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第2部 新学期
第34話 サンスクミ。
しおりを挟む「大事な、はなし……?」
「そ、そうだな……」
「わ、分かった……」
「ここは人が多いし、西口のベンチに行かないか?」
「青嶋くんに、お任せします……」
舞から無意識に出た敬語を、将は少しだけ不思議に思った。
場所を移すと、まだ19時なのに、外は夜更けのように暗く深い。
「色々気を回してくれてありがとな。小浦のおかげで後藤さんと仲直り出来たよ」
「そっか、良かったね……」
「なんか元気なくないか? 眠いのか……?」
「ううん。緊張してるだけ……」
「何で緊張してんの?」
「いいから、早く本題を言ってよ……」
「それなんだけどさ、俺分かっちゃったんだ。小浦の好きな人……」
「…………そっか、バレちゃったんだ……」
「修学旅行を一緒に過ごして、色々と分かったんだ……」
「どう思った……?」
「まぁ、なんと言うか複雑だけど、嬉しいのは確かかな……。どんな理由なのかは分からないけど、好きになっちまったのは仕方のないことだと思うし……」
「そっか……そうだよね……」
「どこが良かったんだ……?」
「ちょっと青嶋くん、それを聞くのは性格悪くないっ!?」
「そ、そうか? 参考までにと思ったんだけど……」
「そうだよ。そういうのはまずそっちから言ってくれるものじゃないの?」
「それもそうだな。実は俺――」
舞は、将から4度目の告白をされるのだと信じて疑わなかった。やっと想いが通じたのだと、心が激しくバウンドするのを必死に抑える。彼女は何度もこの瞬間を頭の中でシュミレーションしてはいたが、いざ本当に訪れると、その妄想は全く役に立たず、グッと目を瞑って待ち構えていた。
「後藤さんのこと、好きになったみたいなんだ……」
「ぇ」
期待が大きかった分だけに、将から告げられた思ってもいない告白は、舞の心と脳裏に静かな稲妻を走らせた。ライトアップされた木々とモニュメント、花壇に植えられた花々、普段ならば美しいと思える景色が、今の彼女の目にはモノクロに映る。そんなことを知る由もない将は、無情にも今回の告白に至った経緯を続けた。
「小浦は、俺が3回も告白した相手だから……その親友を好きになってしまったって事を、ケジメとして伝えなくちゃって思ったんだ。それに一昨日にも、好きな人が出来たらすぐに教えるって約束したばっかりだから。今日それにハッキリ気付いたんだ、嘘はついてない……」
まるで裁判で有罪判決を言い渡された被告人かのような表情の舞は、せめてもの反論を振り絞る。
「でも、さっきあたしの好きな人が分かったって言ったじゃん……」
「だから竜のことだろ? あいつ彼女いるからいろいろ難しいかもしれないけど、約束通り俺は小浦を応援するから……」
「そっか……そうなっちゃったんだ……」
舞の頭の中では、まるで時間が止まったように、様々な想いが交差していた。
(……なんでこうなっちゃったんだろう。どこで道を間違えちゃったのかな。そっか、あたしは……自惚れてたんだ。3回も告白してくれた相手だから、積極的にアピールすればまた好きになって貰えるって、また告白して貰えるって、いつまでも受け身で……。こんなことなら、変なプライドなんか捨てて、愛里那ちゃんみたく無理やりにでも押し倒してればよかったのかな……ううん、違うよね。それが自惚れなんだよ……。青嶋くんはきっと、付き合ってもない子とそんなことしないし、そもそもそんな子を好きにはならない。あたしは最初っから全部、間違ってたんだ。全部あたしが青嶋くんに言ったことなのに、今は嘘をついて欲しかったって思ってる。なんでそんなこと馬鹿正直にあたしに言うの? ……そうだよね、それはあたしが言わせたんだ。だって、仕方ないじゃん、だって、だって……)
「小浦、小浦! どうしたんだよ!」
「青嶋くん……」
顔をうずめていた舞の声だけで、彼女が泣いているのが分かった。それでも将の厄介な勘違いは、彼女の本心を見抜くことを阻んでいた。
「泣いてるのか……? そりゃ彼女いる奴のこと好きになっちまったら、辛いよな……」
(違うよ青嶋くん……あたしが好きなのは、ずっと青嶋くんだよ。世界で、一番好き。でも同じくらい、姫のことも好きなの……だから、この気持ちをどこにぶつけていいか分かんなくて泣いてるんだよ……)
「俺に出来ることならなんでも協力するから。いつも小浦には世話になってるし、恩返しがしたいんだ」
(じゃあ、あたしと付き合ってよ……)
「小浦、大丈夫か……? なんか温かいものとか飲むか?」
(大丈夫なわけないじゃんバカ……)
「ココア……」
「こ、ココアだな。すぐ買ってくるから!」
将の姿が見えなくなると、舞は立ち上がる。悪いとは思ったが今はこれ以上、彼と顔を合わせているのが耐えられなかった。誰かに話したい。そうしないと自分を保っていられそうにない。だが当事者の親友にこんなことを話せる訳がない。物陰に隠れると、藁にもすがる思いで電話をかけた。
「もしもし、舞どうしたの? そっちは修学旅行じゃなかったっけ?」
「…………」
「もしかして、泣いてるの?」
「愛里那ちゃん……助けて……」
「どうしたの?」
「ぜんぶ、終わっちゃったかもしれない……どうすればいいか、わかんないよ……」
「今どこ?」
「駅……」
「すぐ行く」
「ダメ……今来たら、青嶋くんに見つかっちゃう……」
「じゃあ舞の家教えて」
「分かった……」
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