【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

文字の大きさ
9 / 75

9

しおりを挟む
 静養にとセリアズ公爵、そしてエンダライン侯爵が子どもたちに用意した時間の残りを、アレクシオスはパルティアと行き来しながら過ごすようなっていた。

 二人で湖畔にリラックスチェアを置き、あるときはそれぞれに本を読んだり、またどちらの食事が美味いかと痴話喧嘩をしてみたり。
 そしてパルティアがエルシドで過ごすのもあと少しという頃。

「アレクシオス様、思いついたことがあるの。聞いてご意見くださる?
この地は人があたたかく、私たちのように心に傷を負った者が休むのにぴったりでしょう?ここに心休めるような宿泊施設を建てて、気軽に静養できるような場所を作ろうかと考えているのだけど」

 貴族と言えど、静養に出るのは支度が大変だ。別邸のあるところなら良いが、そうでなければ。そう今回のパルティアのようにコテージを借りる場合は、あらゆる物を持ち込まねばならず、結果六台もの馬車を連ねる結果になった。
 パルティアは自分を、そしてアレクシオスを癒やしたこの地で、観光よりもっと心穏やかに過ごすことが必要な人が手軽に来られてゆっくり休める施設を、オートリアスの父から受け取った慰謝料で建てて、親しくなった平民の娘たちに仕事を与えるのはどうかと考え始めていた。

「なるほど。確かに彼女たちになら、安心して任せられるな」
「ね。貴族向けの静養施設、その時はアレクシオス様もお客様・・・っていうのかしら?ご紹介くださるかしら」
「ああ、もちろんだ!パルティア様は、転んでもタダでは起きないな」

 くすりと笑いをこぼしたアレクシオスだが、パルティアがエルシドで身につけた逞しさを眩しく思っていた。

「私も慰謝料をもらうことになる・・・出資してもいいかな」
「本当に?それなら安心して広い土地を買い求められますわね」

 残す数日の滞在で、二人は土地を探し始めた。もちろんレイクビューでなければならない。自分たちがしてきたように湖畔の朝焼けや夕暮れを見ながらゆったり過ごせる場所、広い湖のまわりを歩くうちにようやく見つけ出した土地を即決で購入した。

「思ったよりかなりお安かったですわね!」

 パルティアたちが住む王都と比べたら土地ははるかに安いのだが、そこには初めて気がついた。

「その分建物に金をかけられる」
「ええ!贅沢よりシンプルで、心や疲れを癒やすための部屋づくりやお風呂にお金をかけたいわ。あ、リネンは良いものを使わなくてはだめね。あとはお料理!」

 パルティアの頭の中に、自分を癒やしたこの地の素晴らしい食べ物が次次と思い浮かぶ。

「それを全部取り入れた建物だと、土地がいくらお安くてもやっぱり私の予算では足りないかもしれないわ」
「ああ、そこは私が出そう」

 アレクシオスが、パルティアをやさしく見つめていることに気づいたニーナである。
 ふたりはいつも仲間だ同志だとお互いを呼び合っているが、共同出資の仕事を始めるのはさらに仲が深まり、とても良いことだとエルシドでパルティアを囲む使用人たちはあたたかく見守っていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

処理中です...