完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
9 / 32

8

しおりを挟む
 イヤルは、車から降りた女性を隣に立たせた。

 エンフィだけでなく、この場の全員が、イヤルと彼女がどんな関係なのだろうと思っていると、その女性の腰に、彼の手がそっと添えられた。それと同時に、彼女もまたゆったりと彼に身を寄せる。
 どうみても、ビジネス上の関係ではなさそうだ。彼らを見守る各々が複雑な思いを抱きながら、イヤルの言葉を待つ。

「エンフィ、ただいま。ルドメテも、ここに来たばっかりなのに、不在にしてすまなかった。慣れない中、オレがいない間、領地を守ってくれてありがとう。各地の長もご苦労様。無事に今年も冬を乗り越えて、春を迎えることができたのも、君たちのおかげだ」

 いつもの彼の帰還。いつものねぎらいの言葉。いつもの元気そうな声。いつものたくましい体躯。いつもの耳にすっと入ってくる素敵な声。
 何もかもが、エンフィたちの知るイヤルなのに、隣にいる女性だけがいつもと違う。ふたり以外の全員が彼の隣にいる女性に視線を注いでいた。

「あ、の? イヤル、その方はいったい?」

 数分の膠着状態の後、誰しもが聞きたかった言葉をエンフィが尋ねる。

「ああ、彼女は……。そういえば、こうして、君に紹介するのは初めてだったね」

 エンフィは、少しバツが悪そうな、いたずらがバレてはにかんでいる子供みたいに笑いながらそう言う彼をまじまじと見る。こちらは全員戸惑っているというのに、さも当たり前のように彼女を隣においている彼に、嵐が始まりつつあるような強い風が心の中に吹き始めた。嫌な予感がして、思わず手を握る。その手のひらは、じんわり汗ばんでいて気持ちが悪い。

「皆様はじめまして。わたしはロイエ。皆からはロイと呼ばれています。

 艶やかで色気のあるその女性は、舞台中央で立ちながら挨拶をしている美しい女優のようだ。エンフィとは違う、大人の魅力が十分すぎるほどある彼女の圧倒的な存在感に、自分に挨拶がなかったという彼女の無礼など気づく余裕がなかった。

「ロイって、この地方の特産品について研究をして、販路を拡大するためにに尽力してくれた人よね。てっきり、男性かと思っていたわ」

 エンフィが、彼女を無視してイヤルをじっと見つめながらそう言うと、彼は一瞬あった視線をすっとそらした。普段なら、自分の視線からこんなふうに逃げようとしない。そんな彼の小さくて大きな変化が、先程の嫌な予感を増長する。

「そうなのか? イヤルのビジネスパートナーが切れ者の美しい女性だということは王都では有名だったんだが。イヤルが今の今まで、エンフィに彼女のことを紹介どころか説明すらしていなかったとは……」

 エンフィの言葉を聞き、ルドメテはびっくりしてそう言った。セバスたちも、「ロイ」のことは男性と思っていたため、エンフィと同じようにびっくりしている。その様子を見て、ルドメテはイヤルの愚かに見える言動に、信じていた友人の知らなかった一面が垣間見えたことで、頭の片隅に小さな点のような疑惑がもちあがる。その点は、まるで透き通った水に垂らされたインクのように、いびつに広がりやがて真っ黒にそめてしまいそうで、その疑惑を打ち払うかのように小さく首を横にふった。

「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。ロイがオレや領地にとってとても有益なパートナーだってことは、最初から伝えていたさ。性別のことは、言わなかったかな? 当然知っているものだと思っていただけさ」

 数分前の、バツの悪いような表情を見なければ、今もなお腰に手をおいたままのイヤルが視界にうつっていなかれば、彼がついうっかり言いそびれていたことを信じたかもしれない。しかし、一生懸命良い方向に考えようとしても、そうすればするほど確信犯だったのだと思えて仕方がなかった。

 ロイとは、海外など長期出張も一緒に行っていたのを聞いている。新規契約の状況をイヤルから説明を受けた際、ロイとふたりきりのときも少なくなかった。

 ロイと知り合ってから、2年以上。上司と部下という関係だけなら、まだ良かったと、地面が真っ暗な底抜けの地の底に向かう入口になったかのように、その場に立ちすくんだエンフィの横を、イヤルはロイと体を寄せ合い談笑しながら通り過ぎていったのである。

「エンフィ、僕たちも行こう。セバス、このような状況になったからには、取り敢えずイヤルから説明を聞く必要がありそうだ。もてなす準備が改めて完了するまで、せっかく来てくださった各地の長たちのことを頼む」

 ルドメテが、今にも倒れそうになっている顔面蒼白のエンフィをたくましい腕で支える。

 彼女を抱き上げて移動するのは簡単だ。しかし、ロイの存在とイヤルとの関係が不明瞭で、愛人とも思しき女性と一緒にいる今、エンフィが頼りない姿を見せるわけにはいかないだろう。震える彼女が転ばないようにゆっくりエスコートした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...