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外伝
第61話 王妃の企み ─王妃とテューダー─
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それまで毎日のように届いた社交の招待状はパタリと止まり、気晴らしにドレスを買いたいとアリスや子爵夫人が強請っても、ウィスタルズ子爵家を相手にしてくれる商会など既になかった。
それどころか、今やハイエナのように群がる債権回収者たちが門の前に集まり、一度でも屋敷に入れてしまえば金目の物を持ち出されかねないほど、緊張は高まっていたのである。
しかたなく、子爵は夫人とアリスを遠い領地に避難させることにした。
裏門に密かに用意された子爵家の馬車とは違うみすぼらしい小さな馬車を見て。
「「いやっ!絶対にいやっ!」」
田舎にも行きたくないし、こんな汚らしい馬車など絶対に乗りたくないとふたりは梃子でも首を縦にしない。
「何故わからない!そんなことを言っている場合ではないんだ!とにかく気づかれないよう静かに乗れっ」
しかし虫の声しかしない暗闇の中、その問答は確実に債権者たちの耳に届いていた。
「いたぞ!」
門の外にいる馬車なら、子爵家の中に侵入したとは言われない。ましてそこにある馬車ときたら!
駆けてくる粗暴な男たちに恐れをなしたアリスと母は馬車を捨てて逃げ出したが、ウィスタルズ子爵は馬車の中の荷物を引きずり出そうとしていた。
妻子を逃がすときに、一緒に多くの宝石を持たせようとしていたのだ。
「子爵様、漸くお目にかかることができましたね」
護衛はいたが、圧倒的な数の男たちに取り囲まれて、抱え込んだ荷物を取り上げられる。
「ほお、こんなに宝石をお持ちでしたとは!ではこれを代金の一部としていただきましょう」
ウィスタルズ子爵は、男たちの笑い声の中がっくりと膝をついた。
突っぱねればお人好し一族などどうにかなる、そのうちなし崩しに結婚することになるだろうと甘く考えていたウィスタルズ子爵は、本気になったソグ伯爵夫妻の怒りのしっぺ返しに身ぐるみを剥がされた。
追い討ちをかけるように、マイラから話を聞いたパリス王妃が、ウィスタルズ子爵家門の言動は王太子側近姻戚に相応しくない、弁えてテューダー・ソグ伯爵令息との婚約を辞退するようにと内々に書状を送ったことでトドメを刺された。
どうやっても逃げられなくなり、テューダーとの婚約解消に応じるしかなくなったウィスタルズ子爵家は、社交界どころか貴族家としての存続すら怪しくなってしまったのだ。
「慰謝料はけっこうです」
王妃の謁見の間に呼ばれたテューダーは、さっぱりした顔で未練なくそう答える。下手に王妃の手を借りると、後でどんなツケを払わさせるやらと警戒もしていた。
「本当にそれでいいの?今回ウィスタルズ子爵はテューダー、貴方とソグ伯爵家の名誉を傷つけたのよ!がっつり搾り取ってあげるのに」
何故かパリス王妃が非常に楽しそうに言う。
「債権者たちに払ってやって下さい。その支払いが終わると、ウィスタルズ家はもうどれだけ搾ってもカスも出ないと思いますから、慰謝料を取ることに躍起になって婚約解消が遅れるより、今となっては一刻も早く手を切りたいです」
「そう?そこまで言うならいいけど。
ではウィスタルズ子爵のような、エルロールの威光を傘に着るような者たちは、ちゃちゃっとやってしまいましょう!他の愚か者に見せしめになるようにね。
借金返済の残りはソグ家に渡るようにしておくから、それくらいは慰謝料代わりに受け取りなさいな。
でも貴方もじきに成年式なのに、婚約もしていないのは外聞がよろしくないわよ」
痛いところを突かれたテューダーだが、それでももうアリスはごめんだからしかたない。
ちょっとだけ口が尖ったテューダーを見て笑ったパリス王妃が女官に告げた。
「呼びなさい」
それどころか、今やハイエナのように群がる債権回収者たちが門の前に集まり、一度でも屋敷に入れてしまえば金目の物を持ち出されかねないほど、緊張は高まっていたのである。
しかたなく、子爵は夫人とアリスを遠い領地に避難させることにした。
裏門に密かに用意された子爵家の馬車とは違うみすぼらしい小さな馬車を見て。
「「いやっ!絶対にいやっ!」」
田舎にも行きたくないし、こんな汚らしい馬車など絶対に乗りたくないとふたりは梃子でも首を縦にしない。
「何故わからない!そんなことを言っている場合ではないんだ!とにかく気づかれないよう静かに乗れっ」
しかし虫の声しかしない暗闇の中、その問答は確実に債権者たちの耳に届いていた。
「いたぞ!」
門の外にいる馬車なら、子爵家の中に侵入したとは言われない。ましてそこにある馬車ときたら!
駆けてくる粗暴な男たちに恐れをなしたアリスと母は馬車を捨てて逃げ出したが、ウィスタルズ子爵は馬車の中の荷物を引きずり出そうとしていた。
妻子を逃がすときに、一緒に多くの宝石を持たせようとしていたのだ。
「子爵様、漸くお目にかかることができましたね」
護衛はいたが、圧倒的な数の男たちに取り囲まれて、抱え込んだ荷物を取り上げられる。
「ほお、こんなに宝石をお持ちでしたとは!ではこれを代金の一部としていただきましょう」
ウィスタルズ子爵は、男たちの笑い声の中がっくりと膝をついた。
突っぱねればお人好し一族などどうにかなる、そのうちなし崩しに結婚することになるだろうと甘く考えていたウィスタルズ子爵は、本気になったソグ伯爵夫妻の怒りのしっぺ返しに身ぐるみを剥がされた。
追い討ちをかけるように、マイラから話を聞いたパリス王妃が、ウィスタルズ子爵家門の言動は王太子側近姻戚に相応しくない、弁えてテューダー・ソグ伯爵令息との婚約を辞退するようにと内々に書状を送ったことでトドメを刺された。
どうやっても逃げられなくなり、テューダーとの婚約解消に応じるしかなくなったウィスタルズ子爵家は、社交界どころか貴族家としての存続すら怪しくなってしまったのだ。
「慰謝料はけっこうです」
王妃の謁見の間に呼ばれたテューダーは、さっぱりした顔で未練なくそう答える。下手に王妃の手を借りると、後でどんなツケを払わさせるやらと警戒もしていた。
「本当にそれでいいの?今回ウィスタルズ子爵はテューダー、貴方とソグ伯爵家の名誉を傷つけたのよ!がっつり搾り取ってあげるのに」
何故かパリス王妃が非常に楽しそうに言う。
「債権者たちに払ってやって下さい。その支払いが終わると、ウィスタルズ家はもうどれだけ搾ってもカスも出ないと思いますから、慰謝料を取ることに躍起になって婚約解消が遅れるより、今となっては一刻も早く手を切りたいです」
「そう?そこまで言うならいいけど。
ではウィスタルズ子爵のような、エルロールの威光を傘に着るような者たちは、ちゃちゃっとやってしまいましょう!他の愚か者に見せしめになるようにね。
借金返済の残りはソグ家に渡るようにしておくから、それくらいは慰謝料代わりに受け取りなさいな。
でも貴方もじきに成年式なのに、婚約もしていないのは外聞がよろしくないわよ」
痛いところを突かれたテューダーだが、それでももうアリスはごめんだからしかたない。
ちょっとだけ口が尖ったテューダーを見て笑ったパリス王妃が女官に告げた。
「呼びなさい」
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