことを疎かにしていた。脳内では【もっと警戒しろ!】と警笛を鳴らしているのに、私自身が全く対応出来ていない。経験不足のネルマを守れるのは《私》しかいないのに……何をやっているのよ。

「ネルマ、ルクスさんはメイドだけど、試験官でもある。だから、一部分のことしか教えてくれない。今後は、何か行動を起こす時、私達だけで対処していこう」

「冒険って……大変なんですね」

このままだと、ネルマを死なせてしまう。
今の私だと、何か起きてからでは手遅れとなる。
平和に過ごせていた2年というブランクと、ステータス全封印がここまで響くなんて。

ハーモニック大陸での冒険を思い出せ!
あの時は強くなっていても、常に周囲への警戒を怠らなかった。

仲間を死なせるな!
ネルマを守るんだ!


○○○


この寒さのため、薄着では遠出できない。かといって戻ってしまうと、また何らかの試練を受ける可能性もある。頭を冷やすため、私達は屋敷の周囲だけを散策することにした。5分程歩いていると、大きな丘があり、ここからだど頂上から先が見えなくなっている。

「ネルマ、あの丘の頂上まで行こう」
「いいですね。何が見えるんだろう。行ってきま~~~す」
「あ、こら! 先行しないの! 魔物がいたらどうするの!?」
「あ……そうでした」

危ない危ない。
好奇心旺盛もいいことだけど、ここでその行動は危険極まりない。
私も、人のこと言えないけど。
丘を登り頂上に到着すると、私達のいる場所は比較的高所のようだ。

「ほおお~気持ちのいい風~~、しかも絶景だ~~~~~~!!!」
「これは……」

冷たい風が私の皮膚に当たるけど、そんなものを吹き飛ばすくらいの光景が私の視界を捉える。

なんて…光景、こんな素晴らしい景色を見るのは久しぶりだよ。

ただ、地面がここから少し先で途切れており、途切れた場所までゆっくりと歩いていき、下を覗くとかなりの断崖絶壁となっていた。

「シャーロット様! あの青く輝いているのが《海》というものなんですか?」

真っ直ぐ数キロ程離れた場所には、半円形の湾状となっている地形があり、そこから先に見える景色は間違いなく海だ。

ネルマはスキルエラーの件で、海を見たことがない。
彼女にとっては、感慨深いものがあるだろう。

「ええ、あれが海よ。ほら、海に近い部分が黄色くなっているでしょ? あれが砂浜だよ。エルディア王国一帯は温暖な気候だから、多くの人達は暑い季節になると、砂浜から海に入って泳いだりするの」

「ほえ~~~、あれが海か~~~。試験とかがなくて、厚手の服を着ていれば今すぐにでも行ってみたいのに~~~」

ネルマの悔しそうな顔も可愛いね。
あれ?
砂浜から近い位置に、小さな家らしきものが見える。
あそこに誰か住んでいるのかな?
何処かの貴族の【プライベートビーチ】だろうか? 

左右を見渡すと、この周囲一帯が長閑な平野だと認識できるけど、あの家以外の建物が見当たらない。自由時間があったら、あの家へ繋がる道を捜したい。

「気になるのは、半円形の湾を形成しているあの砂浜周辺だけかな?」

え…気のせいかな?
小さな点が動いているように見える。
人? 魔物?

「うえ!?シャ…シャーロット様、もう1つあります。どう見ても悪の本拠地という場所が……」

え、そんな場所なんかあったっけ?
ネルマを見ると砂浜とは正反対の方向を凝視している。そっちには、私達の滞在する屋敷があるよね?

私が真後ろを振り向くと、ネルマの言った意味を理解した。寝室の窓からは、砂浜もアレも見えなかったから、見る方向が違っていたんだね。あんなのが見えていたら、転移時の印象が大きく違っていたよ。

屋敷のかなり後方に、大きな塔が悠然と真上へとそびえ立っている。存在感が、これまで見てきたダンジョンや遺跡よりも遥かにある。上空を見上げていくと、途中雲で覆われているため、天辺が見えない。距離が遠いこともあって、これ以上のことはわからないか。今後、屋敷の外に出る機会があるのなら、あの塔付近に行ってみたい。

あんな悠然と聳え立つ塔に関しては、フェルボーニさんの情報に記載されていない。何らかの魔法で、見えなくなっているのかな?

あの場所には、必ず何かある。

「かなりの高さの塔だね。頂上に到達できれば、ハーゴンズパレスの全貌を見渡せるかもしれない」
「シャーロット様! 私達を転移させた犯人は、絶対あの塔の天辺にいますよ! 私達の試験の様子を見て、ほくそ笑んでいるに決まってます!」

奴は毒で死にかけた私を見て、どんなことを思っているのだろう? 
ここまでの時点で、私の欠点が露見されているから大笑いしているかもしれない。

「身体がかなり冷えてきたね。ネルマ、そろそろ屋敷に戻ろう」
「は、言われてみれば! う~今すぐにでもあの塔へ行きたいですけど、まずは用意を整えないと行けませんよね! 俄然やる気が出てきました!」

おそらく、あの塔の中はダンジョンだろう。凶悪な魔物達もいるはずだ。
あの屋敷内で、私の力を少しでも取り戻せればいいのだけど。

「ロット~~~」
え?

「ネルマ、今誰か私の名前を叫ばなかった?」
「いえ?特に聞こえませんでしたが?」
気のせい?
誰かが、私を呼んでいたような気もするけど?

結局、しばらく待っても誰もここへ訪れることはなかった。


○○○


私達は屋敷へと戻った後、寝室で夕食時の食事方法について相談し合った。

毒を発見させる定番な方法としては、銀の食器類を料理に使用すればいいのだけど、それだと特定の毒にしか反応しないし、コップ類に塗られていたら防ぎようがない。今の私は普通の人間、ネルマのみが魔法の使用が可能となっている。

そうなると、毒を突破するには2通りの方法がある。一つ目はネルマ頼りで、私は何もしない。二つ目の方法は、私とネルマが協力することで夕食を食べるのだけど、私への身体的精神的負担がかなり大きい。

効率重視を選択するのなら迷うことなく前者なのだけど、これは試験なのだ。
後者の案を採用しよう。

私が【毒味役】となって、1つ1つの料理を少しだけ食べていこう。その後、ネルマが私の使用したコップやナイフ類を利用していけば、食器類からも料理からも毒を摂取することはない。仮に私が毒を食べたとしても、ネルマがその直後に【イムノブースト】を使用すれば、その場で完全回復してそのまま料理を食べていける。

この試練において、ネルマは私の命綱といえる存在だ。彼女を死なせてしまったら、私自身も《死》を意味する。先程のパックントラップ(音瀬認識トラップ)のようなヘマを2度としてはいけない。ネルマは私の案に対してかなり涙目だったけど、渋々ながら了承してくれた。


そして夕食時……私は3度死にかけた。


毒が、前菜・オードブル・メインの3種に盛られていたのだ。私が倒れ、ネルマが治療する。1度経験したからか、彼女の対処速度も向上し、私をすぐに回復させたのだけど、3回目ともなると、彼女は頻りに『もう、やめましょう。シャーロット様が壊れます!』と必死に抗議してくれた。しかし、私はフラつきながらも必死に拒否して彼女と共に食事を続けた。

3回目以降、ネルマはルクスさんを《親の仇》といえるくらいの睨みを利かしながら、料理を食べ続けていった。夕食前、私が『必ず料理を完食すること!』と念を押しておいたので、彼女は私の言いつけ通り完食した。

「シャーロット様、ネルマ様、お疲れ様でした。1日目の試験、終了となります」

本当に終わったの?
正直、ルクスさんの言葉を信用できない。

毒が混入されている食事を完食するなんて、生まれて初めてだよ。毒の効果が身体に現れる感覚、正直2度と味わいたくない。ケルビウム山では、思考力皆無の状態で毒を吸っていたこともあり、完全回復するまでの時間は長いようで短く感じたけど、こっちの毒の方が体感的に長く感じる。

「ねえ! 本当に終了なの!? シャーロット様をこんなフラフラにさせて満足なの!」

必死にやせ我慢していてもバレるようだ。
やはりこの試練、精神的にキツすぎる。
ネルマの必死の訴えにも関わらず、ルクスさんは冷たい目で私達を見つけてくる。

「終了です。もうおわかりかと思いますが、初日の試験課題は【警戒度】。点数としては40点、正直課題がこれだけの場合なら、間違いなく不合格です。ただ、最後の毒料理の突破だけはお見事です。あえて危険な道を選び、ネルマ様との関係性を強固にするとは…お見事です」

その毒料理を平然と出してくるあなたも凄いよ。
いや、当初見たあの震えは本物だ。
彼女自身も私への行為に怯え、必死で感情を押し殺しているんだ。

「なんで、そんな平然とした顔で言えるの!」
「2日目の試練は、朝食後からのスタートとなります。なお、寝室にも冷蔵庫と呼ばれる魔導具がありますから、お飲み物に関してはご自分で用意してください。それでは失礼致します」
「無視するな~~~!!!」

やはり、ルクスさんの足が若干震えている。
冷静さを保たせるためにも、あえてネルマを無視しているんだ。

ハーゴンズパレスの主人は自分との謁見に相応しいかどうか、本気で私達を試している。

2日目以降も気を抜けない。
私とネルマの精神力が、どこまで保てるかが【鍵】となりそうだ。


しおりを挟む
感想 1,911

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。