49 / 75
49
しおりを挟む
メンシアの新しい施設で会談したカーライル・エンダライン侯爵とランバルディ・セリアズ公爵は、パルティアがイエスと言ったらすぐ政略的婚約を結ぼうと約束を交わした。
パルティアと話すのはスーラ夫人である。
「それで、貴女はどう思っているの?」
「・・・アレクシオス様は素敵な方だと思っておりますわ」
「パルティア、私は貴女にもう辛い思いをしてほしくないの。貴族にはなかなか難しいことですが、パルティアには貴女が心から望む幸せな結婚を手にして欲しいわ」
「お母さま、ありがとうございます」
母と娘は手を取り合って微笑みを交わし合う。
「貴女の気持ちを教えてくれる?」
こくんと、ゆっくり頷いたパルティアが躊躇いながらも口にする。
「お慕い・・・しております」
「そう!それはよかったわ。ランバルディ様からアレクシオス様との婚約のお申し出があって。お受けしても?」
愛娘が俯きながらも目を瞠ったのがわかる。
小さく頷いてから、熱く火照る頬を掌で包んで、ふうっと息をついてから答えた。
「はい、よろしくお願い致します」
ランバルディは、エンダライン家からの返書を見てアレクシオスを呼んだ。
─どんな顔をするかな。
蕩けるように笑うだろうか─
幸せな想像をしながらアレクシオスを待ち侘びた。
「お呼びでしょうか」
来たっ!
「おお、アレクシオス。こちらへ。話があるのだよ」
部屋に入ったアレクシオスは怪訝な顔をした。何しろ父が、いままで見たことがないほど上機嫌なのである。
「そろそろ前に進んでも良い頃かと思ってな」
「前に進むですか?メンシアの事業ならあと少しで開業できますが」
「事業の話ではないぞ。おまえの婚姻だ」
えっ!と小さく声を漏らしたアレクシオスは、わかりやすく顔を顰めた。
政略結婚しろと言われたら断れない立場だが、今アレクシオスには大切な想い人がいる。父も知っているはずなのにと唇を噛んだ。
「そんな顔をするな。あのようなことがあったおまえに、私が選ぶのは一人しかいないだろう?」
父の言葉に視線を上げる。
「素晴らしい令嬢だから、お前が結婚しないと言うなら独身の私が申し込んでもいいな」
「え?ええっまさか?」
息子をからかったランバルディは表情を引き締めると、愛息の白い頬が赤く染まっていくのを眺める。
「冗談に決まっておる。
おまえがパルティア嬢にプロポーズしたと聞いてな、エンダライン侯爵に話を通しておいたのだ」
─うれしいだろう?ほうら、うれしそうな顔だ─
ランバルディは心のうちの笑いが止まらない。
古くからの家同士の対立に気を取られ、エンダライン家の当主家族の本質を見ようともしていなかったが、しがらみ無しで冷静に付き合えばシリドイラなどよりずっと上等で信頼できる人々だった。
「私はそもそものおまえの婚約者選びを間違えた。古き悪しき流れなど断ち切り、本当に結ばれるべき家を選んでおれば、あのような辛い目に遭わせることもなかったのだとずっと悔やんでおる。
しかし、おまえは見事に立ち直ってくれた!今はおまえが無事でいてくれることだけで十分だ。本当に愛おしいと思える相手と幸せになってほしいと、心からそう思っておる」
もちろん本心である。
しかし、素晴らしい政略的結婚でもあるとは口にしなかった。
「父上・・・うっうぅっ」
アレクシオスは父の愛に包まれて感極まり、小さく嗚咽を漏らす。
「パルティア嬢と結婚するな?」
こくこくと首を振ってから頷いた。
「よし、では早速結納を手配しよう」
「え?あのパルティア様のお気持ちを確かめなくともよいのですか?」
「既に確認済なのだ」
くふっと音を漏らしながら、ランバルディが楽しげに笑った。
パルティアと話すのはスーラ夫人である。
「それで、貴女はどう思っているの?」
「・・・アレクシオス様は素敵な方だと思っておりますわ」
「パルティア、私は貴女にもう辛い思いをしてほしくないの。貴族にはなかなか難しいことですが、パルティアには貴女が心から望む幸せな結婚を手にして欲しいわ」
「お母さま、ありがとうございます」
母と娘は手を取り合って微笑みを交わし合う。
「貴女の気持ちを教えてくれる?」
こくんと、ゆっくり頷いたパルティアが躊躇いながらも口にする。
「お慕い・・・しております」
「そう!それはよかったわ。ランバルディ様からアレクシオス様との婚約のお申し出があって。お受けしても?」
愛娘が俯きながらも目を瞠ったのがわかる。
小さく頷いてから、熱く火照る頬を掌で包んで、ふうっと息をついてから答えた。
「はい、よろしくお願い致します」
ランバルディは、エンダライン家からの返書を見てアレクシオスを呼んだ。
─どんな顔をするかな。
蕩けるように笑うだろうか─
幸せな想像をしながらアレクシオスを待ち侘びた。
「お呼びでしょうか」
来たっ!
「おお、アレクシオス。こちらへ。話があるのだよ」
部屋に入ったアレクシオスは怪訝な顔をした。何しろ父が、いままで見たことがないほど上機嫌なのである。
「そろそろ前に進んでも良い頃かと思ってな」
「前に進むですか?メンシアの事業ならあと少しで開業できますが」
「事業の話ではないぞ。おまえの婚姻だ」
えっ!と小さく声を漏らしたアレクシオスは、わかりやすく顔を顰めた。
政略結婚しろと言われたら断れない立場だが、今アレクシオスには大切な想い人がいる。父も知っているはずなのにと唇を噛んだ。
「そんな顔をするな。あのようなことがあったおまえに、私が選ぶのは一人しかいないだろう?」
父の言葉に視線を上げる。
「素晴らしい令嬢だから、お前が結婚しないと言うなら独身の私が申し込んでもいいな」
「え?ええっまさか?」
息子をからかったランバルディは表情を引き締めると、愛息の白い頬が赤く染まっていくのを眺める。
「冗談に決まっておる。
おまえがパルティア嬢にプロポーズしたと聞いてな、エンダライン侯爵に話を通しておいたのだ」
─うれしいだろう?ほうら、うれしそうな顔だ─
ランバルディは心のうちの笑いが止まらない。
古くからの家同士の対立に気を取られ、エンダライン家の当主家族の本質を見ようともしていなかったが、しがらみ無しで冷静に付き合えばシリドイラなどよりずっと上等で信頼できる人々だった。
「私はそもそものおまえの婚約者選びを間違えた。古き悪しき流れなど断ち切り、本当に結ばれるべき家を選んでおれば、あのような辛い目に遭わせることもなかったのだとずっと悔やんでおる。
しかし、おまえは見事に立ち直ってくれた!今はおまえが無事でいてくれることだけで十分だ。本当に愛おしいと思える相手と幸せになってほしいと、心からそう思っておる」
もちろん本心である。
しかし、素晴らしい政略的結婚でもあるとは口にしなかった。
「父上・・・うっうぅっ」
アレクシオスは父の愛に包まれて感極まり、小さく嗚咽を漏らす。
「パルティア嬢と結婚するな?」
こくこくと首を振ってから頷いた。
「よし、では早速結納を手配しよう」
「え?あのパルティア様のお気持ちを確かめなくともよいのですか?」
「既に確認済なのだ」
くふっと音を漏らしながら、ランバルディが楽しげに笑った。
197
あなたにおすすめの小説
婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!
パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる