サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

文字の大きさ
6 / 72
第1部 夏

第5話 2人の証明写真。

しおりを挟む


「そ、それは、バイト先で俺がそう呼ばれてるだけで……」

「あだ名で呼び合うくらい仲良くなってたのに、あたしには黙ってたんだ。だからあたしのこと避けてたんだ……」
舞は悲しげな表情を浮かべ俯いた。

「言わなかったのは悪いと思ってるけど、本当に彼とは何もないから!」

「つうか、俺と後藤さんが同じバイト先だったことをなんで小浦に責められなきゃいけないんだよ」

「あなたは黙ってて!!」
姫華が将に怒鳴り声を上げる。

「えぇ……!?」

 驚く将には目もくれず姫華は舞を宥める。
「舞、信じて?  私はあなたを裏切ったりしていないわ」

「ホント……?」

「絶対に嘘じゃない。これ以上疑うのなら、私のほうが怒るわよ?」

「分かった……」

 
 小浦はなんとか落ち着いたようだった。なら俺は怒られ損だったのでは?  とも思ったが、まぁ良かった。

「ねぇ青嶋くん……」

「なんだよ……」

「そのバイト先、まだアルバイト募集してる?」

「してると思うけど、なんで?」

「2人にやましいことがないなら、あたしが入っても問題ないよね?」

「そ、それは……」
気まずいにも程がある……でもここでもし断ったら……。

「なに?  やっぱりダメなの?」

「別に問題ないわよね、青嶋君?」

 学園のアイドル2人から向けられた視線に、俺が「NO」と言える筈なかった。


 翌日――つまり夏休み初日、俺は休日だったのにも関わらず、半ば強引に小浦の面接に付き添いとして付き合わされる事になり、駅で待ち合わせをしていた。

 ただの付き添いとはいえ、学校以外の場所で2人きりで会うのは、約1年ぶりだった。

「お待たせー!」

「おぅ」

「そこは『待ってないよ』とか、『俺も今来たとこ』じゃないの?」

「30分くらい待ったわ」

「ごめんね……?」

 素っ気ない態度を繕う俺だったが、この時の内心は「私服の小浦マジ天使、抱きつきたい……」だった。

「履歴書、用意してきたか?」
 
「うん。履歴書って書くの初めてだったから、めっちゃ緊張したよー。でも証明写真まだ撮ってないから、ここで撮ってきちゃってもいい?」

 俺たちは駅の構内にある、証明写真機まで向かった。小浦が中に入ると、すぐに中から声が聞こえてくる。

「青嶋くーん、これどうやるか分かんないからちょっと入ってきてよ!」

「女子ってプリクラとかでそういうの慣れてるんじゃねーの?」

「だってプリクラと全然違うんだもん!」

「仕方ねーなぁ……」

 俺が中に顔を入れると、思ったよりも近くに小浦が居て、慌てて目を逸らした。

「どの設定にすればいいの?」

「横からだと画面が見えにくいな……」

「入ってくればいいじゃん」

「どこにそんなスペースがあんだよ」
わざわざ見渡すまでもなく、空いているスペースはない。そりゃそうだ、プリクラと違って1人で撮る用に作られているのだから。

「ここ!」
小浦は自分の膝の上を両手で叩いた。真っ白な背景も相まって、彼女の顔が赤くなっているのがよく分かる。

「ばっ、バカお前、なに言ってんの?」

「だって……今の青嶋くんを外から見たら、証明写真撮ってる人に絡んでる人みたいに見えるよきっと……!」

「だからって、それは恥ずかし過ぎるだろ……」

「遠慮しないでいいから!  早くしないと面接に遅刻しちゃうじゃん!」

 俺の手を強く引く小浦に、まんまと膝の上に座らされてしまった。

 小浦の表情が見えなかったから、俺の心臓の鼓動が聞こえていないか心配だった。太ももの裏から感じられる彼女の感触は、お笑い番組で高く積まれたあの座布団よりも、よほど価値があると感じざるを得なかった。

「お、重くないか……?」

「うん、大丈夫……」

 俺はさっさと設定を済ませようと、液晶を操作すると、背後から音を立ててグリーンバックのカーテンが降りてくる。

「うぉっ……!」

「えっ……!」

 驚いて振り返ると、真っ赤になっていた小浦の顔と至近距離で目が合う。
 
 ――まるで、時間が止まったみたいだった……。

 彼女と知り合ってから、こんなにも近くで見つめ合ったことなんてない。その瞳には驚いた自分の顔が映り、そのまつ毛は長くて綺麗なカールをしていて、唇には艶があってふっくらとしている。このままずっと……見ていたいと思った。

 その幻想を打ち破るかのように、突如としてカウントダウンが始まる。

「あ、ヤバ!  早く出ないと……」

 だが時すでに遅し――俺のアホ面と、驚いた小浦のツーショットが液晶に表示された。

 
 結局この後、もう一度撮り直して、2回分お金が掛かってしまった。証明写真は意外と安くはないのだ。

「ごめん小浦、1回目の金は俺が払うよ」

「ううん、いいの。これも思い出だから、あたしが貰っちゃうね?」

「どうすんだよそんな写真」

「履歴書に貼っちゃおっかな……?」
横から将を覗き込み、おちょくったような笑みを向ける舞。

「俺がここまで来た苦労を無駄にする気かよ?」

「嘘だよ……そんなもったいないことしない……」
舞は証明写真を大事そうに胸に抱えて、将には聞こえない声量で呟いた。

「え?  なんて?」

「あの時エッチなこと考えてた青嶋くんをゆするネタにするって言ったの!」

「なっ……そんなこと考えてねーよ!!」

「ホントにぃー?」
まるで子供相手に語りかけるような小浦に、俺はこいつには一生敵わないと思わされた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...