サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

文字の大きさ
20 / 72
第1部 夏

第16話 バニーガール。

しおりを挟む

 いろいろと慌ただしかった夏休みも終わりが近付き、重い気持ちでアルバイトに臨んでいた俺はこの日、ミスを連発してしまった。社長は「そんなこともある」「気にするな」などと言ってくれたけれど、優しくされると余計に沈んでしまっていた。

 帰宅しようと着替えて外へ出ると、月がいつもより明るく感じた。ため息を溢しながら自転車の鍵を取り出すと、この日シフトが被っていた後藤さんに呼び止められた。
 
「青嶋君、話があるのだけど……」

「どうしたんだ?  そんな改まって」

「実は……」
明らかにいつもと雰囲気が違った。月明かりに照らされている彼女の顔は、うっすらと赤くなって、俺とは目を合わせずに両の手をもじもじと握り合わせていた。
「私の……彼氏になってほしいの……」


 ――姫華が出勤する2時間前のこと。

 家でアルバイトの準備を早めに終えた彼女は、自室で飼っているハムスターに餌をあげていた。すると玄関の扉の開く音が聞こえる。姫華は母親と二人暮らしで、まだ母の帰宅時間ではなかった為、不審に思い様子を見に行った。

 そこには玄関に座り、膝下丈の黒いブーツを脱いでいる、少し癖のある長い黒髪の女性がいた。その女性は肩を露出した白のトップスに黒のミニスカートという服装で、男子ウケしそうな大人の色気を漂わせている。
「あ、姫華いたんだ。ただいまー」

「ね、姉さん、急にどうしたの?」
姫華から姉さんと呼ばれているこの女性の名は、『後藤 風香ごとうふうか』。今年で21歳になる姫華の実の姉である。現在は自立して一人暮らしをしており、家族とは離れて暮らしている。

「偶然近くを通ったから……今日めっちゃ暑いし少し涼もうと思ってさー」

「そ、そう……」

「姫華は、最近どう?」

「別に、変わらないわ」

「彼氏、まだできないの?」

「何よいきなり……」
姫華は姉と会うたびに聞かれるこの質問が嫌いだった。

「あんた、男っ気全くないから姉として心配してんのよ。いい加減、彼氏の1人や2人くらい紹介してもらわないと」

「そんなこと、どうでもいいじゃない……」

「よくないわよ。男で失敗して、それで母さんがどれだけ苦労してきたと思ってんの?  あんたには同じ失敗して欲しくないから、今の内からちゃんと恋愛しろって言ってんの」
風香の顔が少し険しくなり、徐々に声量を上げて返した。

 腹を立てた姫華も反論し、いつもの姉妹喧嘩に発展してしまう。
「いつもいつも、子供扱いしないで。私はもう、自分の事は自分でどうにか出来るわ」

「へぇ、ろくに恋もしたことないガキが生意気言うじゃん」

「彼氏くらい……いるわよ」

「ええ、そうなの?  どんな人?  良かったねぇ姫華!」
風香の顔は嘘のように解れ、自分の事のように喜び、そして祝った。

「お、同じバイト先の人……」
引くに引けなくなった姫華は嘘に嘘を重ねる。

「じゃあ今日その人に会わせなさい。まともな奴かどうか確かめないと」


 ――そして現在、たまだの前。
 
「――ということがあったの……」

「経緯は分かったけど、なんで咄嗟に出た名前が俺だったんだ?」

「私と親しい男の友人は、青嶋君だけだから……」

 正直、飛び上がりそうなほど嬉しかった。さっきまで落ち込んでいた事など、もう俺の頭からは抜けていた。
「そういうことなら……」

「じゃ、じゃあ彼氏のフリ、お願いしてもいい?」

「後藤さんの姉さんにも会ってみたいし、俺で良ければ喜んで」

「ありがとう。もうすぐ姉がここに車で迎えにくるはずだから……」


 5分ほどして、軽自動車が路肩に停車した。
 
「き、来たみたい」

 車に近付き窓から車内を覗いて挨拶をしようとしたが、俺は言葉を失う。なぜならその車を運転していたのが、バニーガールの恰好をしたエッチなお姉さんだったからだ。一番に目がいったのは、本当に姉妹かと思ってしまうほど、大きくてご立派な胸部だった。

 車窓が開くと、後藤さんは声を荒げた。
「ね、姉さん、なんなのその恰好は!」

「ごめんごめん、早く会いたくて仕事終わってそのまま来ちゃった。……君が青嶋君?」
風香さんは視線を俺へ移す。

「は、はじめまして。よろしくお願いします」

「姫華~、あんたこーゆーのがタイプだったんだぁ」

「そ、そうよ、悪い?  会わせたんだからもういいでしょ?」

「ダメ。2人とも、後ろ乗って?」

「無理言わないで。青嶋君には終電が……」

「私がちゃんと家まで送ってあげるから」

 
 風香さんに言われるがまま、俺たちは車に揺られていた。どこへ向かっているのかは知らないが、移動中の会話でこの人の素性が分かってきた。昼はOL、夜はバニーガールのコスプレをした女性が接客してくれるガールズバーで働いているらしい。見かけによらず働き者のお姉さんだった。

「青嶋君も大人になったらウチのお店来てね?」

「は、はい……」

「ハハハ、そこは断りなよ、彼女の前なんだからさぁ」

「そ、そうですよね~。ごめん後藤さん」

「い、いえ、いいのよ青嶋君」
俺たちはよそよそしくも恋人のフリをしていた。 

「君たち、まだ苗字で呼び合ってるの?」

「ふ、二人の時はちゃんと愛称で呼んでるわよ?」

「へえ~、なんて?」

「しぃって……」
嘘はついていない。この呼び名が、意外にもこんなところで役に立った。

「じゃあ青嶋君は?」

「ひ、姫って呼んでます」
小浦が……。

「そっかそっか。青春だね~」

「ところで、これどこに向かってるんですか?」

「私こんな格好だから行けるとこ限られてるけど、いいとこだから楽しみにしてて」


 次に車が留まったその場所は、山の上にある展望台だった。車を降りるとキラキラと揺らめく夜景が綺麗で、満点の星空までくっきりと見えた。

「ここからの景色、いいでしょ?」

「はい……圧巻です」

「姫華、ちょっと向こうの自販機で全員分の飲み物買ってきて」
風香さんは後藤さんに千円札を手渡した。

「それなら俺が……」
と、名乗り出たが「いいから」とあっさり取り下げられてしまった。

 後藤さんの姿が見えなくなると、風香さんは俺と向かい合って、見透かしているかのような視線を送った。

「姫華と、本当は付き合ってないんでしょ?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...