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第33話
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ジャブリックは久方ぶりにアニエラの実家であるヨヌク子爵家を訪れている。
ヨヌク子爵家は王都に近いロイリー伯爵家からは離れた辺境に領地を持つ。馬車では三日かかるが、馬で早朝に駆け出せば翌日の夕方には着く距離だ。
通常は辺境伯が守るべき国境に面しているその土地は険しい山脈が連なり、その一箇所だけに、検問のように抜けられる谷間が拓けている。
馬車で越えられる山ではないので、隣国から訪れる者は谷間に沿って、ヨヌク領を抜けるしかない。
ヨヌク家は始祖が武勲を挙げて子爵になった武人だったこともあり、谷を守れとこの地を拝領していた。
当初は剣術で名を轟かせていた一族だったが、代を重ねるうちに隣国との交易により財を成し、大商会を抱えるようになった。豊かだったからこそ、偶々親しくなった先代ロイリー伯爵の負債を知った先代ヨヌク子爵は快く金を貸し与えた。なんと無利子で!
その資金のお陰でロイリー家は立ち直ることが出来、以来ヨヌク家はロイリー一門にとり大恩人になった。
大恩人の孫娘アニエラをロイリー一門が誰よりも幸せにするはずだったのだ。
それなのに。
ヨヌク子爵アンザルクとイルメ夫人に、表情のない顔で出迎えられたジャブリックは居心地の悪さに耐えながら頭を下げた。
「アニエラ様を幸せにすると約束したにも関わらず、愚息が誠に申し訳ないことを致しました。現在アニエラが住む屋敷とそれに付随するすべての財産を慰謝料としてアニエラ様に移譲致しましたので、お詫びを兼ね、ご挨拶に罷り越しました」
伯爵が子爵に対する言動ではないが、大切な娘を先代の約束を果たすためにと貰い受けた挙げ句、白い結婚で離婚など、どの面下げて来たと塩を撒かれても仕方のないことである。
「アニエラは、では今の屋敷にそのまま暮らすと?」
イルメ夫人が心配そうに訊ねるが当然だ。
「屋敷の使用人たちと刺繍アトリエを起ち上げて成功を掴んでいます。ご存知と思いますが、今や王妃陛下やメリレア姫のお気に入りで仕事も順調ですから、このまま続けたいと希望されております」
「そうですか・・・王室の方に気に入られているというのは本当のことでしたのね」
「ええ。私も一緒に品物を納めに行ったことがございますが、メリレア姫様に至ってはご自身で受け取りにみえられて、すぐに確認されていらっしゃいました。そのお喜びようときたら、話は聞いておりましたが想像以上でございました。本当に素晴らしいお嬢様でいらっしゃる」
ジャブリックは、アニエラを本当に本当に気に入っていた。本当の娘だと思ってきたのに、トーソルドが台無しにしたのだ。
思うほど頭が重く、項垂れていく。
その時だった。
ヨヌク子爵家は王都に近いロイリー伯爵家からは離れた辺境に領地を持つ。馬車では三日かかるが、馬で早朝に駆け出せば翌日の夕方には着く距離だ。
通常は辺境伯が守るべき国境に面しているその土地は険しい山脈が連なり、その一箇所だけに、検問のように抜けられる谷間が拓けている。
馬車で越えられる山ではないので、隣国から訪れる者は谷間に沿って、ヨヌク領を抜けるしかない。
ヨヌク家は始祖が武勲を挙げて子爵になった武人だったこともあり、谷を守れとこの地を拝領していた。
当初は剣術で名を轟かせていた一族だったが、代を重ねるうちに隣国との交易により財を成し、大商会を抱えるようになった。豊かだったからこそ、偶々親しくなった先代ロイリー伯爵の負債を知った先代ヨヌク子爵は快く金を貸し与えた。なんと無利子で!
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それなのに。
ヨヌク子爵アンザルクとイルメ夫人に、表情のない顔で出迎えられたジャブリックは居心地の悪さに耐えながら頭を下げた。
「アニエラ様を幸せにすると約束したにも関わらず、愚息が誠に申し訳ないことを致しました。現在アニエラが住む屋敷とそれに付随するすべての財産を慰謝料としてアニエラ様に移譲致しましたので、お詫びを兼ね、ご挨拶に罷り越しました」
伯爵が子爵に対する言動ではないが、大切な娘を先代の約束を果たすためにと貰い受けた挙げ句、白い結婚で離婚など、どの面下げて来たと塩を撒かれても仕方のないことである。
「アニエラは、では今の屋敷にそのまま暮らすと?」
イルメ夫人が心配そうに訊ねるが当然だ。
「屋敷の使用人たちと刺繍アトリエを起ち上げて成功を掴んでいます。ご存知と思いますが、今や王妃陛下やメリレア姫のお気に入りで仕事も順調ですから、このまま続けたいと希望されております」
「そうですか・・・王室の方に気に入られているというのは本当のことでしたのね」
「ええ。私も一緒に品物を納めに行ったことがございますが、メリレア姫様に至ってはご自身で受け取りにみえられて、すぐに確認されていらっしゃいました。そのお喜びようときたら、話は聞いておりましたが想像以上でございました。本当に素晴らしいお嬢様でいらっしゃる」
ジャブリックは、アニエラを本当に本当に気に入っていた。本当の娘だと思ってきたのに、トーソルドが台無しにしたのだ。
思うほど頭が重く、項垂れていく。
その時だった。
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