【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる

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第13話

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「あ、あっ!申し訳ございませんっ!」

 飛び退ると、引き攣った顔を隠すように腰を直角に曲げて謝罪の言葉を叫ぶが、何もかもが遅すぎた。

 拘束はされなかったが、辺境へ出立するまで謹慎となり、近衛騎士の制服は即刻返納を求められた。
 二人の同僚騎士がルイーフとの愛の巣まで同行し、支給されていたすべての騎士服や装具を回収して帰っていくのを、悲しく空しい気持ちで見送ったトーソルドは、今すべてを失った気持ちに襲われている。

 ─こんなことになったのも、すべてあの女と結婚させられたからだ─

 悪いことはすべてアニエラのせいだと、貴族としての自分の過ちに目を向けることはなかった。

 忌々しくて、できればアニエラの取り澄ました顔を打ち据えてやりたいほどだが、屋敷は自分を良く知る使用人たちが固めている。騎士団長が父に打診済みということは、当然屋敷の者は近衛を辞めさせられたことを知っていて、警備を固めているに違いない。
 謹慎処分中に迂闊なことをすれば、辺境行きでは済まないかもしれないと、流石にそれは諦めた。

 もう限界だった。

「アニエラ、あいつが現れてからろくなことが無い。仕事も金も」

 しかしふと、辺境に行けば今のように俸給を奪われることも無くなるのでは?と気がつく。

 ─そうだ!辺境に行けばもう煩いことを言われることもないな。あの女を捨ててルイーフを妻に迎え、楽しく過ごせばいいじゃないか─

 自分に都合良い筋書きを思いつくと、先ほどまでの煮えくり返るような怒りは、自分に捨てられたアニエラが項垂れて屋敷を追い出される姿を思い浮かべたことで収まり、笑いがこみ上げてきた。

「そうだ、使用人どももすべて追い出して、屋敷も売って金に変えれば財産分与も簡単だ!」

 自分に盾突いた使用人の居場所ごと葬り去ってやろうと考えると溜飲が下がり、くふふと低く呻くような笑いが抑えきれなかった。
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