5 / 7
─5─
しおりを挟むごはんが美味しくない。
何を食べても味がしないし、目に映るすべては色を失っていて瞳を開けていたくない。
嫌な事を聞いてしまった後に土日を挟んで、俺はベッドから起き上がれなかった。
起きてても、寝てても、柊一の事ばっかり考えてる自分が嫌になる。
決めた事なのに。
お邪魔虫だった俺が身を引けばいいって格好付けたはずなのに。
── 柊一、今何してるんだろ。噂の彼女と一緒に居るのかな……。
自分を叱咤しても、浮かんでくるのは柊一の笑顔だけ。
週末の昼間は撮影が入ってる事が多かったから、今もそうなのかもしれない。
なかなかデート出来なくてごめんな、って謝ってた柊一の申し訳なさそうな顔が脳裏に浮かぶ。
デート出来ない代わりに、日曜の夜は柊一の家に招かれて毎週のように泊まらせてもらって、彼の両親ともすっかり仲良くなった。
一人っ子な柊一は気ままだから面倒かけるかもしれない、とお母さんは苦笑いしてたけど、俺も一人っ子だって知って爆笑してたのを思い出す。
マイペースな俺達の関係、お母さんは薄々気付いてたんじゃないかなと思う。
…分からないけど、なんとなくそう感じた。
考え事が尽きなくなるから、日曜の今日も現実逃避に精を出そうと薄手の掛け布団を頭まで被った。
ほんのりとした温かさに数秒で夢の世界に行ってしまいかけたその時、枕元のスマホが着信を知らせて飛び起きた。
期待しちゃダメだって分かってるのに、最近静かだったせいで柊一かもって無意識に頬が緩む。
「……柊一の……お母さん?」
画面に表示された「柊一」の文字に一瞬ビクつく。
毎週のようにやって来る俺に、何か困った事があったら電話してねと登録された、柊一のお母さんからの着信だった。
柊一に何かあったのかと思って慌てて出てみる。
『あっ、出た、良かった~! 葵くん!』
電話の向こうのお母さんも慌てていた。
良かったぁ、と大袈裟に安堵する声色に心がザワザワする。
「こ、こんにちは。柊一に何かあったんですか?」
『それがね、柊一ってば今日撮影で私服を三パターン持って行かなきゃいけないのに、二パターンしか持って行ってないらしいの! 届けてって言われたんだけどお母さん今から仕事でゆっくり出来ないから……葵くんに配達お願い出来ないかなって』
「え……あ……」
『もうすぐ着くから下りてきてもらえる?』
「えぇっ? 分かり、ました……」
──断る隙がなかった。
お母さん、もうすぐ着くって事は車でこっちに来てるんだ。
物凄く気は進まないけど、俺も早く支度しなくちゃ……!
スマホをベッドに放って、大急ぎでパジャマから私服に着替えた。
届けるだけ。
柊一の姿を見に行くわけじゃなく、撮影に必要なものをただ配達するだけ。
玄関を出ると、タイミング良く柊一のお母さんの車が停車した。
本当にすぐ来た。
電話する前からここに向かってたんだ…俺と柊一の別れを知らないお母さんは。
「ごめんね、葵くん。急に呼び出したりして。よろしくね」
「いえ、大丈夫です。あの人だかりのとこに柊一が居るんですね?」
「そう。これで何か美味しいものでも食べて帰って」
柊一のお母さんは俺に五千円札を握らせると、大急ぎで仕事に向かって行った。
今日は街外れの大きな公園での撮影みたいだ。
俺は着替えの入った紙袋を抱いて、恐る恐る人だかりの方へ歩いて行く。
すると、隙間から柊一の姿がチラッとだけ確認できた。
まだ撮影前なのか大人達と談笑してる姿は、とても十七歳には見えない。
ゆっくり近付いて行くと、柊一の隣にやたらと密着する女の人が目に入る。
小柄で、華奢で、綺麗な人だ。
──あの人が「ユキ」なのかな……。
190
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
冬は寒いから
青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。
片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。
そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。
「二番目でもいいから、好きになって」
忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。
冬のラブストーリー。
『主な登場人物』
橋平司
九条冬馬
浜本浩二
※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる