【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる

文字の大きさ
44 / 100

44話

しおりを挟む
 ナミリアはローズリーに前向きに考えると言ったのだが、ミヒアたちの反応が今ひとつなのが気になっていた。

「特にこれということはないけれど、なにか腑に落ちないというかね」

 一から商売を叩き上げて来たミヒアが言うのだから、自分は気づかない何かがあるのだろうが。

「でも私もそろそろ前に進みたいわ」

 ディルーストの笑顔は、思い出せばまだナミリアの胸を痛めた。
似た姿形の青年を見ると息苦しくもなる。

 しかし穏やかなローズリーとの時間は、確実にナミリアを癒やし、心の準備を整えてくれたのだ。


 そんな頃だ。
 ドレイン・トロワーをローズリーに紹介されたのは。

「一番世話になっている友人なんだ」

 そうローズリーは言った。
 ローズリーの友人には何人か会ったが、ドレイン・トロワーとは初対面だ。
休みの日だというのに文官の制服を纏ったドレインは、容姿の良いローズリーと比べると平凡で、灰色の髪と瞳にそばかすが散らされた肌のせいか、くすんでさえ見える。
 しかし人懐こそうな笑顔と明るい響きの声に、ナミリアはすんなりと心を開くことができた。

 世間話のあと、ドレインが訊ねる。

「そういえばレンラ令嬢は女王陛下のコンテストで入賞されていらっしゃるそうですが、何か仕事をしているのですか?」
「いいえ、今はまだ先生のもと、講師の資格を取るための勉強中ですわ」

 返ってきた言葉はドレインが知るどれとも違っていた。

「え、あ、そうでしたか」

 何故かわからないが、ナミリアは事業のことを隠していると気づいて、話を合わせていく。

「ナミリア様は先生が一番弟子と褒めるほどの腕前なんだよ」

 ローズリーは疑うこともなく、そう付け加えた。ナミリアはそれを肯定するようこくり。
 このことからドレインは、ナミリアとミヒア夫人たちはナミリアの資産状況を徹底的に隠し、ドレインを見極めていると読む。

(なかなか慎重だな)

 将来大事業に育つかもしれない事業の経営者というのに、それをおくびにもみせないナミリアは、見た目とは違い、腹も据わっていると評価した。



「あ!ちょっと席を外すよ」

 知り合いらしい男が手を振っているのを見たローズリーが席を立った。

「どなたかしら」

 ぽつんと漏れた声が可愛らしいと、思った瞬間、ドレインはハッとする。

(何考えてるんだ私は!)

 襤褸を出さないよう集中し直した。

「レンラ令嬢は今年もコンテストに出店されるのですか?確か昨年はご自身で用意された糸をお使いになられたと聞いておりますが」
「まあ!よくご存知ですわね」

 ナミリアの目に警戒が浮かぶ。

「ええ、私の上司の奥様が女官をされておりましてね、コンテストの審査員でもあるのです。毎度コンテスト入賞者についてご夫婦からいろいろと聞かされるものですから、すっかり詳しくなってしまいました」

 嘘にほんの少しの真実を含ませると、真実味が増すものだ。

「左様でございましたか」

 ナミリアの警戒はみるみる解かれていった。

「ところでローズリーとはいつ頃婚約されるのです?」
「まだそこまでお話しは進んでおりませんわ」

 そう言ったナミリアがフッとため息を吐いた。
ローズリーのテンションとの落差が気になるドレイン。
 しかし、それを初対面のナミリアにどう訊ねればいいものやら考えあぐねるうち、ローズリーが戻ってしまう。

 その手には小さな包み。

「どうしたそれ」
「ああ。私のジャムを買ってくれている商会なんだが、こうやって最初から包んだものを持ち歩いて宣伝しているそうなんだ。うちも用意したらとアドバイスされてね」
「先だってお話されていたジャムですの?」
「ああそうだよ。少しづつだけど売れるようになってきたんだ」

 うれしそうに邪気のない笑顔を浮かべるローズリーを見て、ドレインは何故だか悲しみが込み上げていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう
恋愛
ミルチアは語って聞かせる。 かつて身をやつした最初で最後の恋の話を。 はじめて愛した人は、嘘偽りで塗り固められた人。 騙されていたと知ったとき、ミルチアは全てを捧げ、そして全てを捨てて逃げ出した。 だけど嘘から出た誠とはよくいったもの。ミルチアは偽りの関係からかけがえのないものを得る。 そうしてミルチアは流れ着いた港町にて一人で子を生み育てていた。 このまま親子二人で穏やかに暮らせていけたらと、そんなささやかな望みを抱くことも許されないのだろうか。 なぜ探したのか、どうして会いにきたのか。 もう二度とその双眸を見ることはないと思っていたのに……。 ミルチアが綴る恋の物語に、あなたも耳を傾けてみませんか。 小説家になろうで開催された、氷雨そら先生主催のシークレットベビー企画参加作品です。 (すでに期間は終了しております) 誤字脱字……( *ˊꇴˋ)ゴメンネ! すでに完結している作品ですが、感想欄の管理のために数話ずつ投稿します。 だいたい1回の投稿につき5話ずつくらいです。 よろしくお願いいたします🙏✨ 今回もプロローグと最終話に感想欄を解放します(。uωu))ペコリ💕

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...