【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

文字の大きさ
42 / 75

42

しおりを挟む
 ゾロア・ドルアド男爵がエルシドに到着すると、待ち受けたパルティアにすぐ施設を引きずり回された。
 途中、廊下を行くメニアに会い、その所作の美しさに見惚れたが、パルティアが支配人、メイド長と護衛騎士以外平民と言っていたのを思い出し、念のために訊ねてみた。

「彼女はメイド長でしょうか?」
「いいえ、メイドの一人ですわ」
「では平民?あれほどの所作を身につけるとは何年も訓練されたのでしょうか」
「いえ、一年もかけておりませんわ。エンダライン家から副メイド長を連れてきて指導させましたの。良い仕事に就けると聞けば、真剣に、そう私たちが考えるよりはるかに真剣に取組んでくれるのです」

 驚きに固まるゾロアに、パルティアはさらに続ける。

「プライドだけが高い使えない貴族をしがらみで雇うより、素質と素養のよい平民を雇い育てる方が世のためになると思いませんこと?」

 プライドでは飯は食えんと思っているゾロアは、高位貴族で次期侯爵となるパルティアからそんな言葉が発せられるとは思わなかったが、しかしまったくそのとおりだと激しく頷いていた。

「よかったわ、貴方も同じ考えで。メンシアの施設も同じように平民を雇うのだけれど、支配人が平民を小馬鹿にするような人では困りますものね」

 ニッと笑ったパルティア。
 視線が合うと、パルティアが何かを期待する目で圧をかけてきているのをゾロアは感じた。

「支配人、引き受けてくださるわよね?」
「・・・・え?私がですか?」
「ええ。アレクシオス様に了解を取ってからではありますけれど。面会が終わったら、お返事聞かせてくださいね」

 あれよあれよと言う間に、ゾロアはパルティアが敷いた道を歩かされて、自分の仕事はどうなってしまうだろうと心配になるが。

「ああ、そうだわ。貴方の仕事は続けてくれて構わないですわ。毎日施設にいなくとも大丈夫なように使用人たちを教育すればいいのだから」

 施設を巡り終えると、噂のメイド長と出逢った。

「テーミア、こちらメンシアのゾロア・ドルアド男爵よ」
「メイド長のテーミア・シンスルでございます」
「彼をメンシアの支配人に引き抜きます。テーミア、あちらの準備ができたらまた貴女に教育を担ってもらうから、よろしくね」

 ゾロアはまだやると返事はしていないのだが、もうパルティアはやる前提で外堀を埋めに埋めている。

 ─断るという選択肢はないのだな。まあ、やってみたい・・・うむ、このメイド長の手腕にも興味がある─

 そんなことをぼんやり考えていると、パルティアに呼ばれていることに気づいた。

「ほら、セリアズ公爵邸に参りますわ!早く馬車にお乗りなさい」

 どう見ても十代のパルティアに指示され振り回されているが、ゾロアは二十代半ば。
ちょっぴり複雑な気持ちを抱えながら、逆らうなんてとんでもないと馬車に飛び乗った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

処理中です...