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25話 アヤナの閃き
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2体の魔物の中でも、初めに出会った毛むくじゃらの子は、余程安心したのか、今も私の座るソファーの横で眠ったままでいる。
その子は置いておくとして、まず私はフォックス系の魔物と話し合う。
名前は、『ライト』で男の子。
年齢は18歳。
生まれてから15年後、目に呪いを受けてしまい、盲目となる。
毛色も黄色から呪われた証とされる漆黒へと変化し、それが引き金となって、群れの仲間から忌み嫌われて追い出されてしまう。
この境遇を聞いて、真っ先に声を上げたのは、意外にもフリードだった。
『なるほど、ライトの境遇はわかりました。今、為すべき事は目の治療ですね。とはいえ、これはかなり厄介ですよ』
「ルウリの回復魔法や人のお薬では治らないの?」
「今、僕のスキル[分析]で2体を診た。ライトの呪いは比較的緩いものだけど、彼の心臓とも言える魔石と繋がっているから、下手に浄化魔法を使うと、彼の記憶、最悪存在自体を消しかねない」
魔物も呪いで苦しむなんて……。
とりあえず、まずはライトを救う手立てがないか聞いてみよう。
「ライトの呪いを消すには、何が必要なの?」
「魔石に何の影響も与えない浄化が必要だから、魔法では無理だ。呪いを解くには、超高純度の何の汚染もされていない解呪薬が必要だね」
「それって、教会で市販されている聖水じゃダメなの?」
各国の王都に建てられている教会には、神官様やシスターたちの作り上げた聖水が市販されている。
アンデッド系の魔物に絶大な効果をもたらすから、冒険者たちからも重宝されている。
「神の作った神水ならともかく、人の作った聖水は、基本魔法とその人の思いで作られている」
思い…か。手作りの伝統工芸品なんかも、そういったものが込められているのかもしれないね。
「作り手に妬みなどの不純が少しでも混じっている場合、それが聖水の効果に直結する。ライトの場合、そういった不純が少しでも入っていたら、何の効果も示さない。これは、そういった悪質な呪いなんだ」
妬み…か。
どこの世界にも存在するんだ。
「つまり、超高純度の綺麗な聖水で、不純な気持ちが一切入っていないものを目にかければ、ライトの呪いは解けるってこと?」
「その通り。呪いの対抗薬は、不純な気持ちが微塵も入っていないもの。この場合、目に特化した薬が有効だけど、そんなもの存在しないよ。山からの湧水であっても、その地に住む人々や野生動物、魔物が山を歩くせいで、極微量ながらも不純を吸ってしまうからね」
ライトが落ち込んでしまい、深く項垂れる。
自然の湧き水でも駄目なんだ。
ルウリの言った条件を満たすものって……。
「もしかしたら、アレならいけるかもしれない」
「アヤナ、治療の手掛かりをもう見つけたの?」
「ルウリの条件に当てはまるものならあるけど、呪いに効くかがわからない。とりあえず、聞いてみるよ」
「聞くって誰に?」
「勿論、光希だよ」
気になるのは善行ポイント。毎日交流しているけど、今何かに取り組んでいる最中なのか、89あったポイントが39になっていた。
物質転送(小)に必要なポイントは、500。
光希、今何をしているのかな?
○○○ 視点:優斗
【時間軸:アヤナの通信する1時間前】
今、俺は50万という大金で購入した豪華PCを、妹の部屋で組み立てている。隣で光希は豪華絢爛な機具類を見て、目を輝かせている。喜んでくれているのは嬉しいが、俺としては複雑な胸中だ。
「お兄ちゃん。こんな豪華な機材を貰っていいの?」
「ああ。これからやる仕事の必要経費だと思ってくれ」
「私も自分で調べたけど、《配信に必要な機材》《キャラクター原画》《3Dキャラクター作成》《モーションキャプチャー》を揃えないといけないんでしょ? たった4日で用意できるのだから、お兄ちゃんは凄いよ!」
それを聞かれると、心が痛む。
これからやろうとしている事は、《Vtuber》だ。
姉さんの善行ポイントの増加具合を踏まえて、俺としては早い段階で機器を揃えたかったが、本格的な機材を揃えるとなると、相当な大金を使う。
変に妥協して、中途半端な機材を揃うのだけは避けたい。そこで、俺は光希に、数少ないポイントを使って、特典を交換させてもらった。
それが、善行ポイント50を引き換えに交換した誕生日特典、『幸福のペンダント』だ。
姉さんを模した可愛いミニチュア人形がペンダントに付いており、1週間幸福を引き寄せる効果を持つ。これを光希に付けてもらったことで、4日間で全てを揃えることができたわけだ。
「光希のおかげだよ」
「私の?」
「ああ。あのペンダントが、光希と俺に幸運を運んでくれたのさ」
「お兄ちゃんにも、幸運が届いたんだね!」
実際のところ、光希の言ったものを4日で揃えるのは不可能だ。
特に、《キャラクター原画》《3Dキャラクター作成》、この2つは専門の方々に依頼しないといけない。普通にお願いしたら、2つ合わせても50万以上はかかるし、4日で仕上げることも無理だろう。
お遊び程度でやるのなら、もう少し費用を抑えられるが、俺たちの目的は、善行ポイントを効率よく稼ぐことである以上、妥協は許されない。俺のこれまでの貯金の一部を切り崩したが、姉さんと交流を深められるのなら喜んで使う。
そして、たった4日で実現できたのは、高校の同級生のおかげだ。
今、2人はイラストレーター、3Dモデラーとなっていたこともあり、光希のVtuberデビュー計画を、スマホを通して持ち掛け、現在の写真を送ると気に入ってくれたのか、2人で製作した秘蔵キャラを50万で譲ってくれた。
詳しい話を聞いたら、俺もかなり驚いたよ。
高校卒業後、2人で《理想の女の子》を語り合い、それをキャラデザして、3Dモデル化までしていたのだから。かかった製作期間は6ヶ月。いつか自分たちの理想の男の子か女の子にやってもらおうと思い、これまでず~っと誰にも言わなかったそうだが、13歳になった光希の写真を見て、稲妻が走ったらしく、一目で気に入り、秘蔵キャラの件を興奮気味に明かしてくれた際、俺は正直少し引いてしまったよ。
そんな2人と久しぶりに再会し、その秘蔵キャラを見せてもらったが、今の光希と似ているからマジで驚いた。そりゃあ、写真を見て、俺の依頼を即決するわけだ。なんせ、光希は理想の女の子に近いのだから。
こんな話、本人に言えるわけがない。
こういった幸運に出会えたのも、誕生日特典のおかげだな。
その子は置いておくとして、まず私はフォックス系の魔物と話し合う。
名前は、『ライト』で男の子。
年齢は18歳。
生まれてから15年後、目に呪いを受けてしまい、盲目となる。
毛色も黄色から呪われた証とされる漆黒へと変化し、それが引き金となって、群れの仲間から忌み嫌われて追い出されてしまう。
この境遇を聞いて、真っ先に声を上げたのは、意外にもフリードだった。
『なるほど、ライトの境遇はわかりました。今、為すべき事は目の治療ですね。とはいえ、これはかなり厄介ですよ』
「ルウリの回復魔法や人のお薬では治らないの?」
「今、僕のスキル[分析]で2体を診た。ライトの呪いは比較的緩いものだけど、彼の心臓とも言える魔石と繋がっているから、下手に浄化魔法を使うと、彼の記憶、最悪存在自体を消しかねない」
魔物も呪いで苦しむなんて……。
とりあえず、まずはライトを救う手立てがないか聞いてみよう。
「ライトの呪いを消すには、何が必要なの?」
「魔石に何の影響も与えない浄化が必要だから、魔法では無理だ。呪いを解くには、超高純度の何の汚染もされていない解呪薬が必要だね」
「それって、教会で市販されている聖水じゃダメなの?」
各国の王都に建てられている教会には、神官様やシスターたちの作り上げた聖水が市販されている。
アンデッド系の魔物に絶大な効果をもたらすから、冒険者たちからも重宝されている。
「神の作った神水ならともかく、人の作った聖水は、基本魔法とその人の思いで作られている」
思い…か。手作りの伝統工芸品なんかも、そういったものが込められているのかもしれないね。
「作り手に妬みなどの不純が少しでも混じっている場合、それが聖水の効果に直結する。ライトの場合、そういった不純が少しでも入っていたら、何の効果も示さない。これは、そういった悪質な呪いなんだ」
妬み…か。
どこの世界にも存在するんだ。
「つまり、超高純度の綺麗な聖水で、不純な気持ちが一切入っていないものを目にかければ、ライトの呪いは解けるってこと?」
「その通り。呪いの対抗薬は、不純な気持ちが微塵も入っていないもの。この場合、目に特化した薬が有効だけど、そんなもの存在しないよ。山からの湧水であっても、その地に住む人々や野生動物、魔物が山を歩くせいで、極微量ながらも不純を吸ってしまうからね」
ライトが落ち込んでしまい、深く項垂れる。
自然の湧き水でも駄目なんだ。
ルウリの言った条件を満たすものって……。
「もしかしたら、アレならいけるかもしれない」
「アヤナ、治療の手掛かりをもう見つけたの?」
「ルウリの条件に当てはまるものならあるけど、呪いに効くかがわからない。とりあえず、聞いてみるよ」
「聞くって誰に?」
「勿論、光希だよ」
気になるのは善行ポイント。毎日交流しているけど、今何かに取り組んでいる最中なのか、89あったポイントが39になっていた。
物質転送(小)に必要なポイントは、500。
光希、今何をしているのかな?
○○○ 視点:優斗
【時間軸:アヤナの通信する1時間前】
今、俺は50万という大金で購入した豪華PCを、妹の部屋で組み立てている。隣で光希は豪華絢爛な機具類を見て、目を輝かせている。喜んでくれているのは嬉しいが、俺としては複雑な胸中だ。
「お兄ちゃん。こんな豪華な機材を貰っていいの?」
「ああ。これからやる仕事の必要経費だと思ってくれ」
「私も自分で調べたけど、《配信に必要な機材》《キャラクター原画》《3Dキャラクター作成》《モーションキャプチャー》を揃えないといけないんでしょ? たった4日で用意できるのだから、お兄ちゃんは凄いよ!」
それを聞かれると、心が痛む。
これからやろうとしている事は、《Vtuber》だ。
姉さんの善行ポイントの増加具合を踏まえて、俺としては早い段階で機器を揃えたかったが、本格的な機材を揃えるとなると、相当な大金を使う。
変に妥協して、中途半端な機材を揃うのだけは避けたい。そこで、俺は光希に、数少ないポイントを使って、特典を交換させてもらった。
それが、善行ポイント50を引き換えに交換した誕生日特典、『幸福のペンダント』だ。
姉さんを模した可愛いミニチュア人形がペンダントに付いており、1週間幸福を引き寄せる効果を持つ。これを光希に付けてもらったことで、4日間で全てを揃えることができたわけだ。
「光希のおかげだよ」
「私の?」
「ああ。あのペンダントが、光希と俺に幸運を運んでくれたのさ」
「お兄ちゃんにも、幸運が届いたんだね!」
実際のところ、光希の言ったものを4日で揃えるのは不可能だ。
特に、《キャラクター原画》《3Dキャラクター作成》、この2つは専門の方々に依頼しないといけない。普通にお願いしたら、2つ合わせても50万以上はかかるし、4日で仕上げることも無理だろう。
お遊び程度でやるのなら、もう少し費用を抑えられるが、俺たちの目的は、善行ポイントを効率よく稼ぐことである以上、妥協は許されない。俺のこれまでの貯金の一部を切り崩したが、姉さんと交流を深められるのなら喜んで使う。
そして、たった4日で実現できたのは、高校の同級生のおかげだ。
今、2人はイラストレーター、3Dモデラーとなっていたこともあり、光希のVtuberデビュー計画を、スマホを通して持ち掛け、現在の写真を送ると気に入ってくれたのか、2人で製作した秘蔵キャラを50万で譲ってくれた。
詳しい話を聞いたら、俺もかなり驚いたよ。
高校卒業後、2人で《理想の女の子》を語り合い、それをキャラデザして、3Dモデル化までしていたのだから。かかった製作期間は6ヶ月。いつか自分たちの理想の男の子か女の子にやってもらおうと思い、これまでず~っと誰にも言わなかったそうだが、13歳になった光希の写真を見て、稲妻が走ったらしく、一目で気に入り、秘蔵キャラの件を興奮気味に明かしてくれた際、俺は正直少し引いてしまったよ。
そんな2人と久しぶりに再会し、その秘蔵キャラを見せてもらったが、今の光希と似ているからマジで驚いた。そりゃあ、写真を見て、俺の依頼を即決するわけだ。なんせ、光希は理想の女の子に近いのだから。
こんな話、本人に言えるわけがない。
こういった幸運に出会えたのも、誕生日特典のおかげだな。
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