【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

文字の大きさ
69 / 75

69

しおりを挟む
 上昇の波に乗るエンダラインとは反対に、オートリアスとエイリズを勘当したベンベロー侯爵家、ライラを修道院に入れたシリドイラ侯爵家はランバルディから強い圧をかけられ続け、落ちぶれる一方であった。
 両家とも高額な慰謝料を払い、領地の一部を手放す羽目になっただけではない。一時、地位を投げ売った純愛と持て囃された分、アレクシオスたちの小説が出て、世間の見方が変わったあとの掌返しが凄まじかったのだ。

 ゾーナ・べンベロー侯爵は責任を取り、嫡男アルセイドに爵位を譲ると言ったが、はっきりと拒否された。

「こんな時にふざけるのはやめてもらいたい!何が責任取るだ、私に押し付けるだけではありませんか。誰もこんな醜聞まみれの爵位などいりませんよ。もとは父上たちがオートリアスやエイリズを甘やかしたせいではありませんか!私にはあれほど厳しかったというのに。
爵位を譲るなら、ご自身で立て直して清廉潔白なベンベローに戻してからにしてください」

 自分でもわかっている。
しかし怒り狂った長男にここまではっきり言われ、ゾーナは酷く落ち込んだ。

 社交界でも冷たくあしらわれている。
人の口に戸は立てられないもの。三男が次男を陥れてエンダライン家を我が物にしようとしたと。そして次男はうまうまと騙された挙げ句、婚約者を裏切り駆け落ちという体たらくは、いつしか盲の恋に落ちた愚か者とその地位を狙った強欲な兄弟と囁かれるようになった。

 アルセイドは社交界を嫌い、屋敷に引きこもるようになった。
婚約者にも見切りをつけられたが、構う素振りも見せず、最近は食事も部屋に運ばせてまったく部屋から出てこない。

「なぜ、どこで間違えたのだろう」

 どれほど考えてもアルセイドが言うほど下の二人を甘やかした記憶はない。
同じように育てたはずなのに、なぜこんなにも行く道が変わってしまったのかと、わからないままに頭を垂れ、後悔した。

 先に捕縛されたエイリズを銀山にやり、オートリアスも同じところに送ってやった。
すると銀山の責任者からすぐ連絡がきた。

「オートリアスを他へやってくれ」

 オートリアスがエイリズを殺めそうになったと。エイリズは重症を負いしばらく働けないが、それより皆がオートリアスに怯えてともに山に入るのを嫌がるから仕事にならないと言う。

ゾーナにもオートリアスの気持ちがわからないでもない。
エイリズが邪な企てをしなければ、今パルティアの隣にいたのはオートリアスだったのだから。



「しかし、それをやってはダメだ。仕方ないな」

オートリアスを深く、それにしては採掘量が少ない金山にやることにした。
元は活気のある山だったが、いつしか採れる量が少なくなり、最近は万一また以前のような鉱脈が見つからないかという僅かな期待で細々と掘るだけのところである。

エイリズの見舞いに行くわけでもなく、兄弟を引き離す手配をして満足する。
このふたりが掘った程度では払った慰謝料の何百万分の一にしかなりそうにないが、二度と顔を見ずに済むならそれで十分だと、ゾーナはいつの間にか我が子より我が身の保身だけが大事になっていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

処理中です...