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思った以上に、新しく女主人となったロイエたちの、エンフィたちに対する風当たりはきつかった。
「奥様、申し訳ございません。里芋生産とは直接かかわりのない、調味料を扱ううちら商店が栄えたのも、奥様が里芋をきっかけに、ざまざまなグッズや、滋養強壮を含めたレシピなどのおかげですのに。しかし、手をお貸ししたのが知られたら……」
ロイエたちは、エンフィを追い出すと同時に、各地に彼女の手助けをした地域の税率を20%まであげると通達をしたのだ。そんなことになれば、以前の寒さに凍え、飢えに苦しむ生活以上の悪い未来しかない。彼女たちを宿泊施設に泊まらせたことを、絶対に知られないようにしないといけない。
村人が一丸となって秘密を守ろうとしても、長居すればいずれどこかから情報は洩れる。
エンフィたちには、嘆き悲しんでいる時間がほとんどなかった。
「いいのよ。リスクを冒して、今まで匿ってくれてありがとう。一泊させていただいただけでもありがたいわ。そんなことよりも、これからあの人たちがここを守ってくれるといいのだけれど」
3年連れ添った妻であるエンフィを、イヤルは着替えどころか、一アルミすら持たせず追い出した。ロイエは、エンフィを汚染されたゴミを見るように睨みつけていたし、ルドメテに至っては、実力行使で文字通り追い出したのである。そんな彼らが、赤の他人である領民に対して、慈悲深く家族のように親身になって相談にのり実行するとは考えにくい。
「俺たちは、奥様に頼りっぱなしでした。新しい主人たちが、奥様ほど親身にここの発展に尽力してくださるとは思えません。これからは、自分たちの力もつけないといけないと話し合ったのです」
「そう……。領主に頼らず、自分たちで生きていく術を手に入れることはとても大切なことね。ほかの地域の人たちと、今まで以上に協力しあってね。最悪、故郷を離れて近くの村と合併することも視野に入れてください。イヤルたちが、あなたたちに更なる幸福をもたらすために頑張ってくれることを祈っています」
おそらく、この村だけではなく、領地全域の長たちは早急に今後の対応を考えて話し合いをしているだろう。この騒動をうまく乗り切らなければ、まだまだ魔法石が少ないこの地方で、今年も襲い来る冬を越えることは不可能になる。イヤルたちの領主たる意識や実力を信じるところも出てくるだろう。
まさに死活問題になる小さな集落では、なすすべもなく、集落全体が全滅になるという最悪の事態を想像し、エンフィはぞっと背筋が凍るようなほど身震いした。
ロイエの情報がない今、更に、これまでのエンフィの領民たちとの信頼関係が深ければ深いほど、彼女と同じように目をそむけたくなる予想をたてているのだろう。
「でも、もしも、もしもね、自分たちの手に負えないほど困ったことがあったら、わたしの実家に連絡を頂戴。実家に直接は難しいけれど、実家が提供させていただいている貨物ルートを使えば大丈夫だから。この領地とは無関係になってしまったわたしに、出来ることは少ないけれど……」
「奥様、いいえ、エンフィ様。そのお言葉だけで十分です。わしらは、3年前には考えられない程の生活をさせていただいてきました。これからは、わしらがエンフィ様を支えることが出来るよう邁進いたします」
夜半過ぎまで泣きくずれたエンフィたちは、こうして朝いちばんの列車に間に合うよう、まだ朝日が昇り始めた早朝に領地から旅立った。
彼らが少ない資金をかき集めてエンフィたちに渡してくれたこともあり、実家までつつがなく帰ることができたのである。
「……三年ぶりね」
「懐かしいですな」
「さあさ、エンフィ様。迎えが来ましたよ」
女性のほうが優位な立場であるこの国で、婚家を追い出された女性は恥以外の何物でもない。家族にすら受け入れてもらえない者もいる。
昨日からの度重なるショックが、エンフィの気持ちをマイナスのほうへひっぱる。
「お父さまがた、お母さま……。お姉さまも……。ごめんなさい、もう聞いていると思うのだけれど」
一生懸命、自分なりに頑張った結果が、誰一人として喜ばない結果となり、エンフィは情けなさと申し訳なさで顔を上げることができなかった。
「エンフィ、ああ、よく顔を見せて。二回目の式の時以来ね。あの時よりも痩せて……。疲れたでしょう?」
「お母さまったら、エンフィを早く休ませてあげないと」
「エンフィ、おかえり。セバスたちも、ご苦労だったね。娘を無事に連れて帰ってくれてありがとう」
「エンフィ、おかえり。さあ、まずはゆったり半身浴をしておいで。話はそれからにしよう」
期待していた愛する家族のぬくもりにふれ、エンフィは涙をぼろぼろこぼした。彼らに促されるがまま、ぬるめのお湯につかっていると、昨日の悲しい出来事が襲ってきた。しかし、それ以上に、家族や領地の人々の言葉と思いやりに満ちた瞳を思い出したのである。
人心地ついたあと、エンフィは家族が待っているサロンに向かった。そこには、セバスたちから詳しい事情を聞いて険しい顔をしている家族と、セバスの孫であり、実家にいるときにエンフィの執事をしていたドーハンの姿があった。
登場人物の欄ですが、離婚後に知り合ったと書いてありますが、途中から執事とのカップリングにしたのを、そこだけ修正し忘れておりました。申し訳ございません。12/3 修正済みです
「奥様、申し訳ございません。里芋生産とは直接かかわりのない、調味料を扱ううちら商店が栄えたのも、奥様が里芋をきっかけに、ざまざまなグッズや、滋養強壮を含めたレシピなどのおかげですのに。しかし、手をお貸ししたのが知られたら……」
ロイエたちは、エンフィを追い出すと同時に、各地に彼女の手助けをした地域の税率を20%まであげると通達をしたのだ。そんなことになれば、以前の寒さに凍え、飢えに苦しむ生活以上の悪い未来しかない。彼女たちを宿泊施設に泊まらせたことを、絶対に知られないようにしないといけない。
村人が一丸となって秘密を守ろうとしても、長居すればいずれどこかから情報は洩れる。
エンフィたちには、嘆き悲しんでいる時間がほとんどなかった。
「いいのよ。リスクを冒して、今まで匿ってくれてありがとう。一泊させていただいただけでもありがたいわ。そんなことよりも、これからあの人たちがここを守ってくれるといいのだけれど」
3年連れ添った妻であるエンフィを、イヤルは着替えどころか、一アルミすら持たせず追い出した。ロイエは、エンフィを汚染されたゴミを見るように睨みつけていたし、ルドメテに至っては、実力行使で文字通り追い出したのである。そんな彼らが、赤の他人である領民に対して、慈悲深く家族のように親身になって相談にのり実行するとは考えにくい。
「俺たちは、奥様に頼りっぱなしでした。新しい主人たちが、奥様ほど親身にここの発展に尽力してくださるとは思えません。これからは、自分たちの力もつけないといけないと話し合ったのです」
「そう……。領主に頼らず、自分たちで生きていく術を手に入れることはとても大切なことね。ほかの地域の人たちと、今まで以上に協力しあってね。最悪、故郷を離れて近くの村と合併することも視野に入れてください。イヤルたちが、あなたたちに更なる幸福をもたらすために頑張ってくれることを祈っています」
おそらく、この村だけではなく、領地全域の長たちは早急に今後の対応を考えて話し合いをしているだろう。この騒動をうまく乗り切らなければ、まだまだ魔法石が少ないこの地方で、今年も襲い来る冬を越えることは不可能になる。イヤルたちの領主たる意識や実力を信じるところも出てくるだろう。
まさに死活問題になる小さな集落では、なすすべもなく、集落全体が全滅になるという最悪の事態を想像し、エンフィはぞっと背筋が凍るようなほど身震いした。
ロイエの情報がない今、更に、これまでのエンフィの領民たちとの信頼関係が深ければ深いほど、彼女と同じように目をそむけたくなる予想をたてているのだろう。
「でも、もしも、もしもね、自分たちの手に負えないほど困ったことがあったら、わたしの実家に連絡を頂戴。実家に直接は難しいけれど、実家が提供させていただいている貨物ルートを使えば大丈夫だから。この領地とは無関係になってしまったわたしに、出来ることは少ないけれど……」
「奥様、いいえ、エンフィ様。そのお言葉だけで十分です。わしらは、3年前には考えられない程の生活をさせていただいてきました。これからは、わしらがエンフィ様を支えることが出来るよう邁進いたします」
夜半過ぎまで泣きくずれたエンフィたちは、こうして朝いちばんの列車に間に合うよう、まだ朝日が昇り始めた早朝に領地から旅立った。
彼らが少ない資金をかき集めてエンフィたちに渡してくれたこともあり、実家までつつがなく帰ることができたのである。
「……三年ぶりね」
「懐かしいですな」
「さあさ、エンフィ様。迎えが来ましたよ」
女性のほうが優位な立場であるこの国で、婚家を追い出された女性は恥以外の何物でもない。家族にすら受け入れてもらえない者もいる。
昨日からの度重なるショックが、エンフィの気持ちをマイナスのほうへひっぱる。
「お父さまがた、お母さま……。お姉さまも……。ごめんなさい、もう聞いていると思うのだけれど」
一生懸命、自分なりに頑張った結果が、誰一人として喜ばない結果となり、エンフィは情けなさと申し訳なさで顔を上げることができなかった。
「エンフィ、ああ、よく顔を見せて。二回目の式の時以来ね。あの時よりも痩せて……。疲れたでしょう?」
「お母さまったら、エンフィを早く休ませてあげないと」
「エンフィ、おかえり。セバスたちも、ご苦労だったね。娘を無事に連れて帰ってくれてありがとう」
「エンフィ、おかえり。さあ、まずはゆったり半身浴をしておいで。話はそれからにしよう」
期待していた愛する家族のぬくもりにふれ、エンフィは涙をぼろぼろこぼした。彼らに促されるがまま、ぬるめのお湯につかっていると、昨日の悲しい出来事が襲ってきた。しかし、それ以上に、家族や領地の人々の言葉と思いやりに満ちた瞳を思い出したのである。
人心地ついたあと、エンフィは家族が待っているサロンに向かった。そこには、セバスたちから詳しい事情を聞いて険しい顔をしている家族と、セバスの孫であり、実家にいるときにエンフィの執事をしていたドーハンの姿があった。
登場人物の欄ですが、離婚後に知り合ったと書いてありますが、途中から執事とのカップリングにしたのを、そこだけ修正し忘れておりました。申し訳ございません。12/3 修正済みです
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