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2 悪あがき
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「くそ、なんだって私がこんな目に……。これも、あいつらのせいだ。今に見てろ、この力でルドメテたちと一緒にこの辺り一帯を征服してやる。そうしたら、まずはイヤルとあの女の領地を占領して……。ふふふ、あははは、あいつら、死んだほうがマシだと思うだろうね」
ロイエは、魔塔から出た際に自分を連行していた騎士たちの侍従を操った。騎士たちは、あいにく高価な守護のアイテムがつけられており、魔法をかけようにもできなかったのである。
まさか、ロイエが何の力もない、操ったとしても益のない騎士たちの世話係に目をつけるとは思ってもなかったのだろう。だが、これがひとりやふたりならともかく、交代でやってくる騎士や貴族たちの面子は少ないとはいえ、彼らに付き従う、替えの利く侍従である少年たちは多数。
彼女の魔法にかかった彼らが、ロイエが操るがまま連携をして彼女の逃亡に手を貸した。事の真相がわかったのは、ロイエが逃亡して2週間が経過したころ。侍従たちが次々に催眠から解かれたことにより発覚したのである。
ロイエの魔法は、実に弱い。効果を高めるために、時間をかけてゆっくり行う必要がある。そうして長期間におよび分散された魔法は彼らの潜在意識のほんの一部に張り付いているために気づかれにくい。魔塔にいれば、そんな彼女の微細な魔法もすべてはねのけることができたのだが、後の祭り。
結局、貴族たちの欲が絡んだ彼女の移動が、さらなる危機と混乱を招いた。この件で、彼女を魔塔から出させた貴族たちは罰せられた。
貴族たちの尻ぬぐいのような捕り物劇は、魔塔の怒りと小賢しいともいえる彼女の魔法の使い方による可能性への興味を抱かせた。貴族たちから徴収した罰金のほとんどは、魔塔や彼女を捉えた魔法使いに分配されることになったことから、彼女を捕らえて研究しようという魔法使いたちが意気揚々と荒地に向かう。
2週間かけてやっと荒地にたどり着いたロイエは、とっくに荒地で目を輝かせながら彼女の到着をまつ魔法使いが待ち受けていることなど知らない。
自分をこんな目に合わせたイヤルやエンフィ、そして魔塔の魔法使いたちへの報復という怒りにまかせて、荒地で作業をしているルドメテに声をかけた。
「ルドメテ……! ああ、無事だったのね、会いたかったわ」
「ロイエ、なのか? どうやってここに?」
「私にかかれば、あんな場所から逃げるなんて造作もないこと。ふふふ、また一からの出発だけど、私についてきてくれるわよね?」
ロイエは、自分にほれ込んでいる男にするりと胸を寄せる。万一に備えて、ルドメテの精神に干渉する魔法を添えて。
これで、この男は前よりも自分に傾倒し、命を差し出す勢いで働くだろう。
「他の皆は? 私が来たからには安心して。ここを占領して、私たちをひどい目に合わせたこの国に報復しようじゃない」
「……」
ところが、二つ返事で頷くかと思われたルドメテの様子がおかしい。うっとりと熱を帯びて見つめてきた瞳は、うんざりというのがふさわしいほど冷めている。即座に抱きしめてきたたくましい腕はだらんと肩からぶらさがったまま動かない。それどころか、ロイエが近づくほどに足を後に移動するではないか。
「ロイエ、悪いが、僕は、年上の熟女くらいまでならともかく、通り越したおばあさんには興味がない。近寄らないでくれ」
「なんだって? あんた、私をばばあ扱いするのか! 失礼な男だね、まだ35だし! ねぇ、イヤルたちのせいで捕まっちまってから、私と離れ離れですねちまったのかい?」
「は? 拗ねるもなにも、僕はお前とは割り切った関係だっただろ? しかしまあ、当時も若作りをしるなとは思っていたけど、30くらいだったとはね。それに、鏡見てみろ。どっからどう見ても、介護が必要なおばあさんじゃないか。もう悪さはやめて、大人しくリハビリしてろよ」
ルドメテが、真剣に弱弱しいお年寄りを扱うかのように、彼女への気持ち悪さと憐れみのこもった視線をなげつけてくる。ロイエは、慌てて側にあった水たまりを覗き込んだ。
そこには、高価な化粧やエステで整えられていた、男を魅了し続けていた美貌のひとかけらもなかった。それどころか、顔のいたるところの肉が浮腫み、垂れ、水分も脂分も抜けきったしわくちゃの高齢者がいる。
「は? え? うそ、うそだ、うそだうそだうそだうそだうそだー!」
ロイエは、仮面をはぎ取れば以前のような美しい顔が出てくると言わんばかりに、顔をかきむしりながら絶叫した。ルドメテは、地に伏して叫び続ける老婆をいたわるように、背の丸まった彼女の肩に手を置く。
「魔法使いさんたち、ロイエはこの通り捕まえたぜ。約束通り、報奨金をくれ。あと、国に僕の減刑を打診してくれよな」
ルドメテがそう言うと、どこからともなく魔法使いたちが現れ、彼らをぐるりと囲む。その中には、領地から荒地に瞬間移動していたイヤルの姿もあった。
「な、イヤル。お前、お前、おまえらがよけいなことをしなければああああ! なにが、えいゆうだ! まぬけなひきょうものめええええ!」
「聞くに堪えないな。逆恨みも甚だしい。ロイエ、あのまま大人しく刑期を全うしておけば良かったのに。もう二度と社会に戻れると思うな」
一瞬で我に返ったロイエが、なんとか逃れようと魔法を唱えようとした。だが、イヤルの動きのほうが早い。あっという間に呪文を封じられロイエは捕まった。
その顔は、まるで腹をすかせた山に住むという老婆の化け物のようであったという。
ロイエは、魔塔から出た際に自分を連行していた騎士たちの侍従を操った。騎士たちは、あいにく高価な守護のアイテムがつけられており、魔法をかけようにもできなかったのである。
まさか、ロイエが何の力もない、操ったとしても益のない騎士たちの世話係に目をつけるとは思ってもなかったのだろう。だが、これがひとりやふたりならともかく、交代でやってくる騎士や貴族たちの面子は少ないとはいえ、彼らに付き従う、替えの利く侍従である少年たちは多数。
彼女の魔法にかかった彼らが、ロイエが操るがまま連携をして彼女の逃亡に手を貸した。事の真相がわかったのは、ロイエが逃亡して2週間が経過したころ。侍従たちが次々に催眠から解かれたことにより発覚したのである。
ロイエの魔法は、実に弱い。効果を高めるために、時間をかけてゆっくり行う必要がある。そうして長期間におよび分散された魔法は彼らの潜在意識のほんの一部に張り付いているために気づかれにくい。魔塔にいれば、そんな彼女の微細な魔法もすべてはねのけることができたのだが、後の祭り。
結局、貴族たちの欲が絡んだ彼女の移動が、さらなる危機と混乱を招いた。この件で、彼女を魔塔から出させた貴族たちは罰せられた。
貴族たちの尻ぬぐいのような捕り物劇は、魔塔の怒りと小賢しいともいえる彼女の魔法の使い方による可能性への興味を抱かせた。貴族たちから徴収した罰金のほとんどは、魔塔や彼女を捉えた魔法使いに分配されることになったことから、彼女を捕らえて研究しようという魔法使いたちが意気揚々と荒地に向かう。
2週間かけてやっと荒地にたどり着いたロイエは、とっくに荒地で目を輝かせながら彼女の到着をまつ魔法使いが待ち受けていることなど知らない。
自分をこんな目に合わせたイヤルやエンフィ、そして魔塔の魔法使いたちへの報復という怒りにまかせて、荒地で作業をしているルドメテに声をかけた。
「ルドメテ……! ああ、無事だったのね、会いたかったわ」
「ロイエ、なのか? どうやってここに?」
「私にかかれば、あんな場所から逃げるなんて造作もないこと。ふふふ、また一からの出発だけど、私についてきてくれるわよね?」
ロイエは、自分にほれ込んでいる男にするりと胸を寄せる。万一に備えて、ルドメテの精神に干渉する魔法を添えて。
これで、この男は前よりも自分に傾倒し、命を差し出す勢いで働くだろう。
「他の皆は? 私が来たからには安心して。ここを占領して、私たちをひどい目に合わせたこの国に報復しようじゃない」
「……」
ところが、二つ返事で頷くかと思われたルドメテの様子がおかしい。うっとりと熱を帯びて見つめてきた瞳は、うんざりというのがふさわしいほど冷めている。即座に抱きしめてきたたくましい腕はだらんと肩からぶらさがったまま動かない。それどころか、ロイエが近づくほどに足を後に移動するではないか。
「ロイエ、悪いが、僕は、年上の熟女くらいまでならともかく、通り越したおばあさんには興味がない。近寄らないでくれ」
「なんだって? あんた、私をばばあ扱いするのか! 失礼な男だね、まだ35だし! ねぇ、イヤルたちのせいで捕まっちまってから、私と離れ離れですねちまったのかい?」
「は? 拗ねるもなにも、僕はお前とは割り切った関係だっただろ? しかしまあ、当時も若作りをしるなとは思っていたけど、30くらいだったとはね。それに、鏡見てみろ。どっからどう見ても、介護が必要なおばあさんじゃないか。もう悪さはやめて、大人しくリハビリしてろよ」
ルドメテが、真剣に弱弱しいお年寄りを扱うかのように、彼女への気持ち悪さと憐れみのこもった視線をなげつけてくる。ロイエは、慌てて側にあった水たまりを覗き込んだ。
そこには、高価な化粧やエステで整えられていた、男を魅了し続けていた美貌のひとかけらもなかった。それどころか、顔のいたるところの肉が浮腫み、垂れ、水分も脂分も抜けきったしわくちゃの高齢者がいる。
「は? え? うそ、うそだ、うそだうそだうそだうそだうそだー!」
ロイエは、仮面をはぎ取れば以前のような美しい顔が出てくると言わんばかりに、顔をかきむしりながら絶叫した。ルドメテは、地に伏して叫び続ける老婆をいたわるように、背の丸まった彼女の肩に手を置く。
「魔法使いさんたち、ロイエはこの通り捕まえたぜ。約束通り、報奨金をくれ。あと、国に僕の減刑を打診してくれよな」
ルドメテがそう言うと、どこからともなく魔法使いたちが現れ、彼らをぐるりと囲む。その中には、領地から荒地に瞬間移動していたイヤルの姿もあった。
「な、イヤル。お前、お前、おまえらがよけいなことをしなければああああ! なにが、えいゆうだ! まぬけなひきょうものめええええ!」
「聞くに堪えないな。逆恨みも甚だしい。ロイエ、あのまま大人しく刑期を全うしておけば良かったのに。もう二度と社会に戻れると思うな」
一瞬で我に返ったロイエが、なんとか逃れようと魔法を唱えようとした。だが、イヤルの動きのほうが早い。あっという間に呪文を封じられロイエは捕まった。
その顔は、まるで腹をすかせた山に住むという老婆の化け物のようであったという。
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