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58話
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ロリーンが訪問する約束だったが、翌日のレンラ子爵にはロリーンと並びミヒアも顔を出した。
「レンラ子爵、ご無沙汰しております」
「ミヒア夫人、ナミリアが大変世話になりまして」
「とんでもない!お世話になっているのは私たちのほうですわ。ねえロリーン」
「ええ、ナミリア様のお陰で、新しい事業も軌道に乗り始めておりますし」
「ところでナミリアさんの様子は如何でしょう?」
ジョリーズに訊ねると、困ったような顔をする。
「それが、昨夜から食事もせずに閉じ困りまして、理由を聞いても答えないのです」
「「まあ」」
自分ならナミリアの心の痛みがわかると思っていたミヒアだが、限りなく黒に近いとはいえ、まだ真偽がはっきりしないというのにほぼ一日食事ができないほど憔悴しているとは。
「ジョリーズ様、ご在宅でいらっしゃるのでしたらテリーエ様もお呼び頂けないでしょうか」
「ああもちろんそのつもりです、少しお待ちを」
ジョリーズは侍従に目配せして、妻テリーエを呼びにやる。
暫くしてカツカツと小さな足音が聞こえてきた。
「お待たせいたしました」
「テリーエ様!」
「ミヒア様!」
何かが通じ合ったふたりは手を取り合って、視線を交わすと無言で頷き合う。
ジョリーズが指し示したソファに腰を下ろしたミヒアは、ロリーンに視線をやったあと、口を開いた。
「それではまず今ナミリアさんに起きていることをご説明しますわ」
「・・・・・」
黙り込んだジョリーズに対して、怒りで頬を真っ赤に染めたテリーエは拳を握りしめた。
「だから私はこの婚約は虫が好かないと言いましたのに、あなたがっ」
「う、うん・・・すまない。そんな男だとは」
「ちゃんと調べてと言いましたわよね?」
「調べはしたんだよ、本当だ」
妻からのきつい追及に、おろおろと答え始めたジョリーズに、手を差し伸べたのはミヒアだった。
「テリーエ様、落ち着いてくださいな。私もナミリアさんと事業をする上で、ワンド子爵のことは調べましたのよ。ただ、相手が小さな別邸のメイドとして潜り込んでいたために、把握出来なかったのです。・・・もう一つ、お詫びを申し上げねばなりません」
珍しくミヒアが言い淀んだ。
「実はその、ワンド子爵を唆した女というのが、私の姉の娘でしたの。ディルーストの葬儀の時にナミリアさんへの補償の話を盗み聞きされて。この話の発端は、つまり私なのです。本当に本当に申し訳ございません」
立ち上がって深々と腰を折る。
ジョリーズはそんなミヒアを見上げただけだったが、テリーエは即座に立ち上がるとミヒアのそばに寄り、体を起こすよう肩を抱いた。
「いいえ、ミヒア様のせいてはございません。その娘の性が悪いことこそが発端ですわ!それにワンド子爵もよ!厚かましいったらないわ」
湧き上がる怒りで口調が乱れていく。
「あなた、婚約の話は即白紙よ!よろしいわね?」
「はい」
小さな声でジョリーズが答えたのだが、割り込んだのはロリーンだ。
「あの。ワンド子爵は今は本当にナミリア様を大切に想われているそうですが、それは」
「ロリーン様。私は今がそうだから許すとは言えませんわ。何事もはじめが肝心、違いますかしら」
キッとテリーエがロリーンを見つめている。
「そ、そうですが、ナミリア様のお気持ちは」
「ナミリアが子爵を慕っていようが、命の危険を及ぼしたかも知れない男に嫁がせるわけには詣りません!」
毅然と言放った。
「レンラ子爵、ご無沙汰しております」
「ミヒア夫人、ナミリアが大変世話になりまして」
「とんでもない!お世話になっているのは私たちのほうですわ。ねえロリーン」
「ええ、ナミリア様のお陰で、新しい事業も軌道に乗り始めておりますし」
「ところでナミリアさんの様子は如何でしょう?」
ジョリーズに訊ねると、困ったような顔をする。
「それが、昨夜から食事もせずに閉じ困りまして、理由を聞いても答えないのです」
「「まあ」」
自分ならナミリアの心の痛みがわかると思っていたミヒアだが、限りなく黒に近いとはいえ、まだ真偽がはっきりしないというのにほぼ一日食事ができないほど憔悴しているとは。
「ジョリーズ様、ご在宅でいらっしゃるのでしたらテリーエ様もお呼び頂けないでしょうか」
「ああもちろんそのつもりです、少しお待ちを」
ジョリーズは侍従に目配せして、妻テリーエを呼びにやる。
暫くしてカツカツと小さな足音が聞こえてきた。
「お待たせいたしました」
「テリーエ様!」
「ミヒア様!」
何かが通じ合ったふたりは手を取り合って、視線を交わすと無言で頷き合う。
ジョリーズが指し示したソファに腰を下ろしたミヒアは、ロリーンに視線をやったあと、口を開いた。
「それではまず今ナミリアさんに起きていることをご説明しますわ」
「・・・・・」
黙り込んだジョリーズに対して、怒りで頬を真っ赤に染めたテリーエは拳を握りしめた。
「だから私はこの婚約は虫が好かないと言いましたのに、あなたがっ」
「う、うん・・・すまない。そんな男だとは」
「ちゃんと調べてと言いましたわよね?」
「調べはしたんだよ、本当だ」
妻からのきつい追及に、おろおろと答え始めたジョリーズに、手を差し伸べたのはミヒアだった。
「テリーエ様、落ち着いてくださいな。私もナミリアさんと事業をする上で、ワンド子爵のことは調べましたのよ。ただ、相手が小さな別邸のメイドとして潜り込んでいたために、把握出来なかったのです。・・・もう一つ、お詫びを申し上げねばなりません」
珍しくミヒアが言い淀んだ。
「実はその、ワンド子爵を唆した女というのが、私の姉の娘でしたの。ディルーストの葬儀の時にナミリアさんへの補償の話を盗み聞きされて。この話の発端は、つまり私なのです。本当に本当に申し訳ございません」
立ち上がって深々と腰を折る。
ジョリーズはそんなミヒアを見上げただけだったが、テリーエは即座に立ち上がるとミヒアのそばに寄り、体を起こすよう肩を抱いた。
「いいえ、ミヒア様のせいてはございません。その娘の性が悪いことこそが発端ですわ!それにワンド子爵もよ!厚かましいったらないわ」
湧き上がる怒りで口調が乱れていく。
「あなた、婚約の話は即白紙よ!よろしいわね?」
「はい」
小さな声でジョリーズが答えたのだが、割り込んだのはロリーンだ。
「あの。ワンド子爵は今は本当にナミリア様を大切に想われているそうですが、それは」
「ロリーン様。私は今がそうだから許すとは言えませんわ。何事もはじめが肝心、違いますかしら」
キッとテリーエがロリーンを見つめている。
「そ、そうですが、ナミリア様のお気持ちは」
「ナミリアが子爵を慕っていようが、命の危険を及ぼしたかも知れない男に嫁がせるわけには詣りません!」
毅然と言放った。
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