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ラファエル商会
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「こ~づっくり~♪こ~づっくり~♪一緒に一緒に、こ~づっくり~♪」
先の、シリウスならオリハルコン作れますよ、発言によりその可能性を見出だしたフェオは、謎の子作りソングを歌い出した。それがエクスに感染し、一緒に歌い出す日も近いだろう。その歌を歌うのはどうか馬車の中だけにしていただきたい。
「つ、次はどこの工房に行きますの?」
若干引き気味になっている我が愛しの婚約者。そりゃまだこの歳なのに子作りソングを歌われても困りますよね。俺もそう思います。
「魔道具の工房にお邪魔させてもらう予定ですよ。魔道具の構造は知っていますが、まだ分解したことはないのですよね。この機会に構造をよく学んで、ゆくゆくは自分で作ってみたいですね」
前世のプラモデルや工作、自作PCなどを思い出していた。組み合わせによって無限に広がる可能性。まるで宇宙のようだ。
思いを馳せて、ウフフとなっていると、
「魔道具まで自分でお作りするつもりなのですか?まさか、また規格外の物をお作りするつもりではないですよね!?」
クリスティアナ様が、まさか!といった顔つきで言った。
何気に俺の婚約者様がひどい。そんなつもりは微塵もないのに。ただ俺は、皆が幸せになればと思ってやっていることなのに。
「クリピー、シリウスが普通の物を作ると、本当に思ってるの?」
「それは・・・」
そこは否定してくれよ嫁女殿。そうかも知れないけど、そうじゃないと。
「大丈夫。マスターならきっと、皆のためになる凄い物を作ってくれる。一杯、一杯作ってくれて、そのうち聖剣も作ってくれる」
ああ、エクス、何ていい子なんだ・・・って、あれ?なんか最後、妙なこと言わなかった?まあいいか。目的地に着いたことだし。
「こんにちは。工房見学の予約を入れていたシリウスです。宜しくお願いします」
魔道具の工房は初めて来るところだった。そのため、良く話を聞きたいと思って予約を入れておいたのだ。
しかし、工房の方は子供が来るとは思っていなかったらしく、完全に面食らっていた。しかも、そこはかとなく放たれる高貴な貴族の気配。
工房は一気に緊張感に包まれた。
「うっわ!シリウスを見てみんなドン引きしてるわよ。シリウスの名前、出さない方が良かったんじゃない?有名なんでしょ?」
「名前ならクリスティアナ様の方が有名だし、みんなフェオの姿に驚いているだけじゃないかな?」
「えー!こんなに可愛い妖精さんだぞ?」
胸を張った妖精さんを微笑ましく思ったのか、場の空気が幾分か和らいだ。計算通り。
「この通り、可愛い妖精つきですが、今日はどうぞよろしくお願いします」
殊勝に頭を下げた俺に倣って、他の三人も頭を下げた。
それを見た職人達も、恐縮しつつも、いやいや、と頭を下げてくれた。
「ようこそおいで下さいました。一同、歓迎いたしますよ」
こうして俺達と職人の付き合いが始まったのだった。
ここラファエル商会は、この世界に古くからある老舗中の老舗の魔道具を開発する商会だ。
開発が主な仕事であり、完成品の量産や販売は別のところで行われている。俺が興味があったのは魔道具を開発している現場だったので、実際に量産しているところはスルーさせてもらった。
もし万が一、自分の作った商品が量産されることになったら、その時は一度見に行くのもいいかも知れない。
「これが現在使われている魔法陣の一覧です」
商会長自らが説明をしてくれた。というか、トップでないと対応しきれないと判断されたのだろう。先の俺のクリスティアナ様発言により、王族が来ていることもそれとなく伝わり、色々と便宜を計ってくれたみたいだ。
「思ったよりも少ないですね」
「そう思われるかも知れませんね。以前、と言っても何百年も前ですが、その頃には魔法陣の研究もなされており、それなりに数があったということなのですが、今ではその開発方法も忘れられてしまい、残された魔法陣を何とか繋ぎ止めるので精一杯の有り様なのですよ」
皆が使える便利な魔法があるから、魔法陣何ていらないんじゃないかな?ってなったのかも知れない。
諸行無常が定めとはいえ、ちょっともったいない気がする。
魔法陣の一覧には火を出す魔法、風を起こす魔法、氷を出す魔法などの、誰でも使える魔法ばかりだった。これじゃあそのままでは使い道があまり無さそうだ。
「ねえねえ、これ何?」
フェオが四角い箱を両手に抱えて持ってきた。
「これは火を出す魔道具ですな」
そう言って商会長は箱を受け取り、丸いボタンを押した。
するとカチッという音と共に、蝋燭の火程度の火が灯った。要はライターである。
「これ、何に使うの?」
あまりに小さな火に、その用途が分からない様子。
「これは火種だよ。薪に火を点ける時に使うんじゃないかな?魔法で小さな火を出すのが難しい人のための魔道具ですよね?」
あってる?といった感じで商会長に振り向くと、我が意を得たり、といった顔をしていた。
「さすがはシリウス様。その通りです。火の魔法が得意でない人向けの魔道具ですよ。これのお陰で火事が減ったと言われております」
「確かに、こんなに小さな炎を出すのはあたしには無理だわ」
膨大な魔力を持つ妖精にとっては、いくら魔力操作能力が高いとはいえども、小さ過ぎる炎を出すことは難しいようだ。
妖精でさえそうなのだから、魔力操作能力が低い人達ではその制御は不可能なのだろう。
努力して魔力操作を覚えるよりかは火種を買った方が早いということだろう。
「こちらはライトの魔法の代わりに使う魔法ランプですわね。良く使いますわ。ライトの魔法は光の量を調整するのが難しいですから、とても助かってますわ。それに長時間の魔法の維持はとても大変ですからね。その点、魔石さえ切れなければいつまでも使える魔法のランプは本当に便利ですわ」
「ありがとうございます。この魔法のランプは大ヒット商品でして、今でも主力の商品なのですよ」
商会長が嬉しそうに語った。確かにライトの魔法の制御は難しく、そのため、この魔法のランプはどこの家にも必ずあった。
「ふ~ん、そんなに有名なんだ。シリウスが使わないから知らなかったよ」
「シリウス様はライトの魔法をいつも使っていらっしゃいますからね。・・・よくよく考えてみますと、異常ですわ。部屋全体をちょうどよい光で照らし続けるなんて。しかも寝る直前までずっと魔法を維持してますわ。そういえば、だんだんと明るさを弱くしているようですし、あれは私達が眠りやすいようにとの配慮からですわよね?あんな細かな魔法の制御は不可能ですわ。それに、今思えば魔法を詠唱していませんわよね?」
「そういえばそうだね。新しい魔法かな?」
「商会長、この魔道具を分解してみても構いませんか?」
少し離れた所に別の魔道具を取りに行っていた商会長に向かって、大きな声をかけた。
クリスティアナ様の観察能力が上がっている。色々と不味い。ここは、逃げるしか、ない。
「あっ、逃げた!」
「逃げましたわ」
「マスター、私も光ることができる」
マイペースなエクスだけが、今の俺の心の癒しだった。
「魔道具を分解ですか。う~ん、そうですね・・・分かりました、いいでしょう」
そう言って商会長は何やら特殊な工具を持って来るように指示していた。
どうやら、と言うか、やはり中身は機密事項になっているようであり、分解には特殊な工具がいるようだ。
特許制度などないこの世界では、ある意味で模倣し放題だ。その事も魔道具業界が盛り上がらない一因となっているようだ。
そのため、少しでも自衛すべく、その工房専用の鍵となるアイテムがあるわけだ。
「勝手に開けちゃダメみたいだね」
「魔法で開けちゃえばいいのに」
「それじゃ元に戻せないでしょ」
「魔法で戻せばいいじゃん」
「・・・」
「今、それもそうだと思いませんでしたか?」
クリスティアナ様がニッコリと笑う。
「い、いや、そんなことありませんよ?」
あはは、やだなぁと誤魔化す俺を半目で見ていた。
物を元に戻すような魔法はまだ見たことがない。ここらで創ってみるのもいいかも知れない。
「お待たせしました。こちらが我が商会の魔道具を開ける工具です。ここの部分をこうすると中が開くようになります」
「おおお!」
これは凄い。原理は分からないが、工具を所定の場所にかざすとパカリと蓋が取れた。
「これが魔法を発動するための魔方陣です」
説明されたそこには、銀色の板に魔方陣が描かれていた。
「これは銀版ですか?魔方陣を描いているインクも普通のインクではなさそうですが」
「はい。板は魔力を通し易い銀の板で出来ております。インクは魔導インクと呼ばれている魔力を通す特殊なインクですね。作り方はそれぞれの商会で違っており、それが魔道具の質の違いになっています」
要は企業秘密というわけだ。同じような魔道具でも良し悪しがあるのはそのせいだったのか。
「へ~、昔はすぐに壊れるから魔方陣なんて使い物にならなかったのに、今はこうして壊れ難くしてるのね。人って面白いこと考えるよね~」
素直に感心するフェオだが、どうやら魔方陣の歴史は思ってる以上に相当古いらしい。
すぐに壊れるという表現から、少しでも図案が壊れるとダメになるみたいだ。予想はしていたが、かなり繊細なようだ。
ということは、先に見た刺繍で描かれた魔方陣は、壊れ難いという点においてはなかなか良さそうだった。インナーに刺繍で魔方陣を仕込んでおくとか良さそうな気がする。魔力供給源は自分の魔力だ。
銀版は何とかなりそうだし、問題になりそうなのは魔導インクだけか。見たところ、魔力を通し易い銀で作られているようだが、熱して柔らかくした銀で無理やり描いたのかな?でも、それだとこんなに綺麗に描けないだろうし、そもそも銀が溶けるくらいに高温になっている物をどうやって使うというのか。インクというくらいだから、もっと流動性が高い何かなのだろう。
う~んと唸っていると、俺を心配したのかエクスが腕輪型になり、スルリと腕に巻き付いた。
ん?エクス、どうやって体を柔らかくして巻き付いているんだい?何々、オルハリコンは魔力を流すと柔らかくなる?なるほど。他の金属はどうなの?へ~、魔力を通す物は、魔力を沢山通せばなんでも柔らかくなるんだ。これは思わぬ所から答えが聞けたぞ。ありがとうエクス。
魔道具を作る目処が立ち、思わずニヤリとしてる俺に、フェオとクリスティアナ様がまた悪巧みしている、と言ってきた。いいじゃない、久しぶりのDIYにワクワクしてきたぞ。
「外側の入れ物は木製なんですね。どうしてですか?」
「魔力を通し難いからですね。杖の材料として使われるトレント材などは別として、基本的に木材は魔力を通し難いのが特徴ですから。魔力を通し易い素材だと、すぐに魔石が使えなくなってしまうのですよ」
なるほど、電気の漏電みたいな感じなのか。ならば、魔力を通し難い素材ならば何でもいいということになるな。それなら、魔力を通し難い素材を別に探すのも手かも知れない。プラスチックとかは魔力を通すのかな?さすがにこの世界にはまだないが、使えそうなら作り出してもいいかも。陶器も魔力を通し難いがあれは割れ易いからな。他にも魔物の革なんかは魔力を通し難いものが多かったはずだ。レザークラフトなんておしゃれじゃないか。
「魔力の供給源は魔石だけなのですか?」
「今のところ、実用的なのは魔石だけですね。古代高度魔法文明時代の遺産から魔晶石と呼ばれる魔石よりも遥かに魔力を内包した石が見つかっていますが、極少数です。魔晶石が何物なのかも現在のところ不明ですね」
魔晶石は完全なオーパーツということか。そういえば本でも見たことないな。でも、魔晶石というアイテムがあるのが分かっただけでも僥倖だ。
なければ作ればいいじゃない。こちらにはエクス先生とフェオ先生がいる。伊達に悠久の時を生きていないはずだ。
先の、シリウスならオリハルコン作れますよ、発言によりその可能性を見出だしたフェオは、謎の子作りソングを歌い出した。それがエクスに感染し、一緒に歌い出す日も近いだろう。その歌を歌うのはどうか馬車の中だけにしていただきたい。
「つ、次はどこの工房に行きますの?」
若干引き気味になっている我が愛しの婚約者。そりゃまだこの歳なのに子作りソングを歌われても困りますよね。俺もそう思います。
「魔道具の工房にお邪魔させてもらう予定ですよ。魔道具の構造は知っていますが、まだ分解したことはないのですよね。この機会に構造をよく学んで、ゆくゆくは自分で作ってみたいですね」
前世のプラモデルや工作、自作PCなどを思い出していた。組み合わせによって無限に広がる可能性。まるで宇宙のようだ。
思いを馳せて、ウフフとなっていると、
「魔道具まで自分でお作りするつもりなのですか?まさか、また規格外の物をお作りするつもりではないですよね!?」
クリスティアナ様が、まさか!といった顔つきで言った。
何気に俺の婚約者様がひどい。そんなつもりは微塵もないのに。ただ俺は、皆が幸せになればと思ってやっていることなのに。
「クリピー、シリウスが普通の物を作ると、本当に思ってるの?」
「それは・・・」
そこは否定してくれよ嫁女殿。そうかも知れないけど、そうじゃないと。
「大丈夫。マスターならきっと、皆のためになる凄い物を作ってくれる。一杯、一杯作ってくれて、そのうち聖剣も作ってくれる」
ああ、エクス、何ていい子なんだ・・・って、あれ?なんか最後、妙なこと言わなかった?まあいいか。目的地に着いたことだし。
「こんにちは。工房見学の予約を入れていたシリウスです。宜しくお願いします」
魔道具の工房は初めて来るところだった。そのため、良く話を聞きたいと思って予約を入れておいたのだ。
しかし、工房の方は子供が来るとは思っていなかったらしく、完全に面食らっていた。しかも、そこはかとなく放たれる高貴な貴族の気配。
工房は一気に緊張感に包まれた。
「うっわ!シリウスを見てみんなドン引きしてるわよ。シリウスの名前、出さない方が良かったんじゃない?有名なんでしょ?」
「名前ならクリスティアナ様の方が有名だし、みんなフェオの姿に驚いているだけじゃないかな?」
「えー!こんなに可愛い妖精さんだぞ?」
胸を張った妖精さんを微笑ましく思ったのか、場の空気が幾分か和らいだ。計算通り。
「この通り、可愛い妖精つきですが、今日はどうぞよろしくお願いします」
殊勝に頭を下げた俺に倣って、他の三人も頭を下げた。
それを見た職人達も、恐縮しつつも、いやいや、と頭を下げてくれた。
「ようこそおいで下さいました。一同、歓迎いたしますよ」
こうして俺達と職人の付き合いが始まったのだった。
ここラファエル商会は、この世界に古くからある老舗中の老舗の魔道具を開発する商会だ。
開発が主な仕事であり、完成品の量産や販売は別のところで行われている。俺が興味があったのは魔道具を開発している現場だったので、実際に量産しているところはスルーさせてもらった。
もし万が一、自分の作った商品が量産されることになったら、その時は一度見に行くのもいいかも知れない。
「これが現在使われている魔法陣の一覧です」
商会長自らが説明をしてくれた。というか、トップでないと対応しきれないと判断されたのだろう。先の俺のクリスティアナ様発言により、王族が来ていることもそれとなく伝わり、色々と便宜を計ってくれたみたいだ。
「思ったよりも少ないですね」
「そう思われるかも知れませんね。以前、と言っても何百年も前ですが、その頃には魔法陣の研究もなされており、それなりに数があったということなのですが、今ではその開発方法も忘れられてしまい、残された魔法陣を何とか繋ぎ止めるので精一杯の有り様なのですよ」
皆が使える便利な魔法があるから、魔法陣何ていらないんじゃないかな?ってなったのかも知れない。
諸行無常が定めとはいえ、ちょっともったいない気がする。
魔法陣の一覧には火を出す魔法、風を起こす魔法、氷を出す魔法などの、誰でも使える魔法ばかりだった。これじゃあそのままでは使い道があまり無さそうだ。
「ねえねえ、これ何?」
フェオが四角い箱を両手に抱えて持ってきた。
「これは火を出す魔道具ですな」
そう言って商会長は箱を受け取り、丸いボタンを押した。
するとカチッという音と共に、蝋燭の火程度の火が灯った。要はライターである。
「これ、何に使うの?」
あまりに小さな火に、その用途が分からない様子。
「これは火種だよ。薪に火を点ける時に使うんじゃないかな?魔法で小さな火を出すのが難しい人のための魔道具ですよね?」
あってる?といった感じで商会長に振り向くと、我が意を得たり、といった顔をしていた。
「さすがはシリウス様。その通りです。火の魔法が得意でない人向けの魔道具ですよ。これのお陰で火事が減ったと言われております」
「確かに、こんなに小さな炎を出すのはあたしには無理だわ」
膨大な魔力を持つ妖精にとっては、いくら魔力操作能力が高いとはいえども、小さ過ぎる炎を出すことは難しいようだ。
妖精でさえそうなのだから、魔力操作能力が低い人達ではその制御は不可能なのだろう。
努力して魔力操作を覚えるよりかは火種を買った方が早いということだろう。
「こちらはライトの魔法の代わりに使う魔法ランプですわね。良く使いますわ。ライトの魔法は光の量を調整するのが難しいですから、とても助かってますわ。それに長時間の魔法の維持はとても大変ですからね。その点、魔石さえ切れなければいつまでも使える魔法のランプは本当に便利ですわ」
「ありがとうございます。この魔法のランプは大ヒット商品でして、今でも主力の商品なのですよ」
商会長が嬉しそうに語った。確かにライトの魔法の制御は難しく、そのため、この魔法のランプはどこの家にも必ずあった。
「ふ~ん、そんなに有名なんだ。シリウスが使わないから知らなかったよ」
「シリウス様はライトの魔法をいつも使っていらっしゃいますからね。・・・よくよく考えてみますと、異常ですわ。部屋全体をちょうどよい光で照らし続けるなんて。しかも寝る直前までずっと魔法を維持してますわ。そういえば、だんだんと明るさを弱くしているようですし、あれは私達が眠りやすいようにとの配慮からですわよね?あんな細かな魔法の制御は不可能ですわ。それに、今思えば魔法を詠唱していませんわよね?」
「そういえばそうだね。新しい魔法かな?」
「商会長、この魔道具を分解してみても構いませんか?」
少し離れた所に別の魔道具を取りに行っていた商会長に向かって、大きな声をかけた。
クリスティアナ様の観察能力が上がっている。色々と不味い。ここは、逃げるしか、ない。
「あっ、逃げた!」
「逃げましたわ」
「マスター、私も光ることができる」
マイペースなエクスだけが、今の俺の心の癒しだった。
「魔道具を分解ですか。う~ん、そうですね・・・分かりました、いいでしょう」
そう言って商会長は何やら特殊な工具を持って来るように指示していた。
どうやら、と言うか、やはり中身は機密事項になっているようであり、分解には特殊な工具がいるようだ。
特許制度などないこの世界では、ある意味で模倣し放題だ。その事も魔道具業界が盛り上がらない一因となっているようだ。
そのため、少しでも自衛すべく、その工房専用の鍵となるアイテムがあるわけだ。
「勝手に開けちゃダメみたいだね」
「魔法で開けちゃえばいいのに」
「それじゃ元に戻せないでしょ」
「魔法で戻せばいいじゃん」
「・・・」
「今、それもそうだと思いませんでしたか?」
クリスティアナ様がニッコリと笑う。
「い、いや、そんなことありませんよ?」
あはは、やだなぁと誤魔化す俺を半目で見ていた。
物を元に戻すような魔法はまだ見たことがない。ここらで創ってみるのもいいかも知れない。
「お待たせしました。こちらが我が商会の魔道具を開ける工具です。ここの部分をこうすると中が開くようになります」
「おおお!」
これは凄い。原理は分からないが、工具を所定の場所にかざすとパカリと蓋が取れた。
「これが魔法を発動するための魔方陣です」
説明されたそこには、銀色の板に魔方陣が描かれていた。
「これは銀版ですか?魔方陣を描いているインクも普通のインクではなさそうですが」
「はい。板は魔力を通し易い銀の板で出来ております。インクは魔導インクと呼ばれている魔力を通す特殊なインクですね。作り方はそれぞれの商会で違っており、それが魔道具の質の違いになっています」
要は企業秘密というわけだ。同じような魔道具でも良し悪しがあるのはそのせいだったのか。
「へ~、昔はすぐに壊れるから魔方陣なんて使い物にならなかったのに、今はこうして壊れ難くしてるのね。人って面白いこと考えるよね~」
素直に感心するフェオだが、どうやら魔方陣の歴史は思ってる以上に相当古いらしい。
すぐに壊れるという表現から、少しでも図案が壊れるとダメになるみたいだ。予想はしていたが、かなり繊細なようだ。
ということは、先に見た刺繍で描かれた魔方陣は、壊れ難いという点においてはなかなか良さそうだった。インナーに刺繍で魔方陣を仕込んでおくとか良さそうな気がする。魔力供給源は自分の魔力だ。
銀版は何とかなりそうだし、問題になりそうなのは魔導インクだけか。見たところ、魔力を通し易い銀で作られているようだが、熱して柔らかくした銀で無理やり描いたのかな?でも、それだとこんなに綺麗に描けないだろうし、そもそも銀が溶けるくらいに高温になっている物をどうやって使うというのか。インクというくらいだから、もっと流動性が高い何かなのだろう。
う~んと唸っていると、俺を心配したのかエクスが腕輪型になり、スルリと腕に巻き付いた。
ん?エクス、どうやって体を柔らかくして巻き付いているんだい?何々、オルハリコンは魔力を流すと柔らかくなる?なるほど。他の金属はどうなの?へ~、魔力を通す物は、魔力を沢山通せばなんでも柔らかくなるんだ。これは思わぬ所から答えが聞けたぞ。ありがとうエクス。
魔道具を作る目処が立ち、思わずニヤリとしてる俺に、フェオとクリスティアナ様がまた悪巧みしている、と言ってきた。いいじゃない、久しぶりのDIYにワクワクしてきたぞ。
「外側の入れ物は木製なんですね。どうしてですか?」
「魔力を通し難いからですね。杖の材料として使われるトレント材などは別として、基本的に木材は魔力を通し難いのが特徴ですから。魔力を通し易い素材だと、すぐに魔石が使えなくなってしまうのですよ」
なるほど、電気の漏電みたいな感じなのか。ならば、魔力を通し難い素材ならば何でもいいということになるな。それなら、魔力を通し難い素材を別に探すのも手かも知れない。プラスチックとかは魔力を通すのかな?さすがにこの世界にはまだないが、使えそうなら作り出してもいいかも。陶器も魔力を通し難いがあれは割れ易いからな。他にも魔物の革なんかは魔力を通し難いものが多かったはずだ。レザークラフトなんておしゃれじゃないか。
「魔力の供給源は魔石だけなのですか?」
「今のところ、実用的なのは魔石だけですね。古代高度魔法文明時代の遺産から魔晶石と呼ばれる魔石よりも遥かに魔力を内包した石が見つかっていますが、極少数です。魔晶石が何物なのかも現在のところ不明ですね」
魔晶石は完全なオーパーツということか。そういえば本でも見たことないな。でも、魔晶石というアイテムがあるのが分かっただけでも僥倖だ。
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