悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき

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お化け騒動①

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「今日からこのクラスを担当するクレイモアです。皆さんよろしくお願いしますね」
 いよいよ学園での授業が始まった。定番の長い長い学園長の挨拶が終わり、俺達は事前に通達されていたクラスへとやってきた。
 クラスメイトの自己紹介を聞いていると、どうやらこのクラスは高位貴族を集めたクラスであるようだ。なんたら侯爵やうんたら伯爵ばかりにであり、子爵階級以下の子はいなかった。
 子供達は初めての独り暮らしで随分と気が大きくなっているようであり、すでに一部に傲慢になっている馬鹿なお子様がいた。これは先が思いやられるな。
「それでは、自己紹介が終わったところで、注意事項があります。一つ目が、学園内では決められた場所以外では魔法を使ってはいけません。もし使用した場合は身分に関係なく、厳しい罰が与えられますのでそのおつもりで。2つ目に、貴族として振る舞うこと。学園内だからといって貴族としての作法がなくなる訳ではありません。むしろ、厳しく見られていると思って下さい。例外として、この学園の教師はどの身分よりも上になっていますので、忘れないように。最後に、この校舎の最上階には立ち入らないこと。これは絶対です。以上です。何か質問がある方は手を上げて下さい」
「先生、なんで最上階に行っては駄目なんですか?」
 生徒の一人が聞いた。確かに気にはなるな。
「お恥ずかしいことに、最上階にレイスが住み着いているのですよ。結界を張って封じ込めているのですが、まだ退治できていないのです。危険ですので、絶対に近づかないで下さいね」
 先生はこのことを言った方がいいと判断したようだ。行っては駄目だと言われれば、行きたくなってしまうのが人間だ。ましてや子供なら尚更だ。だからこそ、興味本位で行かないように、何があるのかを教えて釘を刺したのだろう。
 その後は、主に初等部の生徒が使う部屋や施設を案内されて、今日の授業は終わった。収穫と言えば、学園図書館を初等部でも使ってよいと言われたことだ。残念ながら、飛び上がって喜んだのは俺だけだったが。

 入学して少し経ったが、特に変わりのない日常を送っていた。
 そう、変わりのない、つまりは友達は一人もできないままであった。俺とクリスティアナ様を遠巻きに見ている感じがある。最高位の身分だし、仕方がないね。まあまだ焦る時間ではないか。
「ねえねえ、お化けを見に、行ってみたくない?」
 フェオが、行きたいよね? ね? といった顔をしながら聞いてきた。もちろん答えはノーだ。
「面白そうだね。だが、断る」
「なんでよ~!」
 ハリセンボンのようにプクッと膨れるフェオ。その愛らしさに、思わず頬を親指と人差し指で摘まむと、プシュと空気が抜けた。
「フェオ、先生の話を聞いてなかったのですか? あそこは立ち入り禁止区域ですわ。破ると罰を与えられてしまいますわよ」
「ふっふ~ん、あたしは生徒じゃないから大丈夫よ!」
 フェオが小ぶりな胸を張って答えた。フェオが規則を破っても、俺達は一蓮托生のような気がする。
「フェオ、何か問題を起こしたら、スライムベトベトの刑だからね」
 俺はフェオにイイ笑顔を向けた。その顔を見たフェオは震え上がった。
「や、やだ、あたしを汚すつもり? 綺麗な体でお嫁に行けなくするつもりなの!?」
 フェオにとってスライムはそういう存在として認識されているようだ。ふと、クリスティアナ様の方を見ると、同じような顔をしていた。どうやらスライムは女の子の敵のようである。一方のエクスは首を傾げていた。
 彼女にはスライムの危険性を教えておいた方がいいのかも知れない。その手の薄い本を探しておかなければ。
 その時、にわかに教室が騒がしくなった。
 今は昼食後の昼休み時。この時間帯は生徒はみんな好きなところへと、あちこち出掛けている時間だ。
 なんだろうとクリスティアナ様と顔を見合わせていると、
「大変ですわ! 肝試しだ、とか言って最上階に何人かの人たちが向かって行きましたわ!」
 それを聞いた俺達は、揃ってフェオを見た。
「ちょっと、なんであたしを見るのよ! まだ何のイタズラもしてないわよ! 失礼ね」
 まだ? いつかやるつもりだったんだね、フェオ。後でくすぐりの刑にでも処しておくか。
 俺達がフェオを疑っている間にも、教室に残っていたクラスメイト達が騒がしく席を立ち、外に出て行った。
「シリウス様は行かないのですか?」
「う~ん、行くのは禁止されていますからね。問題になると困るので、行きたくないのが本音ですね」
「またそんなこと言って~。また何かやっちゃうのが怖いだけなんでしょ? もう諦めたら?」
 フェオちゃんが何気に酷い。これは後でスライムベトベトの刑だな。お望み通り、お嫁に行けない体にしてあげよう。
 グフフと気持ち悪い笑いをしていると、
「シリウス様、クラスメイトに何かあった場合の方が問題になりますわ。また何かやらかしたら私も一緒に謝りますので、取り敢えず行くだけ行ってみませんか?」
 これはクリスティアナ様もスライムベトベトの刑だな。想像しただけでもいやらしい。
 クリスティアナ様の発案で、取り敢えず俺達も現場に向かうことにした。
 最上階にはすでに多くの人が集まっていた。俺達の所属するクラスだけでなく、他のクラスの子も来ているようである。
 見た感じ、上級生の姿は見えないな。さすがにレイス挑むような馬鹿はいないか。いるとすれば、新入生のお馬鹿な連中だけか。
 一人納得していると、前方から悲鳴が上がった。
「た、助けてくれ、誰かー!」
 悲鳴の主はなんたら侯爵の息子のようだ。レイスが迫って来ているが、腰が抜けたのか、盛大にお漏らしをした状態で動けないでいるようだ。
 レイスはゴーストタイプのモンスターの中でも上位種である。完全消滅されるには高位の浄化魔法が必要とされる。だから今まで封印という形しかとなかったのだ。
 そんなことも知らすに足を突っ込んだ彼は、ある意味尊敬に値する。
「ファイアアロー!」
「ストーンアロー!」
 なんたら侯爵の取り巻きのうんたら伯爵達が、禁止されている魔法を使った。だが、レイスには効果がなかったようであり、二人が使った魔法はレイスをすり抜け、初等部の建物の壁を無残にも破壊しただけだった。
「誰かレイスの足止めを頼めませんか! ターンアンデットを使います!」
 ターンアンデットとは高位の浄化魔法である。これならばレイスを浄化することもできるだろう。ターンアンデットを使えることに少し驚いたが、声の主を見ると、なるほど、と納得した。
 彼はルイス・アルバートン伯爵令息。現在の教皇の孫である。それならば強力な神聖魔法が使えてもおかしくはないな。
 だが、ターンアンデットには一つ欠点があった。それは動いている相手には効きにくいということである。ターンアンデットは照射型の魔法のため、魔法を当て続ける必要があるのだ。当然、相手は逃げる。ゆえに相手を固定する必要があるのだ。
 チラリと結界を見ると、どうやらこの馬鹿どもは結界を破壊して中に入り込んだようだ。このままだと、外に出る。そうなると、ここにいる子供達全員が危険にさらされることになる。
「あたしがプチッとやっちゃおうか?」
「レイスだけをやれるかい?」
「そんな細かいことができると思う? ドカンとまとめて一発よ! 建物ごと木っ端微塵ね」
 ですよねー。期待した自分が馬鹿だった。ピーちゃんならできそうだが、クリスティアナ様の切り札になるピーちゃんをここで使いたくはない。ならば、俺がやるしかないか。魔法は禁止されてるし、仕方がないよね、みんなの安全のためだし。
 俺は数歩前に出た。俺が何をするのかクリスティアナ様にも分かったのだろう。そのままフェオを抱いて後ろに下がった。
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