闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao

文字の大きさ
18 / 172
第二章:ウラノスとウロボロス

うまい話には大体裏がある

しおりを挟む

 ウラノスは、もうずっとこの辺りを統治してきたし、色々なクランに挑まれても決して負けることのない実力のあるクランだ。そんな彼らが負ける姿なんて、誰も想像できない。

 統治だの支配だの言っても彼らは決して横暴ではなく、いつだってその地に住まう者たちに寄り添ってきた。
 サンセール団長をはじめとしたクランメンバーは定期的にあちこちの街や村に足を運び、住んでいる人たちが少しでも暮らしやすいように「何か困っていることはないか」と聞きに行く。ウラノスは名実ともに、立派なクランなんだ。彼らに不満を抱く者なんてほとんどいなかった。


 けど、今回は状況が悪すぎた。
 絶対的な強さを誇る団長が不在で、畳みかけるように連戦した後。
 更に最悪だったのは、敵対するウロボロスのリーダーのマックが天才ゲニーであったこと。

 誰もが信じられなかった、信じたくなかった。
 固い地面に倒れ込んだまま起き上がれないウラノスのメンバーたちを見ても、高笑いを上げるマックに頭を踏みつけられて倒れ伏すエレナさんを見ても。
 目の前の光景が信じられなかった。


 突出するマック、ティラ、他の近接戦闘を得意とする前衛たちをロンプとヘクセ、他のメンバーが魔術と法術で援護。これが彼らの主な戦法らしい。

 領地戦争は基本的に大将を仕留めれば勝ちだ。だから、彼らの攻撃は全て現在のウラノスの責任者であるエレナさん一人に絞られた。

 前衛を辛うじていなすことはできても、即座に魔術での援護が飛んでくるし、攻撃を叩き込めば賺さず法術で防壁を張られる。幾重にも重ねてかけられた防壁の法術は、ウラノス側の魔術はもちろんのこと、エレナさんの剣撃さえまったく通さなかった。

 マックは地面に倒れたエレナさんの側頭部を靴の裏でグリグリと踏みつけ、高らかに笑い声を上げる。


「あ~あ、あのお強いエレナ様がこんな惨めな姿を晒しちまってよぉ! どれだけ腕に覚えがあろうと、天才ゲニーの前じゃクズも同然なんだよ!!」
「卑怯だぞマック、てめぇ!」
「そうよ! サンセールさんがいないだけじゃなく、連戦後にだなんて……こんなの認められないわ! ここの土地はウラノスのものよ!」
「ハハッ、クズ共が何をどう騒ごうがこれは領地戦争だ。負けりゃ土地を明け渡す、そういう決まりだろうが。今日からは俺がココのルールだ、従わねぇってんなら始末するまでだが、それでもいいんだな?」


 当然ながら、状況を見守っていた野次馬たちは認められないと頻りに声を上げたが、マックが大剣を持って近付いてくると彼らも何も言えなかった。この世界では、基本的に土地の支配者がルールだ。支配者が許可すれば傷害や殺人だって罪にならない。
 自分に従わないなら始末する――それはつまり、殺すということ。


「け、けどよぅ、団長さんが不在の時に……!」
「これはわたしたちの勝利によってたった今決まったことよ。逆らう者は容赦なく処罰の対象になりますから、大人しく言うことを聞いた方がいいわ」


 大剣を片手ににじり寄ってくるマックの後ろからは、ティラが当たり前のようにそんな言葉を続けた。ほんの少し前までは普通に顔を突き合わせて、普通に言葉を交わして、普通に一緒にいたのに――わずか数日でこうも立場も関係も変わってしまうものなのか。


「へへっ、どうなることかと思ったけどやっぱりマックはスゲェな!」
「俺たちも今日からこの辺りの支配者なんだろ? 最高だぜ!」


 すると、ウラノスに連戦を仕掛けて叩き伏せられた他のクランの面々が立ち上がってそんなことを言い始めた。こいつらがエレナさんたちを疲弊させなけりゃ勝負の行方なんてわからなかったはずなのに、非常に憎たらしい。……それが作戦と言えばそれまでだけど。

 でも、そんな連中の昂揚感をぶち壊すのもまたウロボロスの連中だった。ヘクセは彼らを振り返ると、ゴミでも見るような目をしながらうっすらと笑う。


「何を寝言をほざいてますの? この辺り一帯の土地は全てわたくしたちウロボロスのもの、あなたたちのような底辺に支配権なんてありませんわよ」
「な……っ!? そんなわけあるか! 俺たちはマックに仲間にならないかって誘われて今回の作戦に乗ったんだぞ!?」
「いやですわ、正式にウロボロスに招待されたわけではなく、あくまでも協力者風情が何をどう勘違いしたらそんなお考えになるのかしら。これだから底辺は理解がなくて困りますわ」
「きゃはははっ! バッカでぇ!!」


 ヘクセとロンプの、その口を挟む暇もないほどの口撃に他のクランの連中は、すっかり愕然として勢いを失ってしまった。あーあ、うまい話には裏があるってよく言うだろ、それだよ、それ。

 マックはそんな連中に一瞥を向け、ひとつ鼻で笑ってから大剣を肩に担いだ。


「手始めに、この街にあるオンボロ孤児院を撤去する。才能に貧しいクズどもが集まるあんな場所、俺が治める土地には相応しくないんでね」
「んな……ッ!」
「そこのお嬢ちゃん。学校に入りたかったそうだが無駄なことはやめておけ、底辺のクズに育てられたガキなんかを入れる枠がもったいなさ過ぎるからなァ。学校ってのは優秀な人間に育てられた優秀な子供が通う場所なんだよ」


 オンボロ孤児院ってのは、間違いなくオレの職場だ。あそこがなくなっちまったら孤児たちはどうやって生きていけばいいってんだ。
 ――横暴だ、いくらなんでも横暴過ぎる。アンが学校に入るためにどれだけ頑張って勉強してきたことか。みんな、親がいないなりに身を寄せ合って生きてきたのに。


「そんな……だって、あたし……たくさん勉強、して……」
「お涙頂戴はヨソでやってくれるぅ? こちとら底辺のガキに構ってやるだけの無駄な時間はないの、無駄な時間は、な?」
「――っ! なによ、あんたなんか……っあんたなんかあああぁ!!」


 さっきまで不安に震えていたアンは、今や抑え難い憤りでその身を震わせている。あろうことか、固く拳を握って感情のままマックに飛びかかった。慌てて手を伸ばすけど、それよりも先にアンの身体が手元をすり抜けていく。


「待てアン、やめろ!!」
「天才様に逆らうやつがどうなるか、お嬢ちゃんを使って教えてやるよ!!」


 マックはそう声を張り上げながら、利き手に持つ大剣を思い切り振り上げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

ワケありくんの愛され転生

鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。 アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。 ※オメガバース設定です。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

処理中です...