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8話
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レンラ子爵家に戻ったナミリアは、猫を抱きしめながらこんこんと眠った。
一度は受け入れると決めたが、心が悲鳴をあげた。
そんなナミリアのそばに陣取ったトレは、頬を伝う涙をぺろりと舐めてやる。まるで慰めるように。
「トレ、うん、ありがとうね」
どれほど寂しく悲しく胸がつぶれそうでも、ナミリアを必要とするトレのあたたかさがナミリアを引き止めた。
とはいっても、母に気分転換だと街へ買い物に連れ出されると、ディルーストに似た背格好を見かけただけで立ち止まったまま泣いてしまう。
母とカフェに行って一番人気のケーキを食べると、ディルーストはもうおいしいものを食べることができないのに自分は!と、夜中にひとり罪悪感に苦しんだりもする。
暗がりの嗚咽に気づくのはいつも小さな白猫だ。
そばに寄り添い、ナミリアの腕の中に入り込むあたたかな毛玉がミャアと鳴く。
「泣かないで」とでも言うように。
危ういナミリアの心は辛うじてトレの存在で均衡を保っていた。
「なあリーエ。ナミのことどう思う?」
「どうって?食事も以前ほどではないけど食べてくれているし、誘えば買い物にも行くようになったからだいぶいいのじゃなくて?」
答えを聞いているのか、考え込むジョリーズは視線を床に落としたと思うと、天井を見つめる。
「うーん」
「何?言いたいことがあるならおっしゃいな」
「無理してるよな」
「・・・しているに決まってるわ。まだ三月も経っていないのよ」
「だよなあ。新しい婚約は早すぎるか」
「そうね」
テリーエが冷めた視線を向けると、ジョリーズは目を逸らした。
「だよな・・・」
また暫く考え込んでから、おずおずと。
言い訳がましく話しだした。
「それはわかっているんだが、ちょうど良い年頃の新たな婚約者候補というのが見つかってな」
「・・・・・」
「ほ、ほら!話しくらい聞いてみてもいいかと思ったんだよ。なかなかいないぞ子爵を継いだばかりの若い」
「そうね。確かになかなかいないわ。だからこそ、そんな好条件が残っているのがおかしいと思うのだけど?」
「そこは、ほら、婚約者だった令嬢が浮気して破棄したそうなんだよ」
責められているように感じて、両手をバタバタ動かすジョリーズには、気の毒なほど小物感が漂っている。
ナミリアは母テリーエは聞き役と思っているが、それは常にジョリーズが報告がてらテリーエに話しかけているからに過ぎない。
表向きはジョリーズが仕切っているが、実はそのすべてを、一見おとなしく楚々と笑うテリーエが握る夫婦であった。
「婚約者が浮気?それは誰から聞いたの?」
「本人から」
「本人?」
「ああ。本人が子爵だから本人からに決まってる・・・だろ?」
急に自信がなくなり、声が途切れる。
「紹介者は?」
「あー、どこかの夜会で誰かが紹介してくれたんだが、誰だったかな」
「あーなーたっ!」
「ひっ、ひゃいっ」
「素性をきちんと調べておくこと!それにまだ早いと伝えて嫌な顔するようなら即却下!」
「わかった!すぐやるよ」
口をへの字にしたテリーエが深く頷いたのを見て、ジョリーズは自分の執務室から駆け出して行った。
一度は受け入れると決めたが、心が悲鳴をあげた。
そんなナミリアのそばに陣取ったトレは、頬を伝う涙をぺろりと舐めてやる。まるで慰めるように。
「トレ、うん、ありがとうね」
どれほど寂しく悲しく胸がつぶれそうでも、ナミリアを必要とするトレのあたたかさがナミリアを引き止めた。
とはいっても、母に気分転換だと街へ買い物に連れ出されると、ディルーストに似た背格好を見かけただけで立ち止まったまま泣いてしまう。
母とカフェに行って一番人気のケーキを食べると、ディルーストはもうおいしいものを食べることができないのに自分は!と、夜中にひとり罪悪感に苦しんだりもする。
暗がりの嗚咽に気づくのはいつも小さな白猫だ。
そばに寄り添い、ナミリアの腕の中に入り込むあたたかな毛玉がミャアと鳴く。
「泣かないで」とでも言うように。
危ういナミリアの心は辛うじてトレの存在で均衡を保っていた。
「なあリーエ。ナミのことどう思う?」
「どうって?食事も以前ほどではないけど食べてくれているし、誘えば買い物にも行くようになったからだいぶいいのじゃなくて?」
答えを聞いているのか、考え込むジョリーズは視線を床に落としたと思うと、天井を見つめる。
「うーん」
「何?言いたいことがあるならおっしゃいな」
「無理してるよな」
「・・・しているに決まってるわ。まだ三月も経っていないのよ」
「だよなあ。新しい婚約は早すぎるか」
「そうね」
テリーエが冷めた視線を向けると、ジョリーズは目を逸らした。
「だよな・・・」
また暫く考え込んでから、おずおずと。
言い訳がましく話しだした。
「それはわかっているんだが、ちょうど良い年頃の新たな婚約者候補というのが見つかってな」
「・・・・・」
「ほ、ほら!話しくらい聞いてみてもいいかと思ったんだよ。なかなかいないぞ子爵を継いだばかりの若い」
「そうね。確かになかなかいないわ。だからこそ、そんな好条件が残っているのがおかしいと思うのだけど?」
「そこは、ほら、婚約者だった令嬢が浮気して破棄したそうなんだよ」
責められているように感じて、両手をバタバタ動かすジョリーズには、気の毒なほど小物感が漂っている。
ナミリアは母テリーエは聞き役と思っているが、それは常にジョリーズが報告がてらテリーエに話しかけているからに過ぎない。
表向きはジョリーズが仕切っているが、実はそのすべてを、一見おとなしく楚々と笑うテリーエが握る夫婦であった。
「婚約者が浮気?それは誰から聞いたの?」
「本人から」
「本人?」
「ああ。本人が子爵だから本人からに決まってる・・・だろ?」
急に自信がなくなり、声が途切れる。
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「あー、どこかの夜会で誰かが紹介してくれたんだが、誰だったかな」
「あーなーたっ!」
「ひっ、ひゃいっ」
「素性をきちんと調べておくこと!それにまだ早いと伝えて嫌な顔するようなら即却下!」
「わかった!すぐやるよ」
口をへの字にしたテリーエが深く頷いたのを見て、ジョリーズは自分の執務室から駆け出して行った。
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