クズな王子と麗しの聖女

もちごめ

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揺り返った少女の一切の穢れを知らない澄んだサファイヤの瞳、薄くピンクに色づいた頬、熟れた果実のような唇を目にしたとたん、何かに打たれたかのように身体が固まり、目を見開いたまま、一瞬時を忘れてしまった。きっと呼吸も止まっていたと思う。なぜならば少し胸が苦しい気がするからだ。

 「? どちら様?」

少女のみずみずしい唇から紡がれた声は想像通り美しくて柔らかく、とても耳に心地がよかった。その甘い蜜のような響きをもっともっと聞いていたいと思わせた。

「おまえ、名は?」

ドクンと跳ねた胸が少し苦しかったが、一度深く息を吸い整えて、精一杯の低いいい声でまずは相手の名前を聞くことにした。
自分から名乗る礼儀も忘れてしまうほど、少女の名前を知りたくて急いてしまっていた。

少女が目を見張ったのは一瞬のことで、

「失礼いたしました。私はセフィリアと申します」

 ゆっくりと立ち上がり、薄い水色の簡素なドレスの裾を掴んでお辞儀をした姿はとても優雅で、またもや目を奪われた。というか最初からずっと目を離してはいない。

しかし、その後、何もなかったかのようにヒラリとその場から去っていこうとする姿に焦り、思わずもう一度声を掛けて引き留めた。

「なぜ、去っていこうとする」

「なぜ? なにか私に御用がありましたか?」

柔らかく可愛らしい声でそう言い、小首をかしげた姿は、とびきりかわいらしい。やはり天使か?

「まだ名乗っていなかったな、俺の名前はアレクシス。俺をみて頬を染めない女は初めてだ」

やっと自分の名前を名乗り、これでどうだ? と自信たっぷり気に笑みを作り、必殺技の流し目を送ったのだが、

「そうでしたか。それはよかったです。それで、要件はそれだけですか?」

もう行っても? と言いたげな様子にまた固まる。
容姿に多少なりとも、いや、大いに自信があったために、目の前の少女の自分には全く興味なさげな態度に衝撃を受けた。
そして同時にひどく興味を抱き、眼の前の少女をじっと見降ろす。

「お前……俺を見てもなんともないのか? もしかして、俺を知らないのか?」

それならばそのその態度も仕方ないなと、そう問えば、小首をかしげたまま、クスクスと笑い始めた。
笑った顔は先ほどよりもやや幼げに見えたのだが、その愛らしさに、やっぱり見とれてしまう。
 こんなにも目を奪われるなんて――。

「なんともないか、なんて。別段、気分が悪くなったりなどしてませんわ」
「き、気分が悪く…!?」

そ、それは俺の顔を見ての発言か!? と到底信じられない言葉にショックを隠せない。

「それと、今日初めてお会いしたばかりだと思うのですが。もし以前どこかでお会いしていたのなら、申し訳ございません。全然。全く、思い出せません」

目の前の天使のような、女神のような容貌をした幼き少女から、存外、「お前の容姿にも、存在にも全く興味がない」とあまりにもさらりと言われ、口と目を開けたまま、あっけにとられてしまった。

今まで、女性から言い寄られることはあっても、こんなにも淡泊な扱いを受けたことなど無かったために、ショックで自分の価値というものがわからなくなってしまった。
お、俺は一体誰だ…?? と脳内が大混乱の最中、とっさに少女に詰め寄り、手首を掴んで腰を抱き寄せた。

「っ!!!?」

急に距離を詰められ、動きを封じられたことに驚き、悲鳴を上げそうになっていたが、とっさに唇をかんで必死に止めた姿を見て、その初々しい姿にふっと笑った。
抗議の意味を込めて睨んでくる顔にそそられ、一気に嗜虐心が湧き上がる。

「案外、気が強いんだな。だが、そんな態度をとっていいのか? 俺は、この国で高い身分にいるんだぞ」
「何をおっしゃられているのかわかりません。
あなた様の身分がどれだけ高かろうと、この聖域内では身分の分け隔てなどなく、みな平等です」

努めて冷静に、そう返してはいるが、抱きしめられていることに恥ずかしさを感じているのだろう。実際は腕の中で顔を赤くしてモゾモゾと抜け出そうと必死にもがいている。また、その声はかすかに震えている。

 女に抵抗されるなんて――。
 初めての感覚だ。面白い。

普段神殿の中で住まう少女だ。男慣れは愚か、まともに関わる機会すらも、ほぼないのだろう。
ならば、ちょっといたずらをしてやろうと、悪戯心が湧き上がり、少女の潤んだみずみずしい果実にめがけて顔を傾けた――。

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