闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

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第四章:呪われた天才少年

グレイスとカース、対極に在る者

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 その後、自宅に戻るエフォールを見送ったオレたちはギルドに報告を済ませてから宿に戻った。その頃には太陽は傾き、辺りは夕陽に照らされ始めていた。

 早めの夕食を済ませて少し、話題は自然とエフォールのことに向く。まあ、そりゃそうだ。


「「カース?」」


 そこで、ヴァージャの口から出た耳慣れない単語がそれだった。フィリアとほぼ同時に疑問を口にすると、ヴァージャは部屋の寝台に腰掛けたまま小さく頷いた。その表情は昼間同様にやや複雑で、あまり話したくないように見える。


与える者グレイスの反対の者のことをそう呼ぶ、ヒトの言葉で“呪い”という意味だ。人は誰しも他者を羨み、心の底に嫉妬を飼うことはある。しかし、それらの感情が行き過ぎれば次第に精神を蝕み、様々な想念に取り憑かれる。彼らの場合はその段階に達すると恨みや憤り、嫉妬などの感情が対象へと纏わりつき、能力を抑制してしまうのだ」


 何事も行き過ぎれば毒になるって、よく言うからなぁ……カースっていう連中に過剰に恨まれたりすると、いくら天才でも弱っちまうっていうのは新発見だ。フィリアは不安そうに表情を曇らせてふわふわのスカートをぎゅ、と握り締めた。オレにはよくわからないけど、力を持ってる者にしてみれば冗談じゃない存在だよな。自分の能力を抑制されちまうんだから。


「そ、その人たちって……どういう人たちなんですか? ごく普通の、人間……?」
「今の世で無能と言われている者たちがそうだ。リーヴェのように他者に力を与える方に進む者もいれば、逆に他者から力を奪う方に進む者もいる」
「えっ、じゃあオレが今から誰かをメチャクチャ恨んだりしたらそっちになることも……あるの?」


 恐る恐るといった様子でフィリアが向けた問いへの返答は、予想だにしないものだった。もし両方を使い分けれるとしたらなかなかに便利なんじゃないかなって、ほんのり思ってると、当のヴァージャが眼光鋭く睨みつけてくるものだから思わず思考が止まった。


「お前は日頃から自分にできることがないだの何だの、そのようなことばかり考えているからできれば話したくなかったのだ。グレイスと違い、カースの力は色々と危険すぎる」
「き、危険?」
「人を呪わば穴二つ、と昔はよく言ったものだ。カースたちの能力は、憎悪する対象と共に必ず己の身をも滅ぼすことになる。あの少年……エフォールと言ったな、今のままでは彼も危険だが、彼を恨む者も危険に晒されていると言える」


 なんか、穏やかじゃない話だな。だからエフォールのことをあんなに気にかけてたのか。オレやフィリアには特に何も見えなかったけど、神さまの目には何かが見えてたんだろう。

 フィリアは天才ゲニーをクランに勧誘したいみたいだし、これはこのままエフォールの問題に首を突っ込む流れだな。まあ、別にいいんだけどさ、オレたちのクランのリーダーはフィリアなんだし、余程のことじゃない限りは彼女の意向に従うさ。エフォールが危険って言われると……やっぱり気になるしな。


 * * *


 隣の部屋に戻っていくフィリアを見送ってから、簡単に情報を整理することにした。寝台の片方に乗り上げ、ベッドヘッドに寄り掛かりながら荷から取り出した小型の手帳にペン先を走らせていく。

 グレイスのことはもう今更復習するまでもなく、好意を持った対象の能力を引き出す力を持った連中で、オレがこれ。
 カースってのは、逆に憎悪とか恨みとか……簡単に言うと嫌いになった相手の能力を低下させたり、抑制する厄介な力の持ち主で、危険でもある。……うーん。


「なあ、ヴァージャ。カースが危険ってのはどういう意味だ?」


 危険って一言で言われても、あまりにもふわっとしてて何がどう危険なのかがいまいちハッキリしない。直球でそう問いかけると、窓から外を眺めていたヴァージャがこちらを振り返った。窓枠に肘を預け、寄りかかるようにして佇む様も異様に画になるのがなんとなくムカつく。


「……お前は、この世界の魔物というものがどう誕生したか知っているか?」
「え、魔物?」
「その多くは、野生動物が突然変異し数を増やしたものだが、中には元が人間だった種もある。激しい憎悪や怨恨に駆られ、それらが一定の基準を超えるとカースは精神崩壊を起こし、その心身を魔物に変える。……エフォールを憎悪している者も、そうなる危険性を孕んでいるのだ」
「に、人間が魔物に……?」


 もしそんなことになったら……狂暴な魔物が街の中に現れるわけか。クランに所属してる者なら自分の身くらい自分で守れるだろうけど、そうじゃない一般人は抵抗もできずに殺されるだけだ。それに、ヴァージャのこの説明から察するに……オレも、なろうと思えば魔物になれちまうってこと、だよな……。

 そこまで考えたところで、再びヴァージャの表情が険のあるものに変わった。やめろやめろ、ただでさえ整い過ぎた顔面してるんだからあんたがそういう顔すると本気で怖いんだって。


「だから、お前にはそういう力を持ってほしくないと言った。力があれば人は容易に変わる、憤りも湧きやすくなる。こちらの気も知らずにああだこうだと簡単なことを自らややこしくして――」
「わ、わかったわかった、もう言わないって、悪かったよ」


 ……なんて言うか、ヴァージャっていつもそういうところまでちゃんと考えてくれてるんだな。

 カースのことを話したくなかったのも、下手すりゃオレがカースの力を手に入れようとするかもしれないって考えたからだろ。変に力を与えたくなかったのだって、オレがそうした感情を持つことが危険だって知ってたからなわけで。

 実際、ヴァージャと出会ってなかったらオレだってマックとティラのこと激しく恨んでたかもしれないし。……いや、その前にとっくに死んでると思うんだけどさ。

 こうまで色々考えてくれてるんだ、オレもあんまりうだうだ言って心配ばっかりかけていられないな。

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