サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

文字の大きさ
3 / 72
第1部 夏

第2話 怒られる人間でありたい。

しおりを挟む

「え……?」

 俺は小浦の言葉に、分かりやすく戸惑ってしまう。確かに俺から声をかけたりはしなかったが、別に避けている訳ではない。
 ただ……気まずいんだ。何度も告白して何度も撃沈した俺が、今更どんな会話を持ち掛ければいいのか、どんな顔して話しかけていいのか……分からない。
 
 ただ、それだけだったんだ。

「なんでそう思うんだ……?」
質問に質問で返すのが、今の俺の限界だった。

「だって……去年と違って、せっかく同じクラスになったのに全然話しかけてこないし、目が合ってもすぐに逸らしちゃうし……」

 それはお前に振られたからだよ。なんて言えるはずもなく、何か上手い返しはないか考えた。

「それって、もっと俺と話したかったってこと?  やっと俺の魅力に気付いて惚れなおしたとか?」
考えるだけ無駄だった。茶化すような言葉が、思考よりも先に口から溢れ出てしまう。

「はぁ……最初っから惚れてないから……」
小浦は深いため息とともに立ち上がった。

 俺の前まで来ると、腰に手を当てる。
「あたしは、青嶋くんと友達でいたいって言ったの。他人になりたいなんて、言ってない……」

 その寂しそうな憂いを含んだ表情に、俺は胸がギュウっと締め付けられるような……そう、告白して振られた時と似たような感覚を再び、いや……四度味わった。

「そんなつもりはなくて。小浦が迷惑かなって思って、俺からは控えてたっていうか……」

「青嶋くんっていっつもそうだよね。初めて告白してくれた日だって、あたしはまだ言いたい事あったのに走ってどっか行っちゃうし、2回目だって……3回目もすぐに電話切っちゃうし……そうやって自分の中だけで全部勝手に終わらせないでよ!」

 怒っている小浦を、初めて見た。

 ――なぜ俺は今、怒られているのだろうか。そして、怒った顔も本当に可愛い。

「仕方ないだろ、俺だっていっぱいいっぱいだったんだよ!  3回とも心臓が破裂するんじゃないかってくらい緊張したし……断られた時は、毎回人生の終わりみたいな気持ちになるんだ!」

「告白した側だけが辛いなんて思わないでよ!  あたしだって断るのは胸が痛かったし、これから青嶋くんとどんな顔して学校で話せばいいか、色々考えたんだから!」

 小浦の真剣な表情と言葉は、俺の過去をえぐるように、癒えかけていた古傷を呼び覚ました。

「ならもういいだろ。俺は小浦を避けてる訳じゃない。俺だって、どう接していいか分からないだけだよ」

「じゃあ去年みたいに普通にしてよ」

「……そう簡単に言うなよ」
それが出来たら、苦労はしない。俺だって、出来ることならそうしたい。でも、どうしても思い出しちゃうんだよ。

「青嶋くんからが無理なら、それならあたしから話しかけるから、その時は今まで通りに接してよ……」
小浦の瞳は少し潤んでいた。こんな瞳に見つめらたら、男であればどんな願いでも聞いてしまうだろうと思った。

「ど、努力するよ……」

 俺の返事を聞くと、小浦は自分の席までトコトコと戻っていき着席した。

 
「な、なんだったんだ……」
その帰り道、小浦の怒った顔がしばらく頭から離れなかった。

 俺は自転車を走らせながら、久しぶりに2人きりで話せた内容が喧嘩みたいになってしまったことを後悔しつつ、これからは前みたいに普通に話せるよう頑張ろうと思った。

 
 俺の高校は県内の中心部に位置していて、家から車でも30分以上はかかる距離だ。だから通学では電車を使って最寄駅まで移動し、そこからは駅の駐輪場に停めてある自転車で学校まで通っている。最寄駅から自転車を全力で走らせても20分以上かかるのが、車社会の田舎ならではの悩みだ。

 でも田舎生まれの俺にとって、県内では1番栄えた市街地を眺めながら自転車を走らせる時間は嫌いではなかった。

 俺は駅方向へと向かっていたが、途中でそれとは逆方向にハンドルを切る。寄り道をしたかった訳ではなく、今日はアルバイトの日だったからだ。

 アルバイト先の『焼き鳥  たまだ』に到着すると、裏に回り隅の方へ自転車を止める。
 このお店は60年の歴史ある焼鳥屋さんで、いわゆる老舗だ。4階建てのビルになっており、4階は店主ご夫妻のご自宅で、3階は社員寮、2階は昔使われていた客席だったが現在は物置きになっている。

 俺はいつものように裏口から入り、従業員通路から厨房へと向かった。
「おはようございます」

「青嶋君、おはよう」
この人はパートの『矢守やもり』さん。ポッチャリとした体型で、いつも笑顔の優しさ溢れるおばさまだ。意外と流行りの歌手に詳しかったりする。

「青嶋、ちょっと手伝ってくれ」
と、店舗客席前の焼き場より、俺がいる裏の厨房が見える小窓から顔を覗かせているのが、この店の2代目社長。年齢は60歳で、大のギャンブル好き。奥さんのいないところでよくボソッと、昔のヤンチャ話や女性関係の話を聞かされる。

 俺がこの店で働くきっかけになったのが、何を隠そうあの失恋なのだ。高校1年の冬、小浦を諦めた俺は、何もせず家にいるのが苦痛で仕方がなかった。なにか気が紛れる方法はないかと考え、アルバイト雑誌をめくり、この店に電話をかけたのだった。

「お前は本当になんでも器用にこなしちまう奴だな」

 社長は新しく導入したビールサーバーの洗浄を手伝った俺に笑顔を向けた。社長はよくこうして褒めてくれる。それが嬉しくて、最近ではこの仕事にやりがいすら感じられるようになった。

「しぃ、今日から新しい子が入るからね」
客席で新聞を読んでいた奥さんが、眼鏡を外して声をかける。『しぃ』とは、奥さんだけが呼ぶ俺のあだ名だ。その由来は、シフトに名前を書く際、青嶋という名字が2人いるらしく区別する為に『青嶋し』と書いた事から、段々と『し』のみが書かれるようになり、今では呼び方まで『しぃ』となったのだ。

「はい!  何歳くらいの人なんですか?」

「確かしぃと同じ高校で歳も一緒くらいだったよ」

 俺は誰だろうと思いながら、厨房に戻ってサラダの仕込みをしていると、裏口の扉が開いた。

「おはようございます」

 そう言って入ってきた人に見覚えがある……どころの騒ぎではなかった。それは、俺の高校で小浦と並ぶ美女と噂高い、『後藤  姫華ごとうひめか』だったのだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...