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第四章:呪われた天才少年
天才VS天才
しおりを挟むこの場がいくら街はずれであっても、朝っぱらからの騒動に街の住民たちが気付かないはずもなく。ヴァージャの後ろには野次馬らしき一般人たちの姿が見えた。その中にはアンサンブルのメンバーもちらほらと窺える。
ティラは思い通りにならない身に歯噛みしながら、自分の後方を睨むように視線を横に動かした。
「また、あなた……!? いつもいつも、邪魔をして……ッ!」
「またか、と言いたいのはこちらの方だ。いい加減お前たちの所業は目に余る」
忌々しそうなティラの声に、ヴァージャはいつもと変わらず涼しい声で返答をひとつ。次に片手をゆっくりと掲げると、ティラだけでなく周囲にいたウロボロスの面々も、まるで空から紐で吊るされるかのように宙に持ち上げられた。続いて磁力に引き寄せられたみたいにひと塊になってしまうと、門の方へと思い切り放り投げられる。
「きゃあああぁ!」
「な、何すんのよう!」
その拍子にヘクセやロンプから悲鳴と文句が上がったが、ヴァージャの方に特に気にしたような様子はなかった。代わりに彼らをひと睨みして一言。
「やれるだけの度胸があるのならかかってくるといい」
「うっ……」
ウロボロスのメンバーなら、ヴァージャの力も強さも痛いほどに知っていることだろう。スターブルの街でのあの騒動は、未だ記憶に真新しい。あのマックが赤子の手を捻るようなものだったんだ、自分たちが敵う相手だとは――誰も思っていないようだった。ヘクセやロンプはもちろん、ティラや他にいる二十人近い面々は一斉に押し黙ってしまった。
そして、マックは――馬乗りになられていた状態からは何とか脱したようだったけど、本来の力を取り戻したエフォールを相手にすっかり手を焼いているようだった。勢いですっかり負け、形勢はあっという間にひっくり返っている。
渾身の力を込めて叩き下ろした大剣は虚空を切り、エフォールは後方に跳びながら片手の平をマック目掛けて突き出す。すると、マックの周囲にはその身を取り囲むように十は超える複数の魔法円が出現し、次の瞬間、顔を出してまだ間もない太陽が力強く輝きを放った――気がした。
「バ、カな……こいつッ……がああああぁっ!!」
けど、気のせいじゃなかったらしい。魔法円に包囲されたマックの全身には、一瞬で業火が走った。まるで空で輝く太陽に焼かれるみたいに。
相手を攻撃する魔術には火だの水だの様々な属性があるし、無能以外は習うことでそれらを使えるようになるけど、生まれつきの適正だとか才能がないと決して習得できない属性もあると聞いたことがある。それが、天属性。太陽だとか月だとか星だとか、それらの力を借り受けて放つ魔術で、今まさにエフォールがマックに向けて放ったのがそれだ。
屋外にいりゃ誰だってその太陽の下に晒されてるわけだから、もし標的を絞る意味合いで魔法円を展開してなかったらオレやヴァージャも巻き込まれてた可能性が……ある。そのくらい広範囲を攻撃できる恐ろしい魔術だ。もしかしたら、オレはとんでもないやつを目覚めさせてしまったのかもしれない。
「マックさん! しっかり……!」
「なかなか、やるようじゃねえか……うるさそうな連中も来たみてえだし、今日はこのくらいにしておいてやるよ!」
エフォールの姉ちゃんはその場に膝をつくマックの傍に駆け寄ると、忌々しそうに弟を睨み据える。マックは大剣を地面に突き立てることで身を支えるけど、野次馬たちの中にこの辺りの統治クランの姿を目敏く見つけたらしく、ひとつ舌を打ってから立ち上がった。
こんな、下手をすると領地戦争とも思われかねない騒ぎだ。ここの統治クランも良識のあるクランみたいだし、これだけの騒動に対して素知らぬフリをするわけがない。さすがに分が悪いと判断したらしく、マックはエフォールの姉ちゃんの腰を抱くと大きく後方に跳び退いてこちらを睨みつけてきた。
「……なかなか、おもしれえ収穫もあったからな」
「いい気になっていられるのも今だけよ、エル! 私は絶対にアンタを許さないんだから!」
マックに続くようにエフォールの姉ちゃんはそう叫ぶと、ぎゅ、とマックの身に抱き着いた。もう完全にウロボロスの一員になってしまったらしい。エフォールは――姉ちゃんを止めようとはしなかった。口唇を引き結び、複雑な表情のまま魔法陣に包まれて消えていく姉の姿を見送っていた。
マックたちウロボロスの面々が転移術によって綺麗に姿を消して数拍、集まっていた野次馬連中の中から昨日の少年――ネロが飛び出してきた。
「フォル! 見てたぞ、お前やっぱすっげーんじゃん! 昨日あんなこと言ったけどさ、やっぱ戻ってこいよ! な? いいよな!?」
あーあ、勝手なこと言ってら。そりゃ天属性を扱えるやつなんて滅多にいないだろうから、手放したくないのはわかるけどさ。あと、どうでもいいけど“フォル”なのか“エル”なのか愛称統一してくんないかな、ゴチャゴチャになりそうだ。
「リーヴェ、怪我は」
「……ないよ、大丈夫」
「まったく……」
なんて考えてると、ヴァージャが声をかけてきた。屈んでいたそこから立ち上がって怪我の有無を確認してみるけど、特に痛むところはない。そこで、ようやく安心したようだった。珍しく安堵らしき息を洩らして目を伏せる。
……よくよく見てみると、ちょっと寝癖が立ってたりするし、余程慌ててたんだろうな。それにしても、イケメンって寝癖立っててもダサくないのずるくない?
取り敢えず、エフォールのお陰でなんとか無事に終わったけど……安心してばかりもいられないな。一番知られたくないやつにヤバいことがバレちまった。今後どうするか考えておいた方がよさそうだ。
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