闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao

文字の大きさ
47 / 172
第四章:呪われた天才少年

天才VS天才

しおりを挟む

 この場がいくら街はずれであっても、朝っぱらからの騒動に街の住民たちが気付かないはずもなく。ヴァージャの後ろには野次馬らしき一般人たちの姿が見えた。その中にはアンサンブルのメンバーもちらほらと窺える。

 ティラは思い通りにならない身に歯噛みしながら、自分の後方を睨むように視線を横に動かした。


「また、あなた……!? いつもいつも、邪魔をして……ッ!」
「またか、と言いたいのはこちらの方だ。いい加減お前たちの所業は目に余る」


 忌々しそうなティラの声に、ヴァージャはいつもと変わらず涼しい声で返答をひとつ。次に片手をゆっくりと掲げると、ティラだけでなく周囲にいたウロボロスの面々も、まるで空から紐で吊るされるかのように宙に持ち上げられた。続いて磁力に引き寄せられたみたいにひと塊になってしまうと、門の方へと思い切り放り投げられる。


「きゃあああぁ!」
「な、何すんのよう!」


 その拍子にヘクセやロンプから悲鳴と文句が上がったが、ヴァージャの方に特に気にしたような様子はなかった。代わりに彼らをひと睨みして一言。


「やれるだけの度胸があるのならかかってくるといい」
「うっ……」


 ウロボロスのメンバーなら、ヴァージャの力も強さも痛いほどに知っていることだろう。スターブルの街でのあの騒動は、未だ記憶に真新しい。あのマックが赤子の手を捻るようなものだったんだ、自分たちが敵う相手だとは――誰も思っていないようだった。ヘクセやロンプはもちろん、ティラや他にいる二十人近い面々は一斉に押し黙ってしまった。

 そして、マックは――馬乗りになられていた状態からは何とか脱したようだったけど、本来の力を取り戻したエフォールを相手にすっかり手を焼いているようだった。勢いですっかり負け、形勢はあっという間にひっくり返っている。

 渾身の力を込めて叩き下ろした大剣は虚空を切り、エフォールは後方に跳びながら片手の平をマック目掛けて突き出す。すると、マックの周囲にはその身を取り囲むように十は超える複数の魔法円が出現し、次の瞬間、顔を出してまだ間もない太陽が力強く輝きを放った――気がした。


「バ、カな……こいつッ……がああああぁっ!!」


 けど、気のせいじゃなかったらしい。魔法円に包囲されたマックの全身には、一瞬で業火が走った。まるで空で輝く太陽に焼かれるみたいに。

 相手を攻撃する魔術には火だの水だの様々な属性があるし、無能以外は習うことでそれらを使えるようになるけど、生まれつきの適正だとか才能がないと決して習得できない属性もあると聞いたことがある。それが、天属性。太陽だとか月だとか星だとか、それらの力を借り受けて放つ魔術で、今まさにエフォールがマックに向けて放ったのがそれだ。

 屋外にいりゃ誰だってその太陽の下に晒されてるわけだから、もし標的を絞る意味合いで魔法円を展開してなかったらオレやヴァージャも巻き込まれてた可能性が……ある。そのくらい広範囲を攻撃できる恐ろしい魔術だ。もしかしたら、オレはとんでもないやつを目覚めさせてしまったのかもしれない。


「マックさん! しっかり……!」
「なかなか、やるようじゃねえか……うるさそうな連中も来たみてえだし、今日はこのくらいにしておいてやるよ!」


 エフォールの姉ちゃんはその場に膝をつくマックの傍に駆け寄ると、忌々しそうに弟を睨み据える。マックは大剣を地面に突き立てることで身を支えるけど、野次馬たちの中にこの辺りの統治クランの姿を目敏く見つけたらしく、ひとつ舌を打ってから立ち上がった。

 こんな、下手をすると領地戦争とも思われかねない騒ぎだ。ここの統治クランも良識のあるクランみたいだし、これだけの騒動に対して素知らぬフリをするわけがない。さすがに分が悪いと判断したらしく、マックはエフォールの姉ちゃんの腰を抱くと大きく後方に跳び退いてこちらを睨みつけてきた。


「……なかなか、おもしれえ収穫もあったからな」
「いい気になっていられるのも今だけよ、エル! 私は絶対にアンタを許さないんだから!」


 マックに続くようにエフォールの姉ちゃんはそう叫ぶと、ぎゅ、とマックの身に抱き着いた。もう完全にウロボロスの一員になってしまったらしい。エフォールは――姉ちゃんを止めようとはしなかった。口唇を引き結び、複雑な表情のまま魔法陣に包まれて消えていく姉の姿を見送っていた。

 マックたちウロボロスの面々が転移術によって綺麗に姿を消して数拍、集まっていた野次馬連中の中から昨日の少年――ネロが飛び出してきた。


「フォル! 見てたぞ、お前やっぱすっげーんじゃん! 昨日あんなこと言ったけどさ、やっぱ戻ってこいよ! な? いいよな!?」


 あーあ、勝手なこと言ってら。そりゃ天属性を扱えるやつなんて滅多にいないだろうから、手放したくないのはわかるけどさ。あと、どうでもいいけど“フォル”なのか“エル”なのか愛称統一してくんないかな、ゴチャゴチャになりそうだ。


「リーヴェ、怪我は」
「……ないよ、大丈夫」
「まったく……」


 なんて考えてると、ヴァージャが声をかけてきた。屈んでいたそこから立ち上がって怪我の有無を確認してみるけど、特に痛むところはない。そこで、ようやく安心したようだった。珍しく安堵らしき息を洩らして目を伏せる。

 ……よくよく見てみると、ちょっと寝癖が立ってたりするし、余程慌ててたんだろうな。それにしても、イケメンって寝癖立っててもダサくないのずるくない?

 取り敢えず、エフォールのお陰でなんとか無事に終わったけど……安心してばかりもいられないな。一番知られたくないやつにヤバいことがバレちまった。今後どうするか考えておいた方がよさそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

ワケありくんの愛され転生

鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。 アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。 ※オメガバース設定です。

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

処理中です...