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2章 家族との別離(今世)
20話 襲撃者への手掛かり
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リットの両親が回復したばかりということもあり、彼女は厨房の材料を使い、1人で5人分の焼きそばを調理してくれた。私と同じ10歳なのに、かなり手慣れた印象を感じたから、相当練習していたんじゃないかな。その光景を見たアルドさんとミントさんも、微笑ましい表情を浮かべながら、彼女を見守っていたわ。
お腹が空いていたこともあり、私たちは焼きそばを一心不乱に食べた。ルウリとフリードには、奮発して日本版の超高級餌を食べてもらった。お腹も膨れ、心も落ち着いたところで、ベイツさんはアルドさんに、襲撃された事情を説明してほしいと頼み、彼の口から襲撃当時の様子が語られる。
店を襲った者は3名、全員が黒い目出し帽をかぶっていた為、正体は不明、1人が敷地全体に魔法障壁を張り、音が漏れないよう配慮すると、残る2人がアルドさんとミントさんを何も語らず、徹底的に動けなくなるまで痛めつけた。ただし、時折ポーションなどをかけたりして、意識を必ず保たせていた状態で、顔と手を集中的に再起不能になるまで暴行したことを確認した3人は、そのまま無言で居住エリアで暴れ回り、その後は店内の客席や厨房にある器材類を手当たり次第に徹底的に破壊していき、悠然と出ていったという。襲撃時間はおよそ30分程度、犯人たちは何も語らずに去っていったため、手掛かりも一切なし。
その話を聞いただけで、私とリットの顔色も真っ青になってしまった。
「用意周到な奴らだ。何らかの目的があって、襲撃したのは間違いない。アルド、心当たりはあるか? どんな些細なことでもいいぞ」
犯人の目的って、この店を潰すことかな?
だとしたら、犯人は商売敵となる飲食店関係だけど?
アルドさんはずっと考えていたけど、不意に何かに気づいた表情となる。
「1つだけある。家族全員である店に行き、そこの料理を食べ違和感を覚えたから、ついボソッと呟いてしまった」
呟いたって、何を?
「お前がその場で文句を言うのも珍しいな。何て言ったんだ?」
「『味が、開店当初と微妙に違う。ここは、メニュー通りの高級食材をしていないぞ』と」
うわ、ストレートに店の文句を言ってるけど、小声なら誰も聞き取れない…はずだけど?
「それだな。恐らく、スキルで盗み聞きされたんだ。その店の名は?」
盗み聞きって、そんな物騒なスキルもあるんだ。食材偽装は立派な犯罪だけど、味の違いを見破られないよう、かなり手の込んだことをしているはず、それを見破ったアルドさんも凄いわ。
「平民向けの大衆レストラン、《クザン》だ」
「クザンだって!? あそこのオーナーは貴族の【フェルデナンド家】で、国内に12店舗も展開している有名チェーン店だぞ!!」
ベイツさんの言葉を聞いた瞬間、私の中に電気が走った。【フェルデナンド家】、初めて聞く名称のはずなのに、初めてじゃないような感覚、私はその名称を知っているの?
何だろう?
頭の中に、何かが浮かび上がってくる。
顔がぼやけてわからないけど、これは大人の男女?
私に、何かを言っているような?
「咲耶、どう思う?」
いきなり、リットに肩を揺すられたせいもあって、頭の中のぼやけた映像が弾け飛んだ。あれは、何だったの?
「え…どうって?」
「だから、次の襲撃を防ぐための対応策だよ」
話を全然聞いてなかった。
頭が、フェルナンド家という言葉でいっぱいだよ。
あの店に行けば、何かわかるかな?
「う~ん、あの店に行けば何か分かるかも……あ」
しまった、今思ったことを言葉にしてしまった。
全員が、私を見て絶句している。
「「「「「「それだ‼︎」」」」」
「え?」
私がオロオロしているうちに、ベイツさんが先を進めていく。
「次の襲撃は、いつ起きるかわからん。犯人がクザンのメンバーとも限らない。それなら今からクザンに行き、俺たちが食事している間に、誰かが内部に侵入して、白黒はっきりさせればいい」
え……侵入って、誰がやるの?
私が1人1人の顔を向けていくと、フリードが溜息を吐いた。
「全く、この中でレストランの内部侵入に適した者といえば、私しかいないではありませんか。まあ、いいでしょう、その仕事を引き受けましょう。咲耶と出会い、従魔契約をした初日に、こんな事件が起こるとは……これも何かの縁ですかね。犯人の有無だけでなく、ついでだから食材偽装の証拠資料も盗み出すとしましょうか。ルウリは、外部から襲撃事件の情報を収集し、咲耶たちは普通に食事を楽しんでください」
フリードが、すっごく頼もしく感じるわ。彼に全てを任せて、私は食事を楽しみながら、【フェルデナンド家】について考えてみよう。
○○○ フリード視点
ほほほほ、こういった突然の出会いと唐突に発生するイベントが時折起こるから、旅はやめられませんね。猫たちから聞いた咲耶という人間族の女の子が、まさかの前世持ちで異世界出身、しかも、我が友ルウリを従えているのですから驚きですよ。そこで作られたとされる猫缶、キャットフード、ペロチュールも、今までに味わったことのない最高級の味でした。あの味を独り占めしたいと思い、咄嗟に従魔契約してしまいましたよ。
「さて、ここから進入できそうですね」
私がいるのは、大衆レストラン《クザン》の屋根の上、そこには格子の嵌った小さな煙突が設置されています。
「あの格子には、魔法が付与されていますね。内部から流れ出る臭いの風を、上空へ飛ばしているようですね。まずは、臭いを身体に付着させないよう配慮しましょうか。法術[気流壁]」
私の周囲に風の気流を発生させましたから、これで臭いは私に届きません。
「この格子、生意気にもミスリル製ですか。まあ、こうすれば関係ありませんね、法術[風刃]」
はい、終了です。
風刃で煙突を横に輪切りにするだけで、この格子の意味は無くなりましたね。斬った格子の部分は、私の法術[収納]に入れておきましょう。ふふふ、私にはスキル[修繕]もありますから、この斬った箇所も部品さえあれば、すぐに修復されます。今回は輪切りにしただけなので、部品がなくとも修繕が可能です。
「あと10分ほどで、咲耶たちもレストランに入りますから、私も準備を進めておきましょう」
法術[浮遊]を使用して、煙突の中に入ると、すぐに分岐点が出現しました。
「なるほど、こちらが客席に続く通路、こちらが店の奥へと繋がる通路ですか」
スキル[空間把握]は、やはり便利ですね。私程の力と技術があれば、この敷地内の空間であれば、余裕で把握できます。さてと、お目当ての支店長のいる部屋へ行きましょうか。
「さてと、ここからの独り言は小声で言いましょう」
目的の部屋に到着しましたが、まだ誰もいないようです。ここにも格子はありますが、ただの鉄製ですね。まあ、普通に周囲を斬って、後程侵入させてもらいましょう。犯人がクザンの連中ならば、そろそろ頃合いでしょうかね。
おやおや、部屋の外から何やら声が聞こえてきましたよ。
「おい、奴らは本当に定食屋[ガブリ]を周囲に知られないよう襲撃したのか?」
「は…はい、襲撃しましたし、2人に2度と開店できない程の大怪我を負わせました」
「ふざけるな!! だったら、どうしてここに夕食を食べに来とるんだ!!」
咲耶たちが店内に入ってきたことで、大慌てで2人の人間がここへ来ましたか。早速、スキル[鑑定]を使わせてもらいますよ。ふむふむ、50歳の中肉中背の男、38歳の細身の男、肩書きは支店長と副支店長ですか。
ほほほほ、どうやら当たりのようですね。
咲耶のアイデアには、驚きですよ。3時間ほど前に起きた襲撃事件、その被害者たちが無傷で訪れれば、犯人の一味であれば誰だって驚き、すぐに上司に報告するはずです。それが、見事的中しましたね。
「申し訳ありません!! 深夜に、再度襲撃させます。それと遅くなりましたが、こちらが先月の報告書のコピーとなります。原本は、フェルデナンド家に送付済です」
深夜に襲撃ですか、そうなると今日はリットの家でお泊まりになりますね。襲撃者に関しては、私とルウリで対応しましょう。自分たちの仕出かした行いを、そっくりそのままお返しし、このレストラン内に放置してあげます。
「貸せ!! 原価、利益、人件費、養殖、偽装、全て問題ないようだな」
「よし、こいつをそこのシュッレッダーで裁断しろ。いいか、定食屋[ガブリ]の夫婦を徹底的に痛めつけておけ」
「こちらの偽装を察知したのに、何故殺さないのですか?」
「フェルデナンド伯爵様のご意向だ。貴族は、何を考えているのかわからん。平民をどうやって痛めつけたのか、どんな末路を辿ったのか、それを詳細にまとめて報告書として提出しろと命令されたのだ。大方、その報告書を酒の肴にしているのだろう」
支店長は怒りながら、部屋を出て行きましたか。
「はあ、趣味悪いぜ。ガブリの人も、なんで店内で呟くかな。しかし、間違いなく襲撃したはずなんだが、どうして無傷なんだ? Aランクのベイツといえど、エリクサーでもない限り、数時間で回復しないはずなんだが?」
ほほほ、そんな物がなくとも、回復魔法のスペシャリストのルウリがいるのですから、完治できて当然ですよ。さて、あの男も部屋からいなくなったようなので、さっさと証拠資料となる裁断されたゴミを回収して、ここを抜け出しておきましょう。
……私は所用を終わらせ、レストランの屋根で止まっていたルウリに話しかけ、内部での出来事を話しました。
「なるほど、クザンの連中が犯人なんだね。次の襲撃は深夜、2人いや3人に大怪我を負わせる算段か」
深夜に襲撃するのであれば、就寝中に襲われることになりますから、まず間違いなくリットも襲われますね。
「ええ、どうやら偽装に気付きそうな人物がいれば、殺すのではなく、半死半生の大怪我を負わせているようですね。このやり口は、フェルデナンド家で間違いありませんよ」
「フリードは、その家のことを知っているの?」
「ええ、少し王都でね」
フェルデナンド家は、代々領主に受け継がれているレアスキル[血縁継承]を使用することで、これまでの先祖たちが習得したスキルの1つを血縁者1人に継承させることができます。無論、100%成功するわけではありません。血縁者の持つ素質が大きく関係していますし、場合によっては1つも継承できない可能性もあります。奴らはそうやって受け継いでいくことで、現在では血縁者全員がレアスキル持ちとなり、王族たちからも重宝されています。
私は、そういった情報をルウリに事細かく話していく。
「私の知る限り、全員がレアスキル持ちな上に、必ず何らかの分野で秀でた器を兼ね備えています」
「ふ~ん、その秀でた力を持つ1人が《クザン》を取り仕切っているわけか」
「誰がオーナーなのか、そこまでは突き止められませんでした。それで、そちらは何か掴めましたか?」
「外部の人々からの話し声を盗み聞きしたけど、ガブリ襲撃に関わる情報は得られなかった。でも、怪しい獣人の女1人が咲耶の周りを彷徨いている」
怪しい獣人の女?
どれどれ……ふむ、狭い路地にいる十五歳くらいの女がレストラン内を気にしているようですね。種族は獣人、名前はユウキ、職業欄が[探偵]となっていますが、これは偽装ですね。本当の職業は……
「ほうほう、面白いことになりそうですね」
「フリード、不謹慎だよ」
「宜しいではないですか、この場には私たち2体しかいないのですから。ルウリの考えは?」
現状、私は彼女を見たかばかりなので、狙いが咲耶なのかわかりません。ですが、彼女の行動次第では消えてもらうことになりますね。
「ユウキと言ったかな。あの子は、窓際の席にいる咲耶を見て、何故かわからないけど、複雑な表情を浮かべている。どうやら、彼女も何か深い事情を抱えているようだね」
ふ~む、そうなると安易な行動をとれませんね。
さて、どう動きましょう?
「フリード、一つ思いついたことがある。咲耶を育てていくためにも、君とベイツの協力が必要だ」
ルウリが何を考えているのか、その内容を全て聞いたことで、私は彼の狙いを理解しました。多少、咲耶の身にも危険が及びますが、彼女の危機意識を芽吹かせる一端になってくれるでしょう。
「あなたの狙いは理解できましたが、ユウキ1人だけでは不十分です」
「そこは、これからの情報収集次第かな」
咲耶を育てるためにも、一肌脱ぎましょうかね。
お腹が空いていたこともあり、私たちは焼きそばを一心不乱に食べた。ルウリとフリードには、奮発して日本版の超高級餌を食べてもらった。お腹も膨れ、心も落ち着いたところで、ベイツさんはアルドさんに、襲撃された事情を説明してほしいと頼み、彼の口から襲撃当時の様子が語られる。
店を襲った者は3名、全員が黒い目出し帽をかぶっていた為、正体は不明、1人が敷地全体に魔法障壁を張り、音が漏れないよう配慮すると、残る2人がアルドさんとミントさんを何も語らず、徹底的に動けなくなるまで痛めつけた。ただし、時折ポーションなどをかけたりして、意識を必ず保たせていた状態で、顔と手を集中的に再起不能になるまで暴行したことを確認した3人は、そのまま無言で居住エリアで暴れ回り、その後は店内の客席や厨房にある器材類を手当たり次第に徹底的に破壊していき、悠然と出ていったという。襲撃時間はおよそ30分程度、犯人たちは何も語らずに去っていったため、手掛かりも一切なし。
その話を聞いただけで、私とリットの顔色も真っ青になってしまった。
「用意周到な奴らだ。何らかの目的があって、襲撃したのは間違いない。アルド、心当たりはあるか? どんな些細なことでもいいぞ」
犯人の目的って、この店を潰すことかな?
だとしたら、犯人は商売敵となる飲食店関係だけど?
アルドさんはずっと考えていたけど、不意に何かに気づいた表情となる。
「1つだけある。家族全員である店に行き、そこの料理を食べ違和感を覚えたから、ついボソッと呟いてしまった」
呟いたって、何を?
「お前がその場で文句を言うのも珍しいな。何て言ったんだ?」
「『味が、開店当初と微妙に違う。ここは、メニュー通りの高級食材をしていないぞ』と」
うわ、ストレートに店の文句を言ってるけど、小声なら誰も聞き取れない…はずだけど?
「それだな。恐らく、スキルで盗み聞きされたんだ。その店の名は?」
盗み聞きって、そんな物騒なスキルもあるんだ。食材偽装は立派な犯罪だけど、味の違いを見破られないよう、かなり手の込んだことをしているはず、それを見破ったアルドさんも凄いわ。
「平民向けの大衆レストラン、《クザン》だ」
「クザンだって!? あそこのオーナーは貴族の【フェルデナンド家】で、国内に12店舗も展開している有名チェーン店だぞ!!」
ベイツさんの言葉を聞いた瞬間、私の中に電気が走った。【フェルデナンド家】、初めて聞く名称のはずなのに、初めてじゃないような感覚、私はその名称を知っているの?
何だろう?
頭の中に、何かが浮かび上がってくる。
顔がぼやけてわからないけど、これは大人の男女?
私に、何かを言っているような?
「咲耶、どう思う?」
いきなり、リットに肩を揺すられたせいもあって、頭の中のぼやけた映像が弾け飛んだ。あれは、何だったの?
「え…どうって?」
「だから、次の襲撃を防ぐための対応策だよ」
話を全然聞いてなかった。
頭が、フェルナンド家という言葉でいっぱいだよ。
あの店に行けば、何かわかるかな?
「う~ん、あの店に行けば何か分かるかも……あ」
しまった、今思ったことを言葉にしてしまった。
全員が、私を見て絶句している。
「「「「「「それだ‼︎」」」」」
「え?」
私がオロオロしているうちに、ベイツさんが先を進めていく。
「次の襲撃は、いつ起きるかわからん。犯人がクザンのメンバーとも限らない。それなら今からクザンに行き、俺たちが食事している間に、誰かが内部に侵入して、白黒はっきりさせればいい」
え……侵入って、誰がやるの?
私が1人1人の顔を向けていくと、フリードが溜息を吐いた。
「全く、この中でレストランの内部侵入に適した者といえば、私しかいないではありませんか。まあ、いいでしょう、その仕事を引き受けましょう。咲耶と出会い、従魔契約をした初日に、こんな事件が起こるとは……これも何かの縁ですかね。犯人の有無だけでなく、ついでだから食材偽装の証拠資料も盗み出すとしましょうか。ルウリは、外部から襲撃事件の情報を収集し、咲耶たちは普通に食事を楽しんでください」
フリードが、すっごく頼もしく感じるわ。彼に全てを任せて、私は食事を楽しみながら、【フェルデナンド家】について考えてみよう。
○○○ フリード視点
ほほほほ、こういった突然の出会いと唐突に発生するイベントが時折起こるから、旅はやめられませんね。猫たちから聞いた咲耶という人間族の女の子が、まさかの前世持ちで異世界出身、しかも、我が友ルウリを従えているのですから驚きですよ。そこで作られたとされる猫缶、キャットフード、ペロチュールも、今までに味わったことのない最高級の味でした。あの味を独り占めしたいと思い、咄嗟に従魔契約してしまいましたよ。
「さて、ここから進入できそうですね」
私がいるのは、大衆レストラン《クザン》の屋根の上、そこには格子の嵌った小さな煙突が設置されています。
「あの格子には、魔法が付与されていますね。内部から流れ出る臭いの風を、上空へ飛ばしているようですね。まずは、臭いを身体に付着させないよう配慮しましょうか。法術[気流壁]」
私の周囲に風の気流を発生させましたから、これで臭いは私に届きません。
「この格子、生意気にもミスリル製ですか。まあ、こうすれば関係ありませんね、法術[風刃]」
はい、終了です。
風刃で煙突を横に輪切りにするだけで、この格子の意味は無くなりましたね。斬った格子の部分は、私の法術[収納]に入れておきましょう。ふふふ、私にはスキル[修繕]もありますから、この斬った箇所も部品さえあれば、すぐに修復されます。今回は輪切りにしただけなので、部品がなくとも修繕が可能です。
「あと10分ほどで、咲耶たちもレストランに入りますから、私も準備を進めておきましょう」
法術[浮遊]を使用して、煙突の中に入ると、すぐに分岐点が出現しました。
「なるほど、こちらが客席に続く通路、こちらが店の奥へと繋がる通路ですか」
スキル[空間把握]は、やはり便利ですね。私程の力と技術があれば、この敷地内の空間であれば、余裕で把握できます。さてと、お目当ての支店長のいる部屋へ行きましょうか。
「さてと、ここからの独り言は小声で言いましょう」
目的の部屋に到着しましたが、まだ誰もいないようです。ここにも格子はありますが、ただの鉄製ですね。まあ、普通に周囲を斬って、後程侵入させてもらいましょう。犯人がクザンの連中ならば、そろそろ頃合いでしょうかね。
おやおや、部屋の外から何やら声が聞こえてきましたよ。
「おい、奴らは本当に定食屋[ガブリ]を周囲に知られないよう襲撃したのか?」
「は…はい、襲撃しましたし、2人に2度と開店できない程の大怪我を負わせました」
「ふざけるな!! だったら、どうしてここに夕食を食べに来とるんだ!!」
咲耶たちが店内に入ってきたことで、大慌てで2人の人間がここへ来ましたか。早速、スキル[鑑定]を使わせてもらいますよ。ふむふむ、50歳の中肉中背の男、38歳の細身の男、肩書きは支店長と副支店長ですか。
ほほほほ、どうやら当たりのようですね。
咲耶のアイデアには、驚きですよ。3時間ほど前に起きた襲撃事件、その被害者たちが無傷で訪れれば、犯人の一味であれば誰だって驚き、すぐに上司に報告するはずです。それが、見事的中しましたね。
「申し訳ありません!! 深夜に、再度襲撃させます。それと遅くなりましたが、こちらが先月の報告書のコピーとなります。原本は、フェルデナンド家に送付済です」
深夜に襲撃ですか、そうなると今日はリットの家でお泊まりになりますね。襲撃者に関しては、私とルウリで対応しましょう。自分たちの仕出かした行いを、そっくりそのままお返しし、このレストラン内に放置してあげます。
「貸せ!! 原価、利益、人件費、養殖、偽装、全て問題ないようだな」
「よし、こいつをそこのシュッレッダーで裁断しろ。いいか、定食屋[ガブリ]の夫婦を徹底的に痛めつけておけ」
「こちらの偽装を察知したのに、何故殺さないのですか?」
「フェルデナンド伯爵様のご意向だ。貴族は、何を考えているのかわからん。平民をどうやって痛めつけたのか、どんな末路を辿ったのか、それを詳細にまとめて報告書として提出しろと命令されたのだ。大方、その報告書を酒の肴にしているのだろう」
支店長は怒りながら、部屋を出て行きましたか。
「はあ、趣味悪いぜ。ガブリの人も、なんで店内で呟くかな。しかし、間違いなく襲撃したはずなんだが、どうして無傷なんだ? Aランクのベイツといえど、エリクサーでもない限り、数時間で回復しないはずなんだが?」
ほほほ、そんな物がなくとも、回復魔法のスペシャリストのルウリがいるのですから、完治できて当然ですよ。さて、あの男も部屋からいなくなったようなので、さっさと証拠資料となる裁断されたゴミを回収して、ここを抜け出しておきましょう。
……私は所用を終わらせ、レストランの屋根で止まっていたルウリに話しかけ、内部での出来事を話しました。
「なるほど、クザンの連中が犯人なんだね。次の襲撃は深夜、2人いや3人に大怪我を負わせる算段か」
深夜に襲撃するのであれば、就寝中に襲われることになりますから、まず間違いなくリットも襲われますね。
「ええ、どうやら偽装に気付きそうな人物がいれば、殺すのではなく、半死半生の大怪我を負わせているようですね。このやり口は、フェルデナンド家で間違いありませんよ」
「フリードは、その家のことを知っているの?」
「ええ、少し王都でね」
フェルデナンド家は、代々領主に受け継がれているレアスキル[血縁継承]を使用することで、これまでの先祖たちが習得したスキルの1つを血縁者1人に継承させることができます。無論、100%成功するわけではありません。血縁者の持つ素質が大きく関係していますし、場合によっては1つも継承できない可能性もあります。奴らはそうやって受け継いでいくことで、現在では血縁者全員がレアスキル持ちとなり、王族たちからも重宝されています。
私は、そういった情報をルウリに事細かく話していく。
「私の知る限り、全員がレアスキル持ちな上に、必ず何らかの分野で秀でた器を兼ね備えています」
「ふ~ん、その秀でた力を持つ1人が《クザン》を取り仕切っているわけか」
「誰がオーナーなのか、そこまでは突き止められませんでした。それで、そちらは何か掴めましたか?」
「外部の人々からの話し声を盗み聞きしたけど、ガブリ襲撃に関わる情報は得られなかった。でも、怪しい獣人の女1人が咲耶の周りを彷徨いている」
怪しい獣人の女?
どれどれ……ふむ、狭い路地にいる十五歳くらいの女がレストラン内を気にしているようですね。種族は獣人、名前はユウキ、職業欄が[探偵]となっていますが、これは偽装ですね。本当の職業は……
「ほうほう、面白いことになりそうですね」
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「宜しいではないですか、この場には私たち2体しかいないのですから。ルウリの考えは?」
現状、私は彼女を見たかばかりなので、狙いが咲耶なのかわかりません。ですが、彼女の行動次第では消えてもらうことになりますね。
「ユウキと言ったかな。あの子は、窓際の席にいる咲耶を見て、何故かわからないけど、複雑な表情を浮かべている。どうやら、彼女も何か深い事情を抱えているようだね」
ふ~む、そうなると安易な行動をとれませんね。
さて、どう動きましょう?
「フリード、一つ思いついたことがある。咲耶を育てていくためにも、君とベイツの協力が必要だ」
ルウリが何を考えているのか、その内容を全て聞いたことで、私は彼の狙いを理解しました。多少、咲耶の身にも危険が及びますが、彼女の危機意識を芽吹かせる一端になってくれるでしょう。
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その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~
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【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。
一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める――
恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。
大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。
西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。
※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。
この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
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「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
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チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
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