【完結】あなたのいない世界、うふふ。

第９話

　この国の王族たちは政略結婚でも仲睦まじいためか、身近に置く者の不貞には厳しい目を向けている。故に近衛騎士団の騎士には愛妻家が多かった。
　その中にあって、妻を顧みない男が一人。

　トーソルドは結局ルイーフとは別れなかった。ルイーフが働いていたことと、アニエラが食費くらいはとマイルスに金を届けさせていたからだ。
　しかしアニエラがそれを許しても、近衛騎士団はトーソルドを許すことはなかった。


「貴族である以上、婚姻を結んだらせめて表向きだけでも切り替えねばならぬ。まして近衛騎士という己の立場を鑑みれば取る道は自ずと解ろうものだが、これだけ言っても妻を守らず愛人と別れないようなら・・・辺境にでも行かせるか」


　アニエラとトーソルドの結婚から半年後。
ロイリー伯爵は近衛騎士団長ホガースに呼び出された。

「久しいな」
「ホガース団長、その節はありがとうございました。お陰様で我が義娘アニエラは穏やかに過ごしております」

　ジャブリックはアニエラをあえて嫁ではなく、義娘と呼んだ。トーソルドよりアニエラを守る立場を選んだのだ。

「それはよかった。しかし奴は相変わらずのようだぞ」
「我が家の恥にございますが、何分にも言うことを聞かず困り果てております」

　ホガースはニヤリと笑い、声を潜めた。

「近衛騎士は家族を大切にする者が多いからな。貴殿の子息は近衛の面汚し、許しがたいと憤る声が多く上がっている。王族をお守りする気高き騎士団に素行の悪い者がいては困るのだ。我らもあれから半年様子を見ていたが、喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつなのか、愛人と別れるどころか未だ愛人宅から通うておるなど、反省もしておらんようだぞ」

　ジャブリックは返す言葉もない、恥ずかしさと情けなさに俯いていく。

「そこでだ。奴を辺境騎士団に出そうかと思うてな」
「え？」
「辺境騎士団は危険が高いので俸給は高い。万一の時は年金も出るが、さすがにこれだけ離れていては多少の金を持たさねばなるまい。そちらに回す金が少なくなることを了承してもらいたいと言うことと、ちょっとやそっとでは帰れんので、関係修復の機会が失われるだろう。奥方・・いや、貴殿の義娘殿がもし奴についていくというなら辺境ではなく、もう少し安全な地域にしてやっても良い。本来異動は命令だが、此度は義娘殿があまりに不憫ゆえ、そちらの意向も考慮したいと考えておる」
「はっ、畏れ多きことにございます」
「相談の上、改めて回答されよ」