完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
23 / 32

17.5 イヤル

しおりを挟む
「ま、まさか、まさか、まさかまさか。あり、えない。お前が、魔法使いだって? 嘘だ!」
「……」

 ロイエは、圧倒的な魔法使いとしての力の差を感じて、がくりと力を抜く。だが、ある事に気づき、現状を打破するための策謀を必死に考えた。

 イヤルが詐欺をしていたころの自分の顔を覚えているということは、その頃にはすでに魔法使いだったはずだ。

 地位も金も約束された魔法使い。ただし、身柄を国に管理される一生を送ることになる。有事の際には、一般人よりも過酷な仕事を余儀なくされる。そのために、報酬が良いと言っても過言ではない。
 
 ロイエは、くそ真面目に国のために働く気がない。ゆえに、無理やり魔塔に連れていかれてからの10年の奉公をし終えると、金だけ持って表社会から消えたのである。そこから先は、魔法を使いながら金がなくなるたびに詐欺をしていた。警備団に気づかれないように、住処を転々としながら。

 だが、基本的な鍛錬をしていなかったためか、年々魔力が廃れていった。魔法がなければ、この先食べるにもことを欠くのが明らかだ。これならば、大人しく魔法使いとして国の犬になっていればよかったという後悔と焦りを感じていたころ、イヤルという美味しすぎるカモが引っ掛かった。邪魔な妻がいるものの、これで一生安泰だと信じて疑わなかった。それからというもの、イヤルという隠れ蓑の下で好き放題してきたというわけだ。

 なぜ、イヤルが便利な魔法使いということを隠していたのかはわからない。真面目なこの男が、自分のような理由で、魔法使いであるということを隠していたわけではないだろう。ただ、このことが、イヤルにとってのウィークポイントであることは瞬時に把握した。

 把握したと同時に、ロイエはイヤルに見せつけるかのように体をくねらせて、すがるような視線を送った。なんだかんだで、男という生き物は、色香とともに保護欲を刺激させれば心が揺らぐ。その揺らぎという隙をつけば、魔法を使わなくとも自分になびかない男はいなかった。その過去の事実が、彼女の自信を取り戻させたのである。

「ねぇ、イヤル。あんた、私と出会う前から魔法使いだった。そうだね? そうでなきゃ、今の私のことはともかく、昔の私のことを記憶に刻み付けているはずがない。ねぇ、イヤルぅ。取引しようじゃないか」
「取引?」
「ああ、私があんたが数年前から魔法使いだったことを告白したら、あんたはどうなる? 下手すりゃ私らなんかよりも、もっとひどい処罰を受けるだろうね。そうなれば、事業やこの領地は、あっという間に死屍累々の貧乏領に逆戻りさ。あんただって、罪もない領民をそんな目に合わせたくないだろうし、臭い飯なんて食べたくないだろう? だからさ、あんた、私と手を組まないかい? 警備団に捕まった無能たちは、もう必要ない。魔法使いであるあんたひとりがいれば、あいつらの1000人よりも十分だからねぇ。そうすりゃ、あんたが魔法使いだってことを国に黙っててやるよ」

 勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる彼女は、とても無様にベッドにしばりつけられているようには見えない。それほど、彼女の提案は、イヤルにとって魅力的であり、断るはずがないと確信していた。見た目は平然としているが、内心はびくびく小動物のように恐怖に震え狼狽えているにちがいない、と。

 その彼女の言葉は、思惑とは裏腹に、イヤルの心に一ミリたりとも響かない。イヤルは目を細めてその提案の返事をした。

「浅い悪知恵は、頭の回転を良くして舌の動きを滑らかにするようだな。残念ながら、オレが魔法使いだったこと、数年国に隠していたことは警備団を通じて王都に報告済みだ。罪を償う覚悟は、お前たちよりも出来ている」

 ロイエは、生真面目で面白くないと思っていた男の、生真面目すぎるお利口な返答に、あごが外れんばかりに驚いた。誰だって、自分の保身のためなら取り繕うくらいはする。だというのに、馬鹿正直に自ら罪を犯したと名乗り出る愚か者がいようとは。あまりのことにあきれ返った。これまで、彼女の周りにはそんな人物はひとりもいなかった。

「なんだって? バカか、お前。お前が捕まるのはいい。だがねぇ、私まで巻き込まなくてもいいだろう? お前だけ、さっさと捕まっちまえば良かっただろうが!」
「お前ほどじゃないさ。あと、戯言もたいがいにしろ。オレがお前を逃がす理由など、全くない。ほどなく、警備団がここに来るだろう」

 ロイエは、自分が犯した罪により科せられる刑罰を知っていた。ここで捕まれば、魔法使いの自分は一般人のルドメテや部下たちよりも重い、第一級犯罪者として永遠の牢獄に入れられるだろう。そんな未来はごめんだとばかりに、イヤルを口汚くののしりながら必死に逃げようともがく。

「い、いやだ、いやだ! 捕まりたくない! この大馬鹿野郎。さっさとお前なんか始末しとけばよかった! ルドメテのバカが、お前にもう少し稼いでもらおうだなんていわなければ、とっくに墓の下だったくせに。ほどけよ、畜生!」
「ロイエ、書類上とはいえ俺たちは夫婦になったんだ。夫婦らしく、一緒に仲良く捕まろうじゃないか」
「いやだっつってんだろおおおお!」

 その時、乱暴に開けられたドアから警備団が忙しなく入ってきた。屋敷中に轟くような喧噪の中、まるで男のような言葉にならない絶叫が、ひときわ高く長く響き渡ったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

処理中です...