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15話 瀕死の猫又
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私と光希の異世界交流が始まった。
今はチャットやメール機能のみでの話し合い、何処かもどかしさを感じるも、こうして互いに心を通わせる事がどれだけ嬉しいことか、私の心は光希たちのおかげで温かい。
交流を始めて3日目、私の方でも生活に変化が起きた。
ベイツさんが家具付一軒家をレンタルし、私たちはそこで生活をするようになったのだ。
足りない家具類や食糧の買い込みなどで2日程忙しかったけど、私は光希と交流しつつ、地道に善行を積んだ事で、現在58ポイント貯まり、地域住民の人たちとも仲良くなれた。
今の目標は特典『静止画転送』、購入に必要なポイントは100だから、もう少し頑張らないとね。
「あら、アヤナちゃん、ルウリ。買い物からの帰りかい?」
私に話しかけてきたのは、犬獣人のマリンさんだ。
当初、獣人さんの殆どがルウリのことを《様》付けし、中には拝む人々もいたけど、ルウリ自身がその行為を嫌がって、『他の種族もいるし、敬称禁止。その代わり、もっと普通に話しかけて、僕たちと仲良くしてよ』とお願いすると、皆もその方が良かったのか、今のように気さくに話しかけてくれるようになった。
「はい。今日の夕食は、カレーにしようと思います」
「いいね~。20年前、転生者が広めてくれたおかげで、ここでは国民食だよ。ルウリには?」
「ふふふ、僕はアヤナお手製、バード専用のお料理さ」
「あら、それは私も興味あるわね」
「すいません。ハミングバードに作ったものなんで、特殊なんです」
『異世界から持って帰ってきた鳥餌です』なんて、口が裂けても言えないよ。
「あらら、残念」
私たちはマリンさんとの世間話を10分程で切り上げ、帰路を歩く。
「街の生活にも、かなり慣れてきたようだね」
「みんなが優しいからだよ。でも、独り立ちには程遠いかな」
そう、私の冒険者ランクはFのままだ。
ベイツさんの独り立ち合格ラインは、ランクC。
先は長い。
「そこは仕方ない。どれだけ素質のある者であっても、努力しないと強くならない。ただ、君は自分の能力に活かした依頼を選択し、ギルドから一定の評価を得ている。魔物討伐としての評価はゼロでも、人々への貢献度は大きい」
私には、ルウリからもらったアイテムボックスがある。
私はルウリの力を最大限に活かすため、これをギルド側に公表して、街内での物品移動に関わる運搬依頼を積極的に引き受けてきた。このスキルの場合、盗難はあり得ないし、私自身が死なない限り、物品類の永続性は異空間内で保証されている。そして、ルウリが護衛ということもあり、ギルド職員さんたちも私を信頼してくれている。
「今はそれで良いかもだけど、私はその力だけに頼らない。魔物を討伐できるような一人前の冒険者にならないとね」
「君の場合、テイマーに向いているから、そういった作業は今後契約してくる魔物や精霊に任せればいいと思うけどね」
「テイマーか」
アニマルセラピーがあるおかげで、私は動物や魔物の言葉がわかるから、そういった者たちと心を通わせることもできる。
この街の冒険者にも、テイマーたちが少数いて、皆魔物や精霊たちと協力し合うことで、生計を立てている。私のスキルを考えれば、それが妥当かもしれない。
「あれ?」
「アヤナ、どうしたの?」
「この路地の奥に、3人の獣人の子供たちが集まっているから、何かなと思って」
みんな、地面を見ているけど、誰かが倒れているようには見えない。
ちょっと、覗き込んでみよう。
「ねえ、何をしているの?」
3人が一斉に振り向くと、私を不審な目で見て、そのまま奥へと走り去ってしまう。
「何もしないのに…」
「あれでいいんだよ。孤児の子供獣人は、皆警戒心が高いからね」
ある意味、私も孤児に近い。
ああいった子供たちとは、今後仲良くしていきたいな。
あの子たちは、何を見ていたのかな?
「え、黒猫の子供…尻尾が3つもある!?」
猫又…日本では架空の生物なのに、この世界だと普通に存在しているんだ。至る所傷だらけで横たわり、かなり苦しがっている。身体が細く、息も絶え絶え、一目見ただけで危険な状態だとわかる。
「アヤナ、治療に入るの?」
「うん、放っておけないよ」
「魔物である以上、僕は関わらないよ」
「うん、わかってる」
私の魔法だけで、この子を助けられるかな?
ルウリは私を補助してくれるけど、治療に関しては一線を画している。彼の力なら、心・身体の病の大半を完治できるからだ。
人に使い続けると、私だけでなく、周囲の人々の心も変化する。だから、治療に関しては本当に気紛れ、ここへ来た当初はこれからよろしくという意味合いで使ったけど、私が未練を断ち切って以降、一度も使っていない。
それに、彼は自分で街周辺を散策し、お偉いさんたちに『今の獣人や人間がどれだけ信頼できるのか試験中だから、呉々も僕の力に頼らないように』という念の入れよう、そのおかげもあって、私は今も平和に暮らせている。
そんなルウリであっても、精霊と正反対の存在である魔物には、どんな相手であろうとも、絶対に治療行為を施さないと私に言っている。
精霊である以上、周囲の仲間たちと調和を保つためだ。
だから、ルウリを頼っちゃダメ。
「アクアヒール」
何か変だ。肉体の怪我に関しては完治させたけど、この子は今でも苦しみ続けている。内部を、もっと詳しく調査しなきゃ。
『子供…か。よせ…私は…死ぬ』
猫又ちゃんが私を視認して、とんでもないことを口ずさむ。
「死ぬなんて言わないで!! 私が、治す!!」
この世界で得た知識によると、猫又は魔物の中でも、かなり知能が高い。この国で使われている大陸共通語も、子猫又の段階で話せるはずだ。多分、弱っているせいで、猫の言語になっているんだ。
『娘…今の私の言葉を…理解できるのか?』
普通のやり方だと、この子を治せない。
それなら…。
「そういうスキル持ちなの…分析!!」
分析は鑑定の機能を所持しているだけじゃなく、スキル所持者が調査したい箇所を指定すれば、その部位の詳細が表示される。
この子の身体の悪い箇所を、分析で見つけ出す!!
今はチャットやメール機能のみでの話し合い、何処かもどかしさを感じるも、こうして互いに心を通わせる事がどれだけ嬉しいことか、私の心は光希たちのおかげで温かい。
交流を始めて3日目、私の方でも生活に変化が起きた。
ベイツさんが家具付一軒家をレンタルし、私たちはそこで生活をするようになったのだ。
足りない家具類や食糧の買い込みなどで2日程忙しかったけど、私は光希と交流しつつ、地道に善行を積んだ事で、現在58ポイント貯まり、地域住民の人たちとも仲良くなれた。
今の目標は特典『静止画転送』、購入に必要なポイントは100だから、もう少し頑張らないとね。
「あら、アヤナちゃん、ルウリ。買い物からの帰りかい?」
私に話しかけてきたのは、犬獣人のマリンさんだ。
当初、獣人さんの殆どがルウリのことを《様》付けし、中には拝む人々もいたけど、ルウリ自身がその行為を嫌がって、『他の種族もいるし、敬称禁止。その代わり、もっと普通に話しかけて、僕たちと仲良くしてよ』とお願いすると、皆もその方が良かったのか、今のように気さくに話しかけてくれるようになった。
「はい。今日の夕食は、カレーにしようと思います」
「いいね~。20年前、転生者が広めてくれたおかげで、ここでは国民食だよ。ルウリには?」
「ふふふ、僕はアヤナお手製、バード専用のお料理さ」
「あら、それは私も興味あるわね」
「すいません。ハミングバードに作ったものなんで、特殊なんです」
『異世界から持って帰ってきた鳥餌です』なんて、口が裂けても言えないよ。
「あらら、残念」
私たちはマリンさんとの世間話を10分程で切り上げ、帰路を歩く。
「街の生活にも、かなり慣れてきたようだね」
「みんなが優しいからだよ。でも、独り立ちには程遠いかな」
そう、私の冒険者ランクはFのままだ。
ベイツさんの独り立ち合格ラインは、ランクC。
先は長い。
「そこは仕方ない。どれだけ素質のある者であっても、努力しないと強くならない。ただ、君は自分の能力に活かした依頼を選択し、ギルドから一定の評価を得ている。魔物討伐としての評価はゼロでも、人々への貢献度は大きい」
私には、ルウリからもらったアイテムボックスがある。
私はルウリの力を最大限に活かすため、これをギルド側に公表して、街内での物品移動に関わる運搬依頼を積極的に引き受けてきた。このスキルの場合、盗難はあり得ないし、私自身が死なない限り、物品類の永続性は異空間内で保証されている。そして、ルウリが護衛ということもあり、ギルド職員さんたちも私を信頼してくれている。
「今はそれで良いかもだけど、私はその力だけに頼らない。魔物を討伐できるような一人前の冒険者にならないとね」
「君の場合、テイマーに向いているから、そういった作業は今後契約してくる魔物や精霊に任せればいいと思うけどね」
「テイマーか」
アニマルセラピーがあるおかげで、私は動物や魔物の言葉がわかるから、そういった者たちと心を通わせることもできる。
この街の冒険者にも、テイマーたちが少数いて、皆魔物や精霊たちと協力し合うことで、生計を立てている。私のスキルを考えれば、それが妥当かもしれない。
「あれ?」
「アヤナ、どうしたの?」
「この路地の奥に、3人の獣人の子供たちが集まっているから、何かなと思って」
みんな、地面を見ているけど、誰かが倒れているようには見えない。
ちょっと、覗き込んでみよう。
「ねえ、何をしているの?」
3人が一斉に振り向くと、私を不審な目で見て、そのまま奥へと走り去ってしまう。
「何もしないのに…」
「あれでいいんだよ。孤児の子供獣人は、皆警戒心が高いからね」
ある意味、私も孤児に近い。
ああいった子供たちとは、今後仲良くしていきたいな。
あの子たちは、何を見ていたのかな?
「え、黒猫の子供…尻尾が3つもある!?」
猫又…日本では架空の生物なのに、この世界だと普通に存在しているんだ。至る所傷だらけで横たわり、かなり苦しがっている。身体が細く、息も絶え絶え、一目見ただけで危険な状態だとわかる。
「アヤナ、治療に入るの?」
「うん、放っておけないよ」
「魔物である以上、僕は関わらないよ」
「うん、わかってる」
私の魔法だけで、この子を助けられるかな?
ルウリは私を補助してくれるけど、治療に関しては一線を画している。彼の力なら、心・身体の病の大半を完治できるからだ。
人に使い続けると、私だけでなく、周囲の人々の心も変化する。だから、治療に関しては本当に気紛れ、ここへ来た当初はこれからよろしくという意味合いで使ったけど、私が未練を断ち切って以降、一度も使っていない。
それに、彼は自分で街周辺を散策し、お偉いさんたちに『今の獣人や人間がどれだけ信頼できるのか試験中だから、呉々も僕の力に頼らないように』という念の入れよう、そのおかげもあって、私は今も平和に暮らせている。
そんなルウリであっても、精霊と正反対の存在である魔物には、どんな相手であろうとも、絶対に治療行為を施さないと私に言っている。
精霊である以上、周囲の仲間たちと調和を保つためだ。
だから、ルウリを頼っちゃダメ。
「アクアヒール」
何か変だ。肉体の怪我に関しては完治させたけど、この子は今でも苦しみ続けている。内部を、もっと詳しく調査しなきゃ。
『子供…か。よせ…私は…死ぬ』
猫又ちゃんが私を視認して、とんでもないことを口ずさむ。
「死ぬなんて言わないで!! 私が、治す!!」
この世界で得た知識によると、猫又は魔物の中でも、かなり知能が高い。この国で使われている大陸共通語も、子猫又の段階で話せるはずだ。多分、弱っているせいで、猫の言語になっているんだ。
『娘…今の私の言葉を…理解できるのか?』
普通のやり方だと、この子を治せない。
それなら…。
「そういうスキル持ちなの…分析!!」
分析は鑑定の機能を所持しているだけじゃなく、スキル所持者が調査したい箇所を指定すれば、その部位の詳細が表示される。
この子の身体の悪い箇所を、分析で見つけ出す!!
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