記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護

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37話 残滓と2つの心 

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ユリネアがショックを受けて、冒険者ギルド2階からいなくなってしまった。追いかけたい気持ちはあるけど、真相を聞いたショックで、身体が動いてくれない。

なんとなくわかっていたの。

私がこの街に来て以降、冒険者ギルドの掲示板に私と同じ年頃の行方不明依頼がないか毎日確認していたから。依頼自体があっても、私と合致するようなものは全くなかった。私が誘拐され行方不明になった場合、前世の両親なら、すぐにでも警察に届け出ると思う。それがないということは、探す気がないということだ。だから、今世の私は両親に見捨てられたと思っていたけど、まさか3億で売られ、購入者である公爵様が私の力を強奪していただなんて。

それって、人身売買だよね?

前世のネットで、悪人が金儲けのために旅行者を誘拐して、その人の臓器を無断で抜き取って売買しているという記事を読んだことあるけど、私はそれに近いことをされた……親に売られているから、それ以上の酷い仕打ちを受けたってことか。

「お嬢様!」

ユリネアが心を乱して、ここからいなくなったことで、ガイさんが慌てて部屋から出ていき、1階へと下りていく。

「なんてこと。お父様、いえ陛下の判断で、こんな事が起こるなんて」

セリーナ様、国王陛下だって、公爵が強奪を企てるだなんて考えてなかったと思う。

「ブライトさん。今の話、マジなのか?」
「そうなのです! 私でも、事の重大さがわかるのです! こんなの、許されないのです!」

リオンとウィステが怒りを抑えきれないまま、ブライトさんを問い詰めている。

「大マジよ。今さっき聞かされたばかりで、裏付けはゼロだけど、まあ真実でしょうね」

真実…両親は私を3億で公爵家に売り渡した。
そして、その後は力を強奪されて捨てられた。
鈴さんの言っていた事件って、この事を指していたんだ。

何だろう? 頭が、働かない。
何かが…込み上げてくる。
この思いは、何?

私は…私は…そんな事を望んでいなかった。
ただ、両親に愛されたかっただけのに…捨てられた…。

あれ? 何、今の気持ちは?

「王命だからって、アリエスの力を強奪する事ないだろ!」

意識が、どんどん揺らいでいく。

「卑怯なのです! これじゃあ…アリエスとユリネアが可哀想なのです! 親友同士が王命で引き裂かれたのですよ!」

「そんな事は、私やロイドだってわかっているわよ。文句は公爵に言いなさい…ってユイ、どうしたの?」

はっきりと言ってくれれば、力なんて渡したのに。ユリネアは私にとっても、掛け替えのない親友だよ。どうして、公爵様はユリネアと私に打ち明けてくれなかったの?

……あれ? 何か変…私の中に、別の何かを感じる。

「ユイ」

気づけば、ふらふらのハティスが私の足元で匂いを嗅いでいる。

「半分眠ったままだけど、話だけは聞こえてた。ユイの中に、もう1人の君がいる」

「もう1人の…私?」

「残滓程度だけど、感じるんだ。多分、それがアリエスだ。残滓に語り掛ければ、きっっと君の成すべき事を教えてくれるよ」

「私の成すべき事……」

私の中に、アリエスの残滓がいるの? でも、私は強奪され…あ、強奪率は92.5%だから、残り7.5%の中にいるのかな?

「残滓が表に出ている今なら、語り合える。…頑張って」

アリエスは私自身なのだから、もう1つの人格ってことだ。心の中でなら、話し合うことも可能かもしれない。今は薄らいでいるけど、さっき感じた感覚こそが残滓なんだよ。私は目を閉じて、さっきの違和感を探していくと、胸の付近に何かを微かに感じたから、そこに意識を集中させていく。

『お…い、…アを…あ…て』

声が途切れ途切れで聞こえたけど、声が掠れていて、殆ど聞き取れない。 

……ダメだ。

どれだけ集中しても、聞き取れない。ユリネアや両親の話になった時、その残滓の思いが無意識に表に出ていたから、何か言いたいはず、どうやって知れば…そうだ、料理道の中にたしか…あった!


スキル[融和]
対立する[もの]と[もの]との間にある違和感をなくし、気持ちをなじませうちとける効果を持つ。


これを使えば、私と1つになれるかもしれない。
スキル[融和]発動!

私と1つになろう…アリエス。
残滓が私の中に入り、少しずつ溶け込んでゆく。

……え、これって?

そっか、それがアリエスの求める願いなんだね。
あはは、私たちって似たもの同士だね。
私の成すべきことが見えた。
あとは、実行あるのみ!

「ちょっとユイ、何処に行くの!」
「ユイ、おい!」

私が急に動き出したせいで、ブライトさんとリオンが慌てて呼び止める。

「ユリネアのところに行ってきます!」
「あ、私も行くのです!」

私はウィステと一緒に部屋を出て1階に行き、ギルドを出ていく。私の中にアリエスの残滓がいるように、ユリネアの中にもいる。その証拠に、私にしか見えないアリエスが、『ユリネアはあっち!』って教えてくれているもの。

ユリネア、待っててね。


○○○ *視点-ユリネア


アリエス…ごめんなさい…ごめんなさい。
お父様やお母様を恨む以前に、私が弱いからその選択に至ってしまった。

私がもっと強ければ…あの時、真っ暗闇の中でも、『みんなが私を助けてくれる』と強く信じ続けていれば、諦めずに希望を抱いていれば、こんな事にはならなかったのに。動けない中、《恐怖》《絶望》《裏切り》《死》で満たされてしまい、貴族の矜持なんて砕け散っていたわ。

アリエスに救われたことで、公爵邸の人たちとは普通に話せるようになったけど、敷地の外の世界に出るのが怖くて、お茶会の招待を受けても、全部欠席していた。あの食事会以降、私の中にある恐怖や不信感が嘘のように消えているのが、ずっと気掛かりだった。この街に来るまで、どうして挙動不審にならず、堂々と他人と話し合えたのか不思議だった。私の中にアリエスの力があるから、事件で抱えるようになった鬱積も全部消えたんだ。

「私、最低だ…アリエス、ごめんなさい。恨まれても仕方ないよね。親友なのに、裏切ってしまったのだから殺したいよね……だから、私の中で暴れているんでしょ?」

身体がはち切れそうなくらい、心が暴れている。
苦しい、苦しいよ。
でも、私に助けを求める権利なんてない。
親友を殺したのだから。

「そこに隠れていたか」
「え…きゃあ!?」

男性の声が聞こえて振り向いた瞬間、右手を掴まれ、真上に放り投げられた! 真下を見ると、仮面を被った長身の男がいて、両手に大きな麻袋を広げているわ。まさか…私をあの中に入れる気?

空中だから、姿勢制御が上手くいかない。身体を捻っても、奴は麻袋の位置を少しずらしただけで、私はそのまま袋の中に入れられた。

「な…なんなの? 何が目的なの?」
「……」
「何か喋りなさいよ!」
「……」

あくまで、黙秘を貫くのね。
この揺れ…移動しているの?
私が邪魔なら、あの場でさっさと殺せばいいものを。
あそこは路地裏で、周囲に誰もいないのに。
身体を動かそうとしているのに、変な匂いがして、力が入らない。
でも、意識だけははっきりしている。
この男の目的は、何なの?

「暗闇や閉所恐怖症すら発症していない…か。見通しが甘かったか」

え、どういうこと?
とにかく、抜け出さないと!

……だめだ。

薬が塗られているのか、全然力が入らない。
私、殺されるの?
アリエスの力を奪ったから、今になって天罰が振り下ろされたのかな?
アリエス……死んだら、貴方に会えるのかな?

「見つけた~~~! そこのお面の人、ユリネアを返して!」

私が心の奥底で願った時、アリエスの声が聞こえた。
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