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第四章:呪われた天才少年
旅は道連れ
しおりを挟む宿で朝食を終えて、今日から次の街に向かうことにした。
この調子であちこちでギルドの仕事を受けてたら、帝国領に着くまでにそれなりにクランの名も知れ渡ってるだろう、……多分。もう少し大きな魔物退治の仕事とか受けた方がいいのかな。けど、いくらヴァージャと今や秀才だろうフィリアがいても、あまり危険な仕事を受けるのはなぁ……。
「次はどこへ向かうのだ?」
「そうですね、次は北に向かってみましょうか。西に行った方が帝国は近いんですけど、今の状態だとたぶん帝国領には入れてもらえません。もっとあちこちでギルドの仕事をがんばりましょう!」
……そうだな、別に急いで帝国に行く必要もないんだよな。
できることなら、一日も早くフィリアを両親に会わせてやりたいけど、そもそも帝国領に入れないことにはそれも無理なわけで。それに、どうせ両親に会うなら、手柄を立てて堂々と会う方がいいよなぁ。
自分の愛娘がたくさんの人の力になってるって思ったら、両親だってきっと鼻高々だろう。あ、この方が断然いい気がしてきたな。両親メチャクチャ感動しそうじゃん、オレが親の立場だったら娘が誇らしすぎて泣いて喜ぶぞ。
「そうだな、その方がフィリアも嬉しいだろう」
なんて一人で考えてると、宿の店主と宿泊代の精算を始めたフィリアの傍を離れてヴァージャが傍に寄ってきた。もうこいつが人の頭の中と会話をしてるのは突っ込まないことにする。わざわざ口に出さなくても会話が成立するのは便利な部分もあるし。
「リーヴェ、何度も言うようだが」
「わかってるよ、傍を離れるな、だろ。……今回は、その……一刻を争いそうなことだったからさ」
「ああ、わかっている。だが、今後は何があるかわからん」
フィリアが言うように、確かにマックから他に漏れることはなさそうなんだけど……問題はあの場に居合わせたウロボロスの連中だよな。余程のことがない限りはマックを裏切ろうなんてやつはいないと思うんだけど、それも絶対とは言えないし。
「今回のようなことが今後もあれば、その時は私を起こせ。お前はおかしなところで変に遠慮をし過ぎる」
「遠慮っていうか……疲れてるかなと思ったんだよ。ここんところずっと魔物退治だったろ」
「あの程度で私が疲れるものか。例え疲れていようと、お前の頼み事なら疲労など関係ない。相棒に頼られて嫌な想いをする者はそうそういないだろう」
なんて言うか、今までが今までだったから慣れないんだよな。ミトラや子供たちは別にしても、損得抜きに付き合える人間関係っていうのがなかったから、どこまでがよくてどこからが駄目なのかがまったくわからない。いや、それを抜きにしたって、こいつ絶対に人を駄目にするタイプだぞ、そんなこと言われたら何から何まで頼っちまいそうじゃん。……まあ、あんまり心配かけるのもアレだし、今後はちゃんと頼らせてもらうけどさ。
「お待たせしました! それじゃあ、行きましょうか!」
そこへ、会計を済ませたフィリアがやってきた。現在の時刻は昼の少し前くらい、出立には少し遅いかもしれないけど、別に急ぎの旅でもないしな。
先に宿を出て行く彼女の後にヴァージャと共に続いたものの、その足は宿の建物を出て早々に止まることになった。
「あ、よかった。みなさんまだ発ってなかったんですね」
なぜって、宿の外のガーデンベンチにエフォールが座ってたからだ。こちらに気付くと、その顔に嬉しそうな笑みを浮かべて立ち上がった。その様子と言葉からしてオレたちを待ってたんだろう。気になるのは、艶やかなその金髪がやや乱れてボサボサになっていること。まさか、また何かに巻き込まれたのか。
「おま……どうした、何かあったのか?」
「無理は承知で、僕もみなさんの旅にお邪魔させて頂けたらと……思いまして」
「い、いいんですか!? でも、アンサンブルの方は……?」
「戻ってこいって言われましたけど、断りました。お陰でネロには随分とやられましたよ」
ああ、ボサボサになってるのはあのネロってリーダーに猛抗議されたからか。あの坊やにしてみれば、戻ってこいって言ったら戻ってきてくれると思ってたんだろうなぁ。それはちょっとかわいそうでもあるけど。
「でも、いいのか? ご両親は?」
「見聞を広めるため、って言ったら了承してくれました。みなさんと一緒に行けば、きっと姉さんにもまた会えると思うんです、会ってどうするかは決めてませんけど……それに、リーヴェさんのことがバレてしまったのは僕のせいですし、またあの人たちがリーヴェさんを襲ってきたらと思うと居ても立ってもいられなくて」
「いや……それは気にしなくていいんだけどさ」
マックの話からして、フィリアの治療をしたのをティラに見られてたわけだから、今回のことがなくてもああなってたんだろう。だから巻き込まれたとかそんなんじゃない。むしろ、こっちの事情に姉ちゃんを巻き込んじまったのが申し訳ないくらいだ。
「そういうわけなので、お邪魔じゃなかったらよろしくお願いします」
「もちろんです! これで私たちのクランにも箔がつきますね……!」
深々と頭を下げるエフォールに対し、フィリアは二つ返事で了承を返してしまった。一度ヴァージャと無言で顔を見合わせてみるけど、その整い過ぎた顔面に反対の色は微塵も見えない。まあ、リーダーはフィリアなんだし、彼女が大歓迎してるならいいんじゃないか。
それはそうと、箔がつくとか本人の前で言うなよ。っていうか、十歳でそんな言葉よく知ってたな。
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