【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる

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第16話

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 一年と半年が過ぎた。
 辺境に行ったトーソルドは、長期休暇で王都に帰ることがあっても、相変わらず屋敷に戻ることはなかった。
 離婚の話はルイーフが今は望まないと言うため先送りにしている。
それに父ジャブリックの別れ際の言葉に憤りもあり、寄ろうと思えば寄れたのだが、トーソルドにとって帰る先はルイーフの元であった。
 ルイーフは約束どおり、トーソルドが帰るのをいつも待っていてくれたから。




 トーソルドの辺境行きは、アニエラにとっても好都合だった。
 だからジャブリックに辺境についていくかと訊ねられたとき、とんでもないと焦って首を横に振りまくったのだ。
今さら夫婦と言われてなんとする?どうせこのまま白い結婚が三年続けば、妻申し立てによる離婚が成立する。トーソルドからたんまりと慰謝料をもらえて自由になれると割り切っていた。

 アニエラの実家の子爵家は貴族としてはまあまあな歴史と豊かな財産を持つが、兄夫婦が爵位を継ぐため、嫁ぐか働きに出るしかなかった。
 二択なら嫁に行くのが順当だ。6歳からトーソルド・ロイリー伯爵令息という婚約者もいたから、疑問に思うことはなかった。

 婚約した年、トーソルドと湖畔にピクニックに行った記憶がある。
 しかし翌年5歳上のトーソルドが学院に通い始めた頃から、毎月の茶会や外出は尽くすっぽかされるようになった。
 手紙はもともと来なかった。その頃はまだアニエラが小さすぎて、字が読めなかったこともあったが、それを良いことにトーソルドは文の一通さえ寄越さなかった。

 誕生日の祝いの会はジャブリックが用意したプレゼントを手に連れられて来るが、いつも面白くなさそうに不貞腐り、一人で庭に行ってしまうこともしばしば。

 アニエラの両親はそんなふたりの行末を心配したが、ジャブリックから親の代からの恩をアニエラを必ず幸せにすることで返すと言われると、婚約を解消することもできなかった。
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