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外伝 リリアンジェラ
可愛いらしい王女はニヤリと笑う19 ─リリアンジェラ─
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「では現状わたくしにできることはないのね」
「はい、既に事態はリリ様のお手を離れております。
調査の進捗は随時、そしてその時が参りましたら誰より早くお報せ致しますので、お見守りくださいませんでしょうか」
王女らしい威厳のある仕草でゆっくりと頷き、「わかりましたわ、では貴方たちに任せます」
リリアンジェラの理解を得て。
歩き出したテューダーが糾弾することになる顔ぶれ、メンジャー侯爵令嬢と学院教師、たぶん恩師の一人だろうと思うと気が重くなる。そしてメンジャー侯爵家もなんらかの咎を負うだろうと、重くなった足を引きずり、ソージェの元へ向かうのだった。
二日後。
「午後にソージェが来るそうだ」
エルロールがメッセンジャーから受け取ったメモをテューダーに渡す。
「リリも呼んでおいてくれ」
エルロール王子の執務室に、ソージェ・ゴルマス侯爵と少し遅れてリリアンジェラ王女が姿を現すと、早速話が始められた。
「まず、チュリンヌ・テリア嬢に正式な告発状を出してもらいました。その上で王都貴族学院に調査に入り、メンジャー嬢とテリア嬢の担任であったジャニ・ソミルスがメンジャー嬢に買収され、過去のテリア嬢の作文をともに手を入れて、学院の推薦を受けた優秀作品として文集作成部に提出したと判明しました」
「え?ソミルス先生が?うそだろう?」
エルロールもテューダーもリリアンジェラも勿論良く知る副学院長だ。
「まったく私も驚きましたよ、推薦状が出せるのだから、一兵卒ではないと思いましたが、まさかソミルスだとは」
「副学院長なら俸給だって安くはないはずだろう?学生の安い金で買収されるわけもないと思うが」
「買収資金はメンジャー侯爵家から支出されたことを確認しました」
「ということは関わったのはセラ嬢だけではない?」
「その辺はまだ確証が取れていないのですが、セラ嬢の思いつきを誰も諌めずに乗ってしまったというのが正解らしいです。メンジャー侯爵も自分がやったとも言わないもので」
ちょっと仕返ししてやろうと軽く考えていたリリアンジェラは、話が予想以上に大きくなっていて、珍しく呆然としていた。
取り潰しまでは行かなくとも、降爵はありうる話になっている。
「しかし侯爵令嬢なら文官になるわけでもあるまい。何故ソミルス先生を買収してまで文集に載せたかったのだろうな?」
エルロールの疑問にはソージェか答えた。
「文集に作品が掲載された者は、教養の高さを認められたも同然です。学院の中で優秀なのは、その中で知られても他の学院にまで名を轟かせることは少ないですが、城が編纂する文集に載れば、全国の学生のうちの数名に選ばれたことになるのですよ。王子妃を狙うメンジャー侯爵家にとっては、喉から手が出る肩書きでしょう」
エルロールとリリアンジェラの不快極まりない、顰められた表情があまりにも瓜二つで、笑う場ではないのに、笑いが漏れそうになったテューダーは必死でそれを呑み込むのだった。
「はい、既に事態はリリ様のお手を離れております。
調査の進捗は随時、そしてその時が参りましたら誰より早くお報せ致しますので、お見守りくださいませんでしょうか」
王女らしい威厳のある仕草でゆっくりと頷き、「わかりましたわ、では貴方たちに任せます」
リリアンジェラの理解を得て。
歩き出したテューダーが糾弾することになる顔ぶれ、メンジャー侯爵令嬢と学院教師、たぶん恩師の一人だろうと思うと気が重くなる。そしてメンジャー侯爵家もなんらかの咎を負うだろうと、重くなった足を引きずり、ソージェの元へ向かうのだった。
二日後。
「午後にソージェが来るそうだ」
エルロールがメッセンジャーから受け取ったメモをテューダーに渡す。
「リリも呼んでおいてくれ」
エルロール王子の執務室に、ソージェ・ゴルマス侯爵と少し遅れてリリアンジェラ王女が姿を現すと、早速話が始められた。
「まず、チュリンヌ・テリア嬢に正式な告発状を出してもらいました。その上で王都貴族学院に調査に入り、メンジャー嬢とテリア嬢の担任であったジャニ・ソミルスがメンジャー嬢に買収され、過去のテリア嬢の作文をともに手を入れて、学院の推薦を受けた優秀作品として文集作成部に提出したと判明しました」
「え?ソミルス先生が?うそだろう?」
エルロールもテューダーもリリアンジェラも勿論良く知る副学院長だ。
「まったく私も驚きましたよ、推薦状が出せるのだから、一兵卒ではないと思いましたが、まさかソミルスだとは」
「副学院長なら俸給だって安くはないはずだろう?学生の安い金で買収されるわけもないと思うが」
「買収資金はメンジャー侯爵家から支出されたことを確認しました」
「ということは関わったのはセラ嬢だけではない?」
「その辺はまだ確証が取れていないのですが、セラ嬢の思いつきを誰も諌めずに乗ってしまったというのが正解らしいです。メンジャー侯爵も自分がやったとも言わないもので」
ちょっと仕返ししてやろうと軽く考えていたリリアンジェラは、話が予想以上に大きくなっていて、珍しく呆然としていた。
取り潰しまでは行かなくとも、降爵はありうる話になっている。
「しかし侯爵令嬢なら文官になるわけでもあるまい。何故ソミルス先生を買収してまで文集に載せたかったのだろうな?」
エルロールの疑問にはソージェか答えた。
「文集に作品が掲載された者は、教養の高さを認められたも同然です。学院の中で優秀なのは、その中で知られても他の学院にまで名を轟かせることは少ないですが、城が編纂する文集に載れば、全国の学生のうちの数名に選ばれたことになるのですよ。王子妃を狙うメンジャー侯爵家にとっては、喉から手が出る肩書きでしょう」
エルロールとリリアンジェラの不快極まりない、顰められた表情があまりにも瓜二つで、笑う場ではないのに、笑いが漏れそうになったテューダーは必死でそれを呑み込むのだった。
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