サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第3部 巴

第41話 ダウト。

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「それ以外で……何か、方法はありませんか……?」

 風香さんは元の位置に座り直すと、いつもの緩い表情に戻っていた。
「うん、合格。やっぱり君になら、姫華を任せてもいいかな」

「もしかして、試したんですか……?」

「そうだよ」

「子供だと思って揶揄わないで下さいよ」

「子供だとは、思ってないよ。弟みたいには思ってるけど」

「同じじゃないすか」

「男の精神年齢なんて、二十歳になろうが三十過ぎようが、中ニから大して変わらないもんなのよ。だから君はもう十分に大人なの」

「それはそれで、なんか嫌っすね」

「でもそれが現実。若い頃についてしまった悪い癖とかって、大人になっても中々変えることは出来ない……そんな奴らを、私は腐るほど見てきたからね……」

「風香さんが言うと、説得力がダンチですね……」

「だから君には、出来ればそのまま大人になって欲しいな。男の子だから、ちょっとくらいの火遊びは経験するべきだと思うけど、もしもそう思った時はせめて私に連絡して」

「連絡したら、どうなるんですか……?」

「いいお店、紹介してあげる」

「それは……いいんですか?」

「そのくらいはいいんじゃない? もしそれが本気になったら殺すけど……」

「やっぱ冗談に聞こえないっすね」

「だって冗談じゃないし」


 ここで扉が開いて、後藤さんが戻ってきた。
「青嶋君、お待たせ。な、なんで姉さんが私の部屋にいるの!?」

「ちょっと青嶋君を誘惑してたんだ。でもやっぱり彼はあんたがいいんだってさ……良かったね姫華」

「なっ……私の部屋で一体、何をしようとしていたのかしら!?」

 一瞬口篭った後藤さんは、すぐに俺を睨みつけた。

「本当にただ、話をしてただけだぞ?   そうですよね風香さんっ!?」

「パンツ覗かれそうになったけどねー」

「それは風香さんが変な座り方するからでしょうが!」

「へぇ……あなた達、私の知らない間に随分と親密なご関係になっていたようね……」

 後藤さんの髪の毛が、重力を無視しているかのような幻が見えた。まるでメドゥーサのような迫力に、その場から動けなくなる。

「青嶋君、後でじっくりと話し合いましょう……」

「おっ!   やれやれー!   男と女がわかり合うには、納得するまで話し合うのが一番!」

「姉さんは黙ってて!」

 風香さんは、少しシュンとした振りをしてリビングへと向かっていった。

「青嶋君も、早く来て」

「はい……」
 

 重い体に鞭を打ちリビングまで戻ると、テーブルの上には多くのご馳走が並んでいた。
「す、すご……これ、後藤さんが作ったのか?」

「もちろん、お母さんと一緒にね……」

「さあさあ、さっそく食べましょう? 青嶋君も遠慮しないで沢山食べてね?」
 
「ありがとうございます」

「では、風香の21歳の誕生日を祝って、かんぱーい!」

 食事をしながら、お母さんからは後藤さんと風香さんの子供の頃の話を色々と聞かせてもらった。意外にも風香さんの小さい頃は体が弱かったらしく、それに比べて後藤さんはほとんど風邪も引かない子だったとか。その後、後藤さんは恥ずかしがっていたけど、後藤姉妹の昔の写真まで見させてもらった。アルバムが中学生時代まで後ろのページになってくると、スルー出来ない写真に目が留まる。

「この一緒に写ってるのって、小浦か……?」

「ええ、そうよ……」

 俺の知らない、中学時代の小浦舞。今より少しだけあどけなくて、そして悔しいくらいに、目を引く。この頃から、彼女にはどうしようもないくらいの、華があった。

「ごめん、後藤さん……俺やっぱり、これ以上は人に嘘をつきたくない……」

「青嶋君……」

 俺は席を立って、額を床につけた。
「お母さん、俺、本当は後藤さんとお付き合いしていないんです……嘘をついて、騙していて、すみませんでした!」

「姉さん、お母さん、彼は悪くないの。私がこうしてくれるように頼んで……だから……」

「違います、悪いのは俺です! 俺がちゃんと断っていれば、後藤さんにこんな嘘をつかせなくて済んだんです。本当に、すみませんでした!」

 しばらくフローリングの溝を見つめていると、お母さんと風香さんの笑い声が聞こえてきた。
「ふふ。本当に、風香が言った通りのいい子ね?」
「でしょう!? 今時こんな子、天然記念物だよ!」

「ちょっと2人とも、これは一体どういうことなの……?」

 後藤さんと俺は、呆気にとられて顔を見合わせた。

「ごめんね姫華、青嶋君も頭上げて? 本当は全部知ってて、母さんにも本当の事を伝えてあったんだ」

「なぜ、そんなことをしたの……?」

 後藤さんのこの問いには、お母さんが答えた。
「だって、姫華の初めての男の子のお友達にどうしても会ってみたかったんだもん。風香がとっても良い子だって言うから余計にね。でも、姫華はただのお友達をお家に招待してはくれないでしょう?」

「だからって、騙していたの……?」

「お互いに嘘をついていたんだから、これでおあいこでしょ? 青嶋君、私の娘の嘘に付き合ってくれて、一緒に悩んでくれてどうもありがとう。そして、騙していてこちらこそごめんなさい……」

「いえ、俺は全然……」

「でもね、私は今あなたになら、騙されてもいいとすら思ったわ。ねぇ青嶋君は今、好きな女の子はいるの?」

「ちょっとお母さん、何を聞いているの!?」
「――はい、います。いつか自分に自信が持てたら、この想いを伝えようと、思っています」

 後藤さんの言葉に被さるくらいの食い気味で俺が答えると、お母さんは少しだけ目を閉じて、優しい表情のまま語りだした。
「そう……応援するわね。……良かったら、これからはいつでもご飯食べに来て? 私は仕事が忙しくて、随分と姫華には寂しい思いをさせているから……」

「ちょっとお母さん、勝手に話を進めないで!」
「――俺で良ければ、喜んで!」

「ちょっと、青嶋君まで! 私の意見はどうなるの?」

 しばらく黙っていた風香さんは、この話し合いをまとめるように口を開いた。
「じゃあ母さん、一段落したところで、そろそろケーキ食べよっか!」
「そうね! ロウソク21本立てなくっちゃ。青嶋君、手伝ってくれる?」

「もちろんです!」

 散々無視された後藤さんは、ついに感情を剥き出しにして地団駄を踏む。
「なんでさっきから私だけ蚊帳の外なの!?」

「元々はあんたのついた嘘が原因なんだから、そろそろ観念しな?」

 風香さんのこの言葉に、後藤さんは反論するのを諦めたようだった。


 ケーキを食べ終わると、お母さんの口から驚くべき言葉が飛び出した。
「ところで青嶋君、今日は風香と姫華、どっちの部屋で寝たい?」
 



 
 

 
 
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