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セリアズ公爵はエンダライン侯爵夫妻を自室での晩餐に誘った。
公爵はアレクシオスの母を亡くして以来独身のため、カーライルとスーラと計三人での晩餐である。
「お招きに預かり、感謝申し上げます」
「こちらこそ急に呼びつけたと言うのに、良く来てくださった」
同じ施設に宿泊しているのに大袈裟なことだと、側に付いているベイツは肩を竦めている。
「今夜は美味しい食事をともにしながら、少し込み入った話しをさせてもらいたいのだが、よろしいかな」
共同事業についてか?それとも・・・
「まずは食事を楽しもう」
カーライルは何故か蛇に睨まれた蛙のような気分に陥って、食事どころではなかったが、知ってか知らずかランバルディはスーラと歓談しながら、上機嫌で笑い声をあげていた。
食後、茶が運ばれると、いよいよ本題に入る。
「今日お呼び立てしたのは他でもない、我が次男アレクシオスが、勢いパルティア嬢にプロポーズをしたらしい。パルティア嬢とエンダライン侯爵が了承してくださるならこんなに目出度いことはないと考えているのだが、如何だろうかな」
カーライルもスーラも心の準備が出来ていたので驚くことはない。
冷静に、ただほんの少し確認の目配せを交わしあうと微笑んだ夫妻。
「私どもも了承いたします」
カーライルの言葉にランバルディが顔を上げる。
「早いな!?考えなくてもよいのか?」
「十分考えた結果でございます」
「パルティア嬢とは話ができているのかね?」
「いえ、しておりませんが、見ていれば娘の気持ちはわかります。たまの手紙もアレクシオス様のことばかりでございましたし。
ランバルディ卿はパルティアがアレクシオス様をお救いしたと思われていらっしゃると思いますが、私どももアレクシオス様に娘が救われたと考えております。
あのふたりがともにいることが最善で最良、初めからこうなるべきだったと。そうは思われませんか?」
スーラでさえ驚く、カーライルの熱い言葉をランバルディは復唱した。
「最善で最良!まさに、あのふたりは運命的に出逢い、お互いを支え合って立ち直った」
ぐすっと鼻を啜る音がした。
「あれは長男と違い、とにかく繊細でな。瓜二つだった母を亡くしたときも、心配で心配で目が離せなかった」
「ずっとお一人でお育てになられたのでございますか?」
スーラの優しい声音に、ランバルディは赤くなった目元を緩めた。
「そうだ。環境の変化に弱いアレクシオスが心配だということもあったが、なんというか、こう言うと気恥ずかしいのだが私の妻は生涯でただ一人、他の女性を迎えたいとはどうしても思えなくてな」
カーライルたちも仲が良い夫婦だが。
ふたりはランバルディと知り合ってから初めて、彼に好感を抱いた。
「あ、そういえば」
思い出したことがあり、カーライルが切り出す。
「オートリアス・ベンベローとライラ・シリドイラの現在なのですが、ご興味はおありでしょうか」
先ほどまでの照れくさそうな様子が一変し、ランバルディの視線が獰猛さを取り戻した。
「エンダライン家では大層優秀な猟犬を飼っていると聞いたことがある。
我が家でも調べているが、とんと足取りがつかめない。何かわかったのか?」
「お褒めに預かり光栄です。我がソダルの鼻は、犬並みに違いありませんからな。
しかし例えランバルディ卿の精鋭でも、あれはちょっとやそっとでは見つけられないはずです。
ベンベローの末息子が匿っているのですから」
「何?末息子とな?」
「ええ。調べたところ末息子エイリズが事もあろうにパルティアの婚約者の座を狙い、オートリアスにライラを充てがって、唆したそうです」
「なんと・・・」
カーライルの瞳に映るランバルディは、凄まじい怒りを顔に浮かべていた。
公爵はアレクシオスの母を亡くして以来独身のため、カーライルとスーラと計三人での晩餐である。
「お招きに預かり、感謝申し上げます」
「こちらこそ急に呼びつけたと言うのに、良く来てくださった」
同じ施設に宿泊しているのに大袈裟なことだと、側に付いているベイツは肩を竦めている。
「今夜は美味しい食事をともにしながら、少し込み入った話しをさせてもらいたいのだが、よろしいかな」
共同事業についてか?それとも・・・
「まずは食事を楽しもう」
カーライルは何故か蛇に睨まれた蛙のような気分に陥って、食事どころではなかったが、知ってか知らずかランバルディはスーラと歓談しながら、上機嫌で笑い声をあげていた。
食後、茶が運ばれると、いよいよ本題に入る。
「今日お呼び立てしたのは他でもない、我が次男アレクシオスが、勢いパルティア嬢にプロポーズをしたらしい。パルティア嬢とエンダライン侯爵が了承してくださるならこんなに目出度いことはないと考えているのだが、如何だろうかな」
カーライルもスーラも心の準備が出来ていたので驚くことはない。
冷静に、ただほんの少し確認の目配せを交わしあうと微笑んだ夫妻。
「私どもも了承いたします」
カーライルの言葉にランバルディが顔を上げる。
「早いな!?考えなくてもよいのか?」
「十分考えた結果でございます」
「パルティア嬢とは話ができているのかね?」
「いえ、しておりませんが、見ていれば娘の気持ちはわかります。たまの手紙もアレクシオス様のことばかりでございましたし。
ランバルディ卿はパルティアがアレクシオス様をお救いしたと思われていらっしゃると思いますが、私どももアレクシオス様に娘が救われたと考えております。
あのふたりがともにいることが最善で最良、初めからこうなるべきだったと。そうは思われませんか?」
スーラでさえ驚く、カーライルの熱い言葉をランバルディは復唱した。
「最善で最良!まさに、あのふたりは運命的に出逢い、お互いを支え合って立ち直った」
ぐすっと鼻を啜る音がした。
「あれは長男と違い、とにかく繊細でな。瓜二つだった母を亡くしたときも、心配で心配で目が離せなかった」
「ずっとお一人でお育てになられたのでございますか?」
スーラの優しい声音に、ランバルディは赤くなった目元を緩めた。
「そうだ。環境の変化に弱いアレクシオスが心配だということもあったが、なんというか、こう言うと気恥ずかしいのだが私の妻は生涯でただ一人、他の女性を迎えたいとはどうしても思えなくてな」
カーライルたちも仲が良い夫婦だが。
ふたりはランバルディと知り合ってから初めて、彼に好感を抱いた。
「あ、そういえば」
思い出したことがあり、カーライルが切り出す。
「オートリアス・ベンベローとライラ・シリドイラの現在なのですが、ご興味はおありでしょうか」
先ほどまでの照れくさそうな様子が一変し、ランバルディの視線が獰猛さを取り戻した。
「エンダライン家では大層優秀な猟犬を飼っていると聞いたことがある。
我が家でも調べているが、とんと足取りがつかめない。何かわかったのか?」
「お褒めに預かり光栄です。我がソダルの鼻は、犬並みに違いありませんからな。
しかし例えランバルディ卿の精鋭でも、あれはちょっとやそっとでは見つけられないはずです。
ベンベローの末息子が匿っているのですから」
「何?末息子とな?」
「ええ。調べたところ末息子エイリズが事もあろうにパルティアの婚約者の座を狙い、オートリアスにライラを充てがって、唆したそうです」
「なんと・・・」
カーライルの瞳に映るランバルディは、凄まじい怒りを顔に浮かべていた。
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