サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第3部 巴

第39話 ローリングストーン。

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「焼き物ってのは何を焼くにしても、大体共通している決まりがある。昔から表七割裏三割と言われるほど、表面を重点的にしっかり焼くことで、ふっくらとした焼き上がりになるんだ」

「なるほど……あんまり肉をひっくり返すのは良くないって聞きますけど、それが理由だったんですね……」

 文化祭の出し物で焼鳥屋をやることになってから、俺はバイト中の空いた時間で、社長から肉を上手く焼くレクチャーを受けていた。

「炭は使えるのか?」

「はい。コンロを借りようかと思ったんですけど、社長の言う通り、やっぱり焼鳥は炭焼きの方がいいかなって……」

「それなら店で使ってる炭の業者に伝えておくから、そこで注文するといい」

「ありがとうございます!」

「よし……これ食ってみろ」

 社長は焼き台から上げた串を、タレの入った壺に浸けると皿へ盛った。言われるがまま、ひと口食べる。

「めっちゃうまいです! ……でもこんなの、メニューにありましたっけ?」

「これは市販の激安冷凍串だ」

「え!? それでこんなにおいしくなるんですか?」

「焼き方と味付けだけでも、食材は化けるぞ。……人間にも同じことが言えるがな。たまにいるだろう? 化粧をとったら誰か分からなくなる女が」

「ふ、深いっすね……」

「文化祭はいつなんだ?」

「11月の終わりなんで、もう1か月きってます」

「じゃあ炭の扱い方から教えてやる。次からオープン準備で炭を熾すときは、青嶋に任せよう。そうすれば儂はもう少し遅く出勤出来るからな」

「あ、またパチンコ行く気ですね?」

アイツ奥さんには内緒だぞ?」

 嬉しそうに笑うその表情を見て、妙に社長が協力的だった理由が分かった。

 
 
「しぃ、ちょっといいかしら?」

 厨房と通じている小窓から後藤さんに声をかけられると、久しぶりにその名で呼ばれた気がした。

「どうしたんだ?」

「漬物石が重くて、持ち上げてもらえないかしら?」

「今行くよ」

 俺が石を持ち上げると、後藤さんがバケツの中の漬物をかき混ぜる。膝をついていた彼女は手を止めてふと、俺を見上げた。

「なんだよその顔、早くしてくれよ」

「もし私がこのまま作業を終えなかったら、あなたはずっとそのままね……」

「おい、俺はのび太でもカツオでもねーぞ」

「ここは廊下ではないし、石の上にも三年って言葉があるわよね……」

「三年も過ごせと!? こんな状態で二十歳を迎えろってのか!?」

「あなた、誕生日はいつ?」

「12月だけど……」

「じゃあ、ギリギリセーフね……」

「アウトだよ! おい、そろそろ限界だ!」

「限界は超えるためにあるって、誰かが言っていたわ」

「知らねーよ、誰だそんな無責任なこと言った奴。もしそうだとしてもこれは絶対に超える必要のない限界だ!」

「私は、先人の残した言葉は大切にすべきだと思うわ」

「おい、何が望みだ……?」

「あなた……私に隠れて、姉と繋がっていたんですってね……」

 ギクッという擬音が彼女に聞こえていないか心配になるほど、キョドってしまう。
「そ、それは……」

 風香さん、このままじゃあなたのせいで俺が漬物石と共に風化します。

「まさかとは思うけれど、変な事、言っていないでしょうね?」

「神に誓ってそれはない!」

「あなた、神を信じていなかったわよね?」

「じゃ、じゃあ最愛の妹に誓ってそれはない!」

「いいわ、信用してあげる」

「じゃあ……早くそのバケツから手を離せ……」

 俺の両腕は既にプルプルと小刻みに震えていた。

「今度、私の家で姉のバースデーパーティをすることになったの」

「そうか……それはめでたいな。その手をどけろ」

「姉さんが、あなたも連れて来いって……」

「なんで俺が……絶対お邪魔だろ。その手をどけろ……」

「姉さんが告げ口したらしくて、母も彼氏を紹介しろってうるさくて……」

「はあ? まだあの嘘バレてなかったのか? いいからその手をどけてくれ」

 どういうことだ? 風香さんはとっくに俺と後藤さんが嘘の恋人だったってこと、知っている筈なのに。やっぱりあの人の考えていることは分からん。

「明後日なのだけれど、いいかしら?」

「それ、俺に拒否権ないよね? ちょっとやり方がずるくないか?」

「仕方ないじゃない。何か理由をつけないと、あなたはもう協力してくれないと思ったから……」

「……こんなことしなくても、喜んで協力するっつーの」

「え……? 本当にいいの?」

「後藤さんの彼氏役なんて光栄な大役、みんなやりたがるに決まってるだろ……」

「じゃ、じゃあ、そう伝えておくわ……」

 さっきまでの高圧的な態度とは違って、今の彼女は挙動不審で落ち着きがなかった。やっと漬物石から解放された俺は、その時は腕が軽くなったように感じたが、翌日にはしっかり筋肉痛に襲われた。

 
 その日のバイトからの帰り道、話を聞こうと風香さんに電話をかけてみる。

「もしもーし! どうした弟よ」

 声色と喋り方だけで、酔っていることが丸分かりだ。

「どうしたじゃないですよ! なんで後藤さんに本当のこと言ってないんですか?」

「そんなの、そっちの方がおもしろそうらからに決まってるじゃーん」

「お母さんにも伝えたって聞きましたけど……」

「らって、母さんも姫華のこと、しんぱいしてたからねぇ~。安心させてあげようと思って~。じゃあ青嶋君も来てくれるんらね?」

「一応行きますけど、騙してるのは罪悪感があるんで、本当のこと言ってもいいですよね?」

「母さん、泣いちゃうかも……」

「風香さんのせいでしょ!?」

「じゃあさ~、ウソをホントにしちゃえばいいじゃん」

「そんなの、後藤さんの気持ちはどうなるんですか!」

「ん~? ってことは、君はまんざらでもないんら~」

「な……それは、言葉のあやです」

「君も姫華とおんなじらねぇ~。じゃあ当日、楽しみにしてるよ~」

 ここで電話は一方的に切られてしまった。本当にあの人は、一体何がしたいんだ。


 当日の夜、後藤さんのマンションの前へ来ると、一気に緊張が押し寄せてきた。嘘の恋人とはいえ、親御さんに挨拶をするなんて、なかなかにハードなイベントだ。インターフォンを押すと、玄関で後藤さんが出迎えてくれた。


 
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